ろくなやつがいない
よろしくお願いします。
「ぼちぼち人が集まっているね」
いつも無表情なゆうくんに言うと、
「あと、泥田くんだけだよ」
少し離れたところにいた高学年の集団の中に班長 柳学とが忌々しげに舌打ちをした。柳の周りにいるのは取り巻きで柳よりも体がひとまわりもふたまわりも小さかった。
「また、あの臭いやつかよ、また、向かいに行かなきゃいけねえ」
泥田くんは、だいたいいつも同じ服を着ており、近くによると少し酸っぱい匂いがする。誰かが隣にいるといつも申し訳なさそうな顔をしているガリガリの男の子だ。
やっぱり、制服の方がいいよな。
柳は周りを見回し、
「おい、並べいくぞというという」
柳は身長が既に170センチ近くあるやつで学校の教師よりも背が高く、態度がでかいだから、言われたことに従わない人はいなかった。ときどき、柄の悪そうな中学生、高校生についてまわっているのをよく見る。周りがおどおどしながら並び、進み始める。
「泥田くんは?」
そう投げかけると、周りの子供たちがギョッと目を見開いたり、顔を青くする。
柳はこっちを睨みつけ、
「行きたきゃ行けよ、あんなボロい、変な家ひとりで行けんのか?あそこはなぁ、変な奴がたくさんいるとこだぞ、お前みたいな奴が行くと何されるかわかんねぇなぁ」
「はぁへぇー何かって?」
何かってのはよぉ ひひっ
周りの柳の取り巻きも顔を歪めて、ニヤついている。
下品なやつとは関わりません。
踵を返し、泥田くんの家に向かう
後ろからなにやら罵声が聞こえるが無視して、足を進める。
集団登校の長者の列とは逆方向に向かうので、視線が痛いなぁ。
後ろから、カタカタと音がし、後ろを振り向くと重いランドセルと矮躯な体を上下に揺らしながら、ゆうくんが追いかけてきた。
追いついたゆうくんは隣に並び、歩幅を合わせて一緒に進む。息は全く切れておらず、逆方向に進む列の視線なんてなんでもないですよーという感じだ。
「無理しなくていいよ」
「してないよ。女の子を1人であそこはちょっと危ないから」
「フェミニストだな。」
「年齢にそぐわない言葉は使わないでね。ついて行けないから」
「えっ?ごめんね」
悪いことしちゃったな
「いいよ。気にしてない」
じゃあ、謝らなくてよかったな。ゆうくんは何にも気にしてないよという感じで足を進める。
「うん、なんだろ。あれだよ。習慣みたいな」
「女の子に優しくすることが?」
「いや、徳を積むこと」
「宗教的理由かぁ。え、ほんとに?
いきなりデリケートだな。宗教、政治、結婚、妊娠、セクシャリティは、絶対に自分から周りに触れない話だ。この手の話題は、下手に触れたらダメなんだよ。
「来世は、まともな人間に囲まれて生きていきたいから」
そんなゆうくんの表情はいつも通り無表情だった。
「そっか」
そう、ゆうくんは、子供が育つには相応しくない環境で育っている。そんな話をゆうくんの口から聞いたことがある。住んでいる家は大きな塀で囲まれた豪勢な作りをしている。表向きは、裕福な家庭だ。
「周りの人達には、ご両親のことなんて言ってるっけ?」
「輸入雑貨を扱っているって」
だいたいあってる。
「本当に僕の周りには、ろくな人間がいない。来世のために徳を積まなきゃ」
前世で罪を犯しまくった自分が健全な小学生をやってるから多分、彼のやっていることは無駄な努力だ。でも、人間は生きて、死んだだけでは終わらないことをしている。自分の手で多くの命を触れてきたから。今の自分がいるから。
ぼんやり考えているとゆうくんは、自分よりも先を歩いていた。いつも無表情のゆうくんは、こっちを振り返って
「麦ちゃんはちがうよ」と言った。
そんなゆうくんは、少し微笑んだような気がした。気のせいだ。彼はそういうことはできない子だから。
かわいそうな、ゆうくん。
仲のいい友達でさえ、ろくでもないやつ(殺人鬼)だ。
頑張って書いていきます。
よろしくお願いします。