考え事にはカロリーが必要
引き続きよろしくお願いします。
「あっー!あっー!あっー!はい!はい!はい!はい!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!インターホンがないのでノックで失礼しますぅ。泥田さんー!泥田さんっ?盗ったもん返してくださいようー!今、返してくれたらボスがチャラにしてくれるそうですよぉ〜。ちょっと出て来て、お顔を見せてくださいよ!もしかして、まだ寝てます?じゃあ、もっとノックしますね!?ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!おはようございます!おはようございます?もう、夕方ですよー?あっじゃあ、こんにちわですね!こんばんはは、もう少し暗くなってからですね。こんにちわとこんばんはの境目は難しいですねぇ!ねぇ、泥田さん!ねぇ、泥田さん?」
腰まであるピンクの髪、針金のように細い体の男がいた。髪の毛を振り乱し、古びたドアを叩きつけ、蹴り上げている。
まきちゃんに聞いていたよりも危ないやつが泥田家前にいるな。ガチャガチャと音を立てて乱暴されるドアが壊れるのが先か、居留守に耐えかねて男が立ち去るのが先か。前者の方だろうな。拝借したおやつを食べながらぼんやり考え、パンと牛乳を3つずつ飲んだところで行動を起こす。
このままでは埒があかないので、とりあえず泥田くんとコンタクトを取ることにする。アパートの裏に回り込む。アパートにはベランダは無く、小さな窓と柵があるだけだった。窓の上に洗濯竿が付いており、アパートの住民はそこに洗濯物を干している。泥田家の窓を見つけた。端っこの小さくヒビが入り、黄ばんだ磨りガラスの窓をゴール地点とし、アパートの隅に設置されている露出配管をよじ登る。手を伸ばせば泥田家の窓の柵に手が届く。柵にぶら下がり、宙吊り状態になるとミシリと錆びた柵から悲鳴が聞こえた。右足を持ち上げ、柵にひっかけ身体を持ち上げる。柵の上に乗り、片手で洗濯竿を持ちバランスを取ると窓をノックする。ガタリと音がし窓が横にスライドした。
「こんちわ」
「何をしてるのっ!」
と泥田くんは、朝と変わらず代謝の悪そうな顔をして声をあげるのでシッーと人差し指を立てる。部屋の中は真ん中に小さなちゃぶ台、左横を覗くと布団が敷いてある。布団の真ん中に大きな山があり、規則正しい起伏を繰り返しており、微かにイビキが聞こえてくる。靴を片手に持ち、傷んだ畳の上に足を下ろすと泥田君の後ろに隠れていた妹さんと目があった。ランドセルを開け、パンと牛乳を見せるとこちらに駆け寄って来た。
「本当に持って来てくれたの」
泥田くんは信じられない感じだった。
「朝、ゆうくんと粘着質に約束してたでしょ。ゆうくんは呼び出しくらってるから、あとで「ピンポン!ピンポン!ピンポン!オハヨー!起きてー起きてー!」
この状況でも布団にできた山は規則正しい起伏を繰り返している。
「この状態で寝れるお父さんすごいね」
と言うと泥田くんは項垂れた。
よろしくお願い致します。