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目撃者0 死亡者0

よろしくお願いします

災難続きの薬中さん。

階段から誤って落ちて、頭を強打し、正気を取り戻したかと思えば、また災難が忍び寄る。右の前脚がひしゃげた黒い犬が忍び寄る。大の字に寝転んだ薬中は気配を感じ、右を向くと瞳孔が開いた目と目が合う。

ふっー ふっー ふっー ふっー ふっー


ふっー ふっー ふっー ふっー ふっー


ふっー ふっー ふっー ふっー ふっー


ふっー ふっー ふっー ふっー ふっー


ふっー ふっー ふっー ふっー ふっー


ふっー ふっー ふっー ふっー ふっー


ふっー ふっー ふっー ふっー ふっー


ふっー ふっー ふっー ふっー ふっー


荒い息が顔に直接かけられる程近くまで忍び寄った黒い犬。口からは獰猛な犬歯が覗く。血と涎が滴る口が大きく開かれた。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!!」

ピンクに染められた頭に噛みつかれ、そのまま引きずられる。長身の男がぼろぼろの黒い犬に引きずられる姿をのんびりと上から観察しているのが現役小学生 好実 麦(このみ  むぎ)(元連続殺人鬼)であった。

「あー感覚鈍ったなー。上手いこと事故に見せかけたかったのに。でもこの状況は棚ぼただな」

アパートの敷地内にて長身痩躯の男が黒い犬に引きずられている光景は通報騒ぎだが、運良く誰もこの状況を見ているものはいなかった。

アパートの二階、廊下にてぶつぶつと麦は呟く。前世ではそれなりに名を轟かせた殺人鬼もブランクにより感覚は鈍っていた。

偶然、バランスを崩して 

偶然、階段が劣化していて 

偶然、体重をかけた段が抜けて 

偶然、運悪く死んでしまう

などという筋書きには、ならなかったがこのまま犬に食い殺されてくれないかと麦は考える。


とそこに自分と同じ黄色帽子を被り、黒いランドセルを背負った姿が目に入る。

ゆうくんこと不死暮 遊(ふしぐれ  ゆう)の姿だ。

(ゆう)くーん、右向け右」

体育の授業で習ったように右足の踵、左足のつま先を使い、綺麗に90度の方向に向き、左足を右足に揃える。そして、黒い犬と目があった。無表情の顔にピクリと痙攣が走った。格下を相手にする際、遊はいつ何時も油断はしなかった。黒い犬は駆け出す。長身痩躯の男は抵抗する様子もなく手はだらりと力を失い、されるがまま引きずられる。

小さな拳を握りしめる。小学1年生の作った拳などまるでクリームパンのようにムチッとしていた。ボクシングのように対戦相手に攻撃を繰り出す際のようなフォームはなく、足を肩幅開き、直立不動。肩を軸に下から上へ振り上げられた拳は薬中長身痩躯の男を引きずりながら向かってくる黒い犬の下顎にクリーンヒットホームラン。黒い犬も薬中も天高く吹っ飛ばされた。空高く飛ばされ、麦の視力では見えなくなった頃、遊に目を向ける。遊はこちらを向いて得意げに袖をまくって力こぶを見せつけていた。勿論、無表情のままで。今回からの一連の騒動は遊による一発の拳で肩がついた。そう、呆気なくも早急に。

「うわははっ」

これが一般人の日常だろうか。麦の思わず笑ってしまった。

「ひっーひっー!なっなにが起こったの?」

満身創痍の泥田兄妹が玄関先扉の下から這い出てきた。よかった、無事に生きている。

「うわはははっ♪」

誰も死んでいない。麦も友達も生きている。これが平和な日常というものかとまた自然と笑みが溢れてくる。


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