第9話 森の扉
不穏な気配が近付いています。
第9話 森の扉
「蔵光様、こんな事になるとは思っても見ませんでした、付いてきて頂いて本当にありがとうございます。」
ザビエラが蔵光に礼を言う。
下手をすれば自分一人であのチートドラゴンを相手にしなければならなかったし、流石に命も無かったかも知れなかった。
だが、蔵光が付いてきてもらってはいたが、それも、ただ単に運が良かっただけなのかも知れなかった。
と言うのも、ヘルメス達が下手をして、逃げる方向が間違っていたとすれば、赤いドラゴンの餌食になっていたのは間違いなかった。
また、ドラゴンが空を飛んで 身を隠していたとしたら、蔵光が如意棒で攻撃をした瞬間に蔵光の位置は直ぐにドラゴンにバレてしまい、逆に防御魔法も掛けられていない蔵光は、その生身の体にドラゴンの炎のブレスを吹き付けられ丸焦げにされていたであろう。
軽く躱している様に見えるが、実はそんなギリギリの戦いであったのだ。
「しかし、こんな森の奥に本当に魔物の主がいるのか?先程のが、そうじゃないのか?」
とヘルメスも魔物の主については懐疑的であった。
さっきのドラゴンが主でないとするなら、一体、この森の奥にはどんな怪物が、住んでいるのだろうか。
蔵光達がさらに森の奥へ足を進める。
森の中は次第に100mを超える高さの巨木の数も増え始め、空を覆い隠すかのように枝葉が伸びて、地上に落ちる光を遮る。
そのため、地上には暗い所や負の魔素を好む、低草が繁殖していた。
それらは、例外無く、葉や茎に毒や痺れ液を持ち、そこを通る生物が触れる度にその体を弱らせる。
また、逆にそれらの植物を好んで食べる魔物や動物もいる。
それらの生物は森の中でも比較的力の弱い者であるが、毒等に耐性を持つことにより、今度はそれを自分の武器として体内で強力な物に変化させ、己が身の防御に利用する。
だが、それらを気にもせず、それらの毒持ちの生き物を食べる魔物もいる。
その場所は常に腐臭が漂い、死と狂気、恐怖が常に背中合わせの状態にある。
『東の森』の奥はそんな荒れた状態の地域であった。
蔵光達はゼリーの防御魔法や気配遮断と透明化の魔法を掛けてもらい、進んでいた。
ヘルメスは森の中を進むのに、木の枝や雑草等を『聖剣ヴォルガナイト』で切り払いながらに進んでいた。
これは別に何も特別といった訳でもなく、それ専用の山刀でも良かったのだが、このような気が抜けない場所にいるため、自分が一番信頼がおける武器を手にしていた方が気持ち的にも安心感が違う。
ヘルメスは既に人間の中では化け物レベルの力を持っている。
だが、この森では、先程の赤いドラゴンのように、そんなことすら感じさせない程の強力な魔物が跋扈していた。
だからこそ、常に武器は手放せない状態であった。
「かなり奥まで来たが、この辺りが最後ではないだろうか?」
とヘルメスが蔵光に言うと、蔵光も、
「そうだね、これ以上は、また段々と森の中心から離れていくことになるだろうから、ここが最奥部になるだろうな。」
と応えた。
蔵光達の目の前に巨大な木が現れた。
別にトレントのような動く木の魔物ではないが、それは巨木の親玉と言うのか、木のお化けとでも言えばいいのか、とにかくここまで通って来た時に立っていた、どの木よりも太くて高くて、禍禍しい存在に見えた。
あの魔の大森林地帯に生息する巨大樹のようにも見える。
その木の高さは優に200mを越えているであろう。
幹の太さも直径が30mはあろうかと思われた。
その木の中程に、不思議なモノが見える。
『扉』であろうか…
両開きのモノであり、大きさは大体、幅が10mくらいで、高さも15mくらいはありそうである。
そして、その扉に至るまでの部分に扉と同じ幅の階段が取り付けてあった。
それに、金属とも木造とも思えないその扉は、強力な結界の魔法が掛けられていた。
「結界の魔法は解けてはいない様子やけど、もし、解けそうになっていれば掛け直さなならんな。封印やったら何かとんでもないモンを封印してあるやろうしな。」
と扉を確認しながらゼリーは言う。
「と言うことは『四獣』の一体が?」
「いや、それはどうかな、セブレインの話では帝国の入口をその『四獣』に守らせていたと言っていた、守らせる者を封印する必要があるのかな。」
とヘルメスの疑問に蔵光が指摘する。
「確かに、だとすると、これは帝国の入口の可能性があるということなのか?ここを守らせていたモノというのも魔女達と同じように消えてしまったということなのか?」
ヘルメスは自分達のいる場所の周囲に生命体感知をしたが、全く何も感じ取れなかったため、このような事を言ったのだった。
「それは、わからん。今のところ帝国の規模も場所も確かやないし、セブレインが『東の魔女』サンマーサから直接聞いたというのが唯一確かな事ならば、ここがその帝国の入口なんやろうけど…」
ゼリーがその扉を見ながら、何かを思案している。
「確かセブレインさんの話だと東の魔女は『自分達はこの世に姿をとどめていられなくなるだろう』と言ってあの『古文書』を言付けたんだよね…」
と蔵光が言うとゼリーはハッとして、
「そうや!何故か自分達が、消えることを予言してたという訳や…何でそれがわかったんや?それと何で古文書なんや?何が目的…」
とゼリーが悩んでいたところ、ヘルメスのニューマソパッドにヴィスコから連絡が入った。
『あーヘルメス!さっきエージ君から連絡が入って『古文書』の事が少しわかったって言ってた。連絡が欲しいって。』
とリストバンドから出るヴィスコの映像がしゃべる。
ヴィスコはジパング王国の技術開発部のエージこと花里須磨叡知と連携をとっており、全ての連絡は二人を通じて行うことと取り決めをしていた。
「そうか、わかった。」
ヘルメスが、そう応えると蔵光も、
「このままでは、どうすることも出来ないし、一旦、ドラグナーに戻ろう。」
と提案する。
確かにこのまま封印された扉の前でじっとしていてもらちが明かない。
ヘルメスは、自分達の位置を『G・M・C』plusの機能でトンキに確認させ、その場所に魔導飛行船『プラチナスカイドラグナー』を呼び寄せた。
空中で停止しているドラグナーに全員が空を飛んで、空中から船内へ乗り込もうとしたのだが、その時、操縦席のモニター画面を見ていたトンキが何かに気付く。
「あれっ?1、2、3、4、5?ご、5?ちょ、ちょっと?!皆さん!ストップ!」
トンキがドラグナーのハッチを開ける直前にそれに気付き、通信魔法『水蓮花』を使ってストップをかけた。
「おいおい、どないしたんや!?早う、ハッチ開けえや。」
ゼリーが空中に浮かびながら文句を言う。
「どうしたトンキ?何かあったのか?」
ヘルメスも宙に浮きながら尋ねる。
「あ、いや、それが、魔導機の反応がおかしいと言うか、皆さんの魔力値の反応が五つもあるんですよ!」
とトンキが言うと、全員の表情が突然、険しくなる。
ここには蔵光、ヘルメス、ザビエラ、ゼリーの四人しかいないはず。
船内はトンキとオルビアの二人だけだ。
だが、モニターには五つの反応がある。
モニターはマソパッドと同じであり、いくら、魔力を抑えていても、つまり、気配を抑えていても正確に反応する。
認識阻害などの魔法は相手の脳や視覚に掛ける魔法であり、実際に術者が消えている訳ではない。
なので、魔導機など機械の力で感知すれば隠れている者であっても正確にその場所を捉え、位置や数を知らせてくれるのだ。
だから全員の顔色が変わったのだ。
そして、蔵光にも感じさせないというか、干渉している魔法となれば、尚更である。
「また、認識阻害か?そいつどこにおるんや?トンキ!?」
ゼリーが叫ぶ。
「皆さんのちょうど真ん中辺りです!」
「何?!」
トンキが言うと全員が自分達のいる中央辺りを見る。
認識阻害はそこに誰かがいると知らせれば、余程魔力が強くない限りは脳内や眼球への魔法干渉が止まるか、和らぐかで、術者を認識できるようになる。
ちなみに赤いドラゴンの時は魔力が無効化された上、ドラゴンの魔力が強力であるため認識阻害の影響がしばらく継続していたため、蔵光が認識出来なかったものであり、しばらくすれば、見えていたと思われる。
だが、あの時のような自分達の生死がかかっている時に、いつ自分の術が解けるのかわからないまま効果切れを待ち続ける訳にはいかないので、直ぐに攻撃態勢に移行したのだ。
今回は蔵光は動いていない。
相手を認識した後、『裁定者』のスキルを使用したのだ。
結果は○判定であった。
「魔法を、認識阻害を解いてくれないか?」
蔵光がその相手に言った。
この時点でハッキリと相手を認識しているのは蔵光だけであり、他の者はまだ認識阻害が十分に解けておらず、ユラユラと揺らめく陽炎のように見える状態であった。
「わかった。」
揺らめきが応えた。
すると、その揺らめきが次第に無くなっていき、それは段々と人の姿に変わっていく。
「あ、あ…」
全員がその姿に驚く。
どうみても人間の子供。
それは、年齢が10歳くらいの金髪の少年であった。
ト「いやー驚いた。いきなり人数が増えていたからビックリしたよ。」( ; ゜Д゜)
ヴ「人数が増えていたで、思い出したんだけど、ゼリーちゃん師匠が、またホストゴーレムをいっぱい作ってた。20体くらい。」( ´Д`)=3
ト「そんなに作ってどうするの?」( ゜ 3゜)
ヴ「なんでも、『はわいあんだんす』とかいう踊りを覚えさせて、『べれり庵』の大宴会場で踊らせる予定らしいよ。」
(○・ω・)ノ
トンマッソ「踊らせる?ゴーレムを?」
ヾ(゜0゜*)ノ?
ヴ「何か、人間に近い造りの女性型ゴーレムがほとんどで、スタイルもメチャクチャ良かったし。」
(* ̄∇ ̄)ノ
ト「それならホストでなくホステスゴーレムだな。」
( ̄▽ ̄)
ヴ「男性型ゴーレムもあって、それには「ファイヤーダンス」をやらせるとか言ってた。」
(o・ω・o)
ファイヤーダンスは棒の先に火を着けてクルクル回すダンスを言う。
(*・∀・*)ノ
ヴトンマッソ「ふうん…それって何か面白いんですか?」
( ´_>`)
ヴ「それなら、ファイヤーの魔法の方が凄くないかな?」
( ・д・)
君達はファイヤーダンスを何かと勘違いしているぞー!ファイヤーダンスは神に捧げる踊りだからな!
(。・`з・)ノ
ヴトンマッソ「へぇー」
(・д・)ノ( ・-・)(o・ω・o)
まあ、この世界でなら地味になるのかな…それではまた。
(丿 ̄ο ̄)丿