捨て犬の面倒は最期までみましょう。
これからもよろしくお願いします。
「まっとりあえず、暫く一緒にいてもらうぜっと」よその家の塀を器用に渡るまきの姿は悪戯好きの小学生の頃のようだった。
「自分を助ける義理なんて君にはないってのに、いいの?」
「いいさ。俺たちゃ余計なお節介をする様にできてんだ。人ひとり守るなんてなぁ朝飯前ってもんさ」
今度は逆立ちをしながら塀を歩く。まきは体幹が良く、ブレもない。
「じゃあ、遠慮なく頼もうか。君は暫くお客さんとしてうちにいてよ」
「こっちの住処に来させようと思ったけど、それでもいいのか?セキュリティえげつねえほどいいぜぇ」
「殺されることは決まっているから一般家庭の家にいた方が相手を油断させておびき出せるよ」
「やり合う覚悟ができてるたぁ。感心するぜ。」
ふと視線を感じ、後ろを振り向くと四つん這いで歩く元薬中がいた。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁっ!あはあは」
地面にポタポタと血は流しながらついてくる。窓から落ちたときの傷だろうか?思っていたよりも軽傷だった。
「いいのか?あいつ」
「うーんなんとかしなきゃね」
指を口にあて、ぴーと鳴らす。
「いや、犬じゃねぇぞ」
「ハッハッハ!」
音に反応した元薬中は従順な犬の如くこちらに駆け寄る。ピンクの髪を振り乱し、すっかり主人に心酔しているようで、顎を麦の手に顎を乗せた。
「よちよちいいこいいこ」
その姿に満足したようで麦はちいさな手でピンクの頭を掻き混ぜる。
「人間の尊厳が」
哀れみの目はおそらく正気を取り戻しているだろう男に向けられた。