騎士団長に任命されたけど、嫌なのでさっさと辞めたい 2
本日の天候は快晴! いい天気じゃないか。農業日和だ!
私は今、広大な土地を騎士達に耕させていた。コルネスには無駄な土地が多すぎる。多くは戦場となった所だが、皆幽霊やら心霊現象やらを恐れて手を入れるのを拒んでいたためだ。
アホどもめ、心霊現象なんぞ無いわ!
死者は蘇ったりしない。幽霊などの類は、その土地から出る電磁波が脳に影響を及ぼし幻覚などを見せる……というのは科学的に証明されている。
今私は騎士達が耕している畑を視察に来ていた。皆いい汗を流してるようで大変に結構よ!
ククク、だがこれは勿論私の作戦の一つ。
騎士から剣を取りあげて、代わりにクワだのスコップだの与えてひたすら農作業。
不満の声が出ない筈が無い。
その内、あの騎士団長を引きずり降ろせと声が上がる筈だ。特に騎士としてプライドの高い貴族系の所から出れば一発で……
「騎士団長、今回の開拓の提案、見事としか言いようが無いですね」
「……はい? いや、あの……ゼルスさん?」
「正直、最近は目立って騎士の出番がありませんでしたから。まあ、それ自体は平和でいいのですが……騎士達は力を持て余していたのも事実。そしてここに来て大規模開拓計画。騎士の間ではすこぶる評判ですよ、綺麗なツヤツヤの野菜が収穫すると超嬉しい……と」
いやちょっと待て。
私が想像してた展開と違うぞコレ。
「で、でもゼルスさん! 騎士って剣を持ってこそじゃないですか! いつまでクワ振らせる気だーって不満がその内……」
「あぁ、心配ありませんよ。剣も含めて、武具はそれぞれ元々は農具だった物が大半ですから。扱い方が似てるんです。例を言うと……大鎌のミーアキャットという二つ名を持つ騎士をご存じかと思います」
いや知らんわ! なんだその取ってつけたみたいな異名は!
「彼はその体躯に似合わず自身よりも大きな大鎌を巧みに操る……いわば一種の才能の持ち主。ご覧ください。今彼は、いかんなくその才能を発揮しています」
ゼルスさんが指さす方へと目を向ける。
そこにはどでかい鎌で雑草を狩りまくる少年の姿が……。
「しょわぁぁぁぁぁ! かかってこい雑草共! 僕が狩りつくしてやるぅぅぅぅ!」
まるで台風のように鎌を振り回し、雑草を根本から狩りつくしていく。
なんてこった、すげえ。
「そして次に……巨斧のプレーリードッグ。彼女には土の中に埋まっている岩などを取り除く作業を……」
その時、なんか凄い地響きが。
な、なんだ、地震か?!
「彼女です。ちょうど地面から巨大な岩を取り除いたみたいですね」
ゼルスさんの視線の先……そこには、巨大な斧の先端に岩を突き刺し、片腕で軽々と持ち上げる女性の姿が……。
そんな馬鹿な。あの岩……何メートルあるんだ……。
というかどちらも本来の使い方からかけ離れてるんですが。
「如何ですか? 騎士達も自身の才能を存分に振るう事が出来て満足していると思われますが」
※ひたすら脳筋って事を再認識しましたーっ☆
《誘惑されちゃう!》
騎士達のおかげで? 私の大規模開拓作戦は大成功を収めていた。
近年食糧不足の地域も増えている事から、供給も出来て良き良き……らしい。
しかし私はくじけない。騎士達がこぞって農業やってるんだ。本職で農作業している人達からすれば、ただただ目障りでしかない筈! だって騎士達が作った野菜はほぼほぼ無料で配っている状態だ。そんなんだと需要と供給のバランスが崩れていくに違いない!
私は早速と騎士団長の仕事部屋へと戻り、ゼルスさんへと打診する。
本場農業の人達の反応を調べよ! と。
「承知しました。確かに暴動が起きても不思議ではない状況です」
うむぅ。これで本当に暴動が起きれば、ちょっと罪悪感はあるが私は無事に騎士団長クビになれる。
ククク、怒り狂え、農業の民よ! そして我を救いたまえ!
数日後!
「騎士団長、例の調査の結果が……」
おう! 待ってたぜ!
さあ聞かせておくれ! 農夫達の怒りの声を!
「こちらをご覧ください」
ゼルスさんから手渡される色紙。
ん? 色紙? なんぞこれ。高校を卒業する先輩に贈るみたいな寄せ書き……
『ありがとう、ありがとう!』
『おかげで税を納める事が出来ました!』
『素晴らしい政策、眼福の極みでございます』
……ちょっと待て、どこにも怒りのメッセージ無い!
「ゼルスさんよ! これどういう事!」
「騎士団長へのお礼の言葉の数々です」
いや、なんでこんな事になってるの?! 脳筋騎士達が仕事奪ったから……彼ら怒り狂ってる筈じゃ!
「騎士団長、お忘れですか? この国は騎士の国。平民、貴族問わず、まずは騎士の道を猛進するのが当たり前になっているのです」
「え? ま、まあ……私もそれで騎士になったし……」
「そうです。それは騎士団を強化するというメリットもありますが、他の職業へと就きにくいというデメリットも当然あります。つまり……この国には圧倒的に足りなかったのですよ。生産者が」
にゃ、にゃんだと!
「そんな背景で農夫達にかかる重圧は半端では無かったという事ですね。かなり過酷な労働条件だったようで」
いや、でも……野菜売れないと食っていけないでしょ!
「問題ありません。今回の開拓で量を作る事には成功しました。しかし元々ド素人集団の騎士が作った野菜なんです。質に問題があります。そこで貴族達を中心に、本職の農夫達の野菜の貴重さに気付いたらしく……今までの倍以上の値で取引されているとか」
な、なんてこった……騎士達がもっと美味い野菜を作っていれば……。
「ハッ! ゼルスさん! なら本場の農夫達に指南を求めて質のいい野菜を……ってー! それじゃあますます私の評判上がるじゃん!」
「見え見えの魂胆の本音が出ましたね。いい加減、観念して下さい」
うぅ、やだやだ、騎士団長ヤダ!
もっと、何か無いのか?! 私が騎士団長クビになる方法は!
※今回のご褒美としてイチゴタルト作ってもらいました! 美味しい!
《魔術師!》
国の主だった幹部が集まる会議で、国王陛下に褒めちぎられた私。
はぅぅぅ、胃が、胃が痛い……。なんてパワハラだ。もう私の精神はギリギリよ!
「もし、失礼いたします、騎士団長」
会議から帰る途中の廊下で、一人の男が話しかけてきた。
紫色のローブを身にまとい、全身に入れ墨の入った……背の高い美少年。
「え、なんすか……私今、国王からパワハラ受けてもう精神がガッタガタで……」
「おいたわしい限りです。して……騎士団長殿、貴方にご相談があります」
むむ、なんだい。
「私はこの国で魔術に携わる者。しかしこの国は騎士の国。魔術師など幹部会には出る事すら敵わず、ひたすら日陰者の存在。正直な所……騎士団長殿、貴方は私達にとって目障りな存在なのですよ」
「ほへー……そうなんだー」
「何その反応。まあいいです。それより……騎士団長殿、これをご覧なさい。これは貴方の未来を映し出す水晶。私の占いによると……貴方は将来、その地位を剥奪され実家にお帰りになる事でしょう! あぁ、なんで惨めな!」
え、マジで。
「ククク、しかし私の言う通りにしていれば、この予言を回避出来るでしょう。さあ、というわけでこれから私の言う事をしっかり聞いて……」
「いや、無理」
※丁重にお断りしましたーっ☆
《魔術師2!》
はぁ……今日も会議で褒めちぎられた……もう私の胃は限界……
「き、騎士団長殿……ご機嫌うるわしゅう……」
「ぁ、こんちゃっす」
「その御様子だと……余程座り心地のいい椅子のようですな、その大きなお尻を乗せている家具は」
なんちゅう言い回しや。
セクハラだ。
「しかし、今にも引きずり降ろされるといった御様子。今こそ私の助言を聞きなさい。さすれば、貴方はいつまでもその大きなお尻を支える事が出来るでしょう」
「だからいいっつーの。あとそれ以上セクハラしたら叩き斬るぞ」
「おお、怖い怖い。フフ、青い鳥に気を付けなさい、騎士団長殿」
青い鳥? 何のこと……ってー! 消えやがった! 凄いな、今の魔術か。
「騎士団長! ここに居ましたか!」
その時、なんかごつい……ランニングシャツ姿の男が走り寄ってきた。全身泥だらけだ。
「え、誰っすか……」
「アレクサンダーと申します。現在は大根の栽培を担当させて頂いております」
あぁ、騎士か。大根美味しいよなぁ……煮込んでホクホクにして……
「それよりも騎士団長殿、大変な事が起きているのです!」
「え、何?」
「巨大な青い鳥が、野菜を貪り尽くしているのです! このままでは畑の危機!」
その時、私はピーンときた。
魔術師が言っていた青い鳥とは……その事か! えらくドストレートな助言だな。
「じゃあ……放置して」
「は? いや、なんと?!」
「放置! 鳥さんだってお腹空いてるの! 食べさせてあげなさい!」
数日後!
騎士団長室で一人、緑茶を啜る私。
そういえばあの青い鳥……どうなったんだろ。放置しろとは言ったけど……
「騎士団長、大変な騒ぎが起きていますよ」
むむ、ゼルスさん。何が大変だって?
「青い鳥です」
お、待ってました!
野菜食いつくして大変な騒ぎ? もう、なりふり構ってられん。放置しろと言ったのは私の完全な致命的ミス。クビになるときが来たか!
「実はあの青い鳥は……同盟国である隣国……ウェルセンツの妖精だったようで。討伐せずに正解でした。もし討伐していれば戦争に発展していたかもしれません」
「……は?」
「ウェルセンツは妖精に守護されし聖騎士の国。その中でもあの青い鳥は、王族にとってかけがえのない存在だったそうで……。ウェルセンツの国王から感謝状、および是非騎士団長を招致したいと……」
な、なんてこった……。
あの魔術師、私を見事にハメやがった!
あんな助言さえ無ければ、普通に討伐してたのに……!
今度会ったら……ただじゃおかねえ!
※殴りに、いうこうかーっ!
《魔術師 3》
フゥ……相変わらず国王からのパワハラはんぱねえ。
もう駄目だ、今夜あたり胃に穴が……
「騎士団長殿……ご機嫌うるわしゅ……ブゴファ!」
「出たなイケメン魔術師! 殴るぞ!」
「もう殴ってますがな……」
いきなり声掛けてくるからだ!
というかお前のせいで酷い目にあってんだ、こっちは!
「酷い目? な、何を……。私の忠告を無視し、大手柄を上げられたそうじゃないですか」
「うるさいうるさいうるさい! もう我慢ならん。今度余計な事言ってみろ、女性騎士の更衣室に放り込むぞ」
「それは死刑宣告ですね……。それより騎士団長殿。もう貴方に正攻法は通じないと悟りました。というわけで強硬策に出ます」
むむ、なんじゃ?
「貴方は……次の瞬間、目にした男性に惚れてしまいます。即ち私に! 3,2,1,キュー!」
「騎士団長、ちょっといいですか」
んぉ、ゼルスさん。なんじゃ……って、あれ? ゼルスさん……なんか……いつもよりエロく見える……。
「ぐぉぉぉ! 私の魔術の邪魔をするな!」
「……なんですか、その人」
「そ、そんな事よりゼルスさん……お仕事しましょう! 今日は私の寝室で!」
「はい? 何を言っているんですか」
いいから! 今夜は寝かさないぜ!
※ビンタされたら目が覚めました
《魔術師 4》(しつこい)
「騎士団長……殿」
うわ、また出たな、魔術師。
お前のせいでゼルスさんに思いきりビンタされたじゃないか。
「もう正直に言います……どうか魔術師達に優しい国にしてください……」
「あぁん? 散々私に酷い事しておいて……何言ってんだ」
「お願いします……魔術で騎士団長殿のお望みを何か一つだけ叶えます。勿論私に出来る事だったらの話ですが……」
望み? そんなの一つしかない。
「じゃあ……あんたが騎士団長やって」
「かしこまり……って、えぇ?!」
「言った! 今、かしこまりましたって言った―!」
「ガキか! っていうか何でそんな……って」
むむ、なんか魔術師が凄い青ざめてる。私の後ろに何か居るのか?
「……騎士団長?」
そこに居たのはゼルスさん……なんだか怖い笑顔で私を見下ろしてくる。
やべえ、この笑顔はやべえ。
「二人共……少々、灸を据える必要があるようですね。正座なさい」
え、私も?! 全部この魔術師が悪いのであって、私は無実なり!
「お黙り」
そのまま魔術師と並んで正座させられ説教を食らう私達。
もう、騎士団長なんてこりごりだー! 誰か変わってくれー!