モンブラン その1
ここは小都市モンブラン、温暖な気候と肥沃な大地を持つ周辺の地域から多くの農産物が集まる。手工業による伝統的な織物はこの都市の名産品だ。また郊外ではビールやワインなどの酒造が盛んであり、年に一度の収穫祭ではそれらの成果を味わうことができる。
モンブランは都市全体を囲む外郭と重要施設を囲む内郭があり、内郭の外側は比較的セキュリティが緩いが、内郭の内側に入るには身分認定証や許可証などが必要になってくる。
住民のほとんどは外郭のエリアもしくはその外側に居住しているが、貴族や帝国関連者の宿泊施設は内郭に存在しており、この都市も帝国の勢力圏であることを示している。
ここはモンブランの外郭前、この都市を訪れる人は必ずここを通る。よって常に露天商などがここに店を出しているが、多くは無許可であり、法外な料金を吹っかけてくることもある。勘太達はちょうど外郭前に到着したところである。
「ここがモンブランか。クリーム色の外郭が美しいな。そろそろ陽が最も高くなる頃だし、飯屋でも探そうか。トンチボは来たことがあるんだろう?良い店とか知らないか?」
勘太はトンチボに尋ねた。
「そうでさね。昔よく行ってた酒場がまだやってるならそこが良いですがね・・。ちょっとあそこの露天商に話を聞いてみますかね。」
そういうとトンチボは壮年の恰幅の良い露天商のところへ行って何やら交渉を始めた。10分ほど待った頃に、トンチボが嬉しそうに帰ってきて、
「いやあ運が良いですね旦那様。あっしが行きつけだった酒場、今も元気にやってらっしゃるそうですよ。7番通りにありますからそこへ行って昼食にしやしょう。」
と言った。
酒場コルシカ。飲食街が立ち並ぶ7番通りにある穴場的な酒場。ビールなどの安酒があまり置いておらず、広い店でもないため大人数で飲んで騒ぐのには向いていない。この店のハムは実に甘くとろけて絶品だ。主人の腕が良いため美食を酒とともに嗜みたい人が好んで訪れている。
「美味い!なんだこのハム!美味すぎるぞトンチボ!」
勘太はあまりのおいしさに思わず叫んでしまった。
「おいおい静かに食べてくだせえよ。紳士の嗜みってのがないんですかい?そりゃ美味いのはあっしもよーく知ってますけどね。」
トンチボは子供の表情を見せる勘太に若干呆れつつもその顔は微笑んでいた。
すると主人がやってきてトンチボに言った。
「久しぶりだなあ。”猪狩り”。」
「その呼び方はやめろ。俺はそれを気に入ってないんだ。」
露骨に不快そうな表情をトンチボは主人に向ける。
「ははは、そう怖い顔するなよ。久しぶりに会ったのにさ。二年くらいだったか?お前がモンブランを去ってから。」
「三年だよ。」
トンチボがぶっきらぼうに言い放つ。
「そうだっけ?あの時は故郷が危機に瀕しているとかそんな理由でモンブランを出ていったが、その危機とやらは解決したのか?」
主人は気さくに話を続ける。勘太は二人が友人なのではないかと思った。
「あの時の危機はなんとかしたが、問題は何も解決しちゃいないさ。希望はあるかもしれねえってとこだ。食ってる時にそんな話をするんじゃねえ。不味くなるだろうが。」
トンチボはそういうと手振りで主人を追い払った。
「なあトンチボ。あの主人は何の話をしていたんだ?」
勘太はトンチボに尋ねる。
「旦那が気にするこたあないですよ。こっちの事情なんですから。旦那は旦那のやるべきことをやれば良いんでさあ。」
トンチボの言い方にはあまり踏み入って欲しくなさそうな気配が感じられたので、勘太はそれ以上の追及はしないことにした。




