第11話~あどけない恋~
「ヴァイオレット。やっぱり、プロゲーマーにならない?」
今まで通りの関係を保てると安心していたのも束の間、ブルークの一言に私は凍りついた。
訳もわからず混乱していると、ブルークは申し訳なさそうに話し始めた。
「僕らが特別な関係ではないと運営を通して公表してはいるけれど、それだけじゃあこの騒ぎはおさまらない。そこで、社長やマネと話し合ったんだ。ヴァイオレットのリアルでの生活に支障が出ないようにするにはどうすればいいか。その結果、ヴァイオレットがアマチュアじゃなくなればいいんじゃないかということになったんだ。もとはといえば俺の責任だからね。ヴァイオレットのことを周りに迂闊に話しすぎた。ごめん」
と、さっきの言動とは裏腹に真面目な口調で話し始めるブルーク。確かに私たちを知る人たちは私たちが特別な関係ではないと知っているだろうけど、何も知らないリスナーの人たちからすれば裏切られたと思うのは仕方のないことだと思う。それを解消するためには私も、ブルークと一緒にこの騒ぎの責任の一端を担う義務がある。これまでプロゲーマーになるのを断っていたのは私がプロとしてやっていけるのか心配だったからだ。ブルークに勝率4割取れない私がプロになれるのだろうか?、と
「ヴァイオレットは強いよ、そこは保証する。俺相手に勝率4割取れるやつが日本に何人居ると思う?」
と、私の不安を見透かしたように話すブルーク、それでも不安だ。それに、
「私まだ高校生だよ?勉強もあるし、仕事と両立するのは難しいと思う」
そう、私はまだ高校生だそれにもうすぐ三年生。大学や就職、いろんなことに気を配る必要が出てくる、今まで通りの生活を送ることはできない。
「確かに高校三年は人生のターニングポイントだと言ってもいいほど重要な時期だ。でも、知ってる?ヴァイオレット」
「何を?」
「来年度からとある大学が建てられるんだ。プロゲーマーを志望する全ての人たちの援助を顧みない大学、日本プロゲーマー養成大学」
「めちゃくちゃ安直なネーミングだね」
「こういう名前つけるの苦手なんだよね」
「?ブルークが名付けたわけじゃないでしょ?」
「いや、実は俺がつけたんだよね」
「……..どういうこと?」
「俺が大学を作ろうって言ったんだよ」
「え?なんで?プロゲーマーは腐るほどいるでしょ。今更そんなことする必要あるの?」
「あるんだなぁこれが。去年のWGCは見た?日本は名だたるプロゲーマーを連れて出場するも蹂躙された。かくいう俺も得意のバトロワでさえ2位だった」
もちろん私はリアルタイムで見てた。
World games collection 略してWGC。バトルロワイヤル、格ゲー、RTAの三種目からなる世界規模の大会。いわばゲームのオリンピックだ。ブルークは2位、それでもすごいと思うけど本人は納得していない様子。
「それが何か関係あるの?」
「大ありだよ、今の日本はプロゲーマーの質が悪い。俺も含めて、ね」
「そんなことない、ブルークは強いよ」
「慰めはいらな「慰めなんかじゃない」
そう、決して慰めなんかじゃない。
「今自分が何言ってるかわかってる?さっき私に何言ったかもう忘れたの?ブルークが弱いならそれに勝率4割取れない私はどうなるの?」
ハッとした表情を見せるブルーク。
「ごめん、」
「ううん、こっちこそごめん。話続けて?」
「あぁ、そんなわけでもっと強いプロゲーマーを養成することが今後の日本人ゲーマーの課題だと思ったんだ。そこで俺が社長に無理言って大学作成に協力してもらったんだ。もちろんお金は大体僕持ちでね」
「こんなところで金持ち自慢されてもねぇ」
「はははっ」
「ふふふっ」
やっぱりブルークといると楽しい。でも、このままだとブルークから離れないといけなくなる。それは嫌だ。……..私は、何を怖がっていたんだろう?…….あぁ、そっか。それなら、
「いいよ」
「ぇ」
「プロゲーマー、なるよ」
「ホントにっ?!」
「うん、それにゲームはまだしてたいしね」
「ははっ、ヴァイオレットらしいね」
私は今まで実力不足を理由にプロゲーマーへの誘いを断っていた。それは間違いではない。
そう、実力不足でブルークと離れることになることを恐れていた。でも、このままではブルークと離れなくてはならなくなる。それなら、いっそプロになってブルークにふさわしい人になってみせる。
サブタイトルのあどけない恋というのは菫の花言葉からとりました。これがしたいがためにすみれって名前にしたまであります。以上、設定小話?でした。