第56話 次のクエストって…
これで終わります。
第56話 次のクエストって…
「父さん、全部事情を知ってたんだね?」
と蔵光が航夜に尋ねると、
「そうだな、まあ事情といってもジパングに関するものはほぼ全部知ってはいるが、世界全体に関する予言全部を知っているというわけではなかったからな。まあ、それらの事情を知っていたとしても、色々と制約があって今までお前達に話すことが出来なかったというが本当のところだ。」
「そうなんだ。」
確かに航夜の立場であっても、世界の未来がかかっている事をおいそれと話す訳にはいかなかったのだろう。
「あの、サンマーサさん?」
そう言ったのはヘルメスだった。
「何でしょう?」
サンマーサはニコッと笑って応える。
「本当にアズマンさんは自分の運命については知らなかったんですか?あの地下世界に留まっていたことに、どうも、納得出来ないところがあって…」
「確かにそうですね。私達もある程度は彼に未来の事を教えましたが…流石に体がクリスタルになって最後には消滅してしまう等とは言えませんでした。私にもミズハノメ様から頂いた空間魔法がありますが、一旦、亜神族を空間内に閉じ込めてしまえば、地上に出ることも可能ですから、彼も絶対にというか無理に地下帝国に留まり続ける必要は無かったのかも知れませんが…」
「やっぱり…では何故?」
「さあ、何故でしょうか?彼はもしかしたら、全てを悟って…いえ知っていたのかも、そして、それでもなお、地下に留まったのではないでしょうか。」
「どうして?」
「彼にとって地下に留まることは、彼がそれまでに奪ってきた命に対する贖罪だったのかも知れません。地下帝国という名の牢獄に人々を閉じ込め、自分だけ地上世界でのうのうと生活することが許せなかったのだと思います。」
「そうですか…」
ヘルメスはサンマーサの言葉に納得した。
「気になってるんやが、あの4つの森はどうなるんや?これから大変やろ?」
今度はゼリーがサンマーサに質問する。
ヨルが自分達の仲間になり、メディスロンが死んだ今、4つの森にはタラスクとビー・クイーンの2体しか森を守護する魔物はいない。
なので各森の魔物が外に飛び出して人間に危害を加えないかどうかが問題なのだ。
「アズマン様が消滅し、4つの森全体の結界の力は弱ってきていますので、森のレベルもそれに伴い、低下して次第に他の地域の魔物くらいにはなるでしょう。それと森の構造上、強い魔物が森の外に出てくることはまずないでしょうし、これまであった結界が無くなったとしても大丈夫だと思います。」
「結界が無くなるって…?」
ヘルメスが不思議そうな顔をして尋ねる。
「まあ、私達もアズマン様がいなくなりましたので、その使命も終えました。私達も今後、若返る事も出来なくなりましたので、急に消滅するということはありませんが、後はこのまま、他の方達と同じく寿命がきて亡くなりますので、その後は森に結界を張り続けるという事が出来なくなりますから…」
「ああ、なるほどそう言うことですか…」
とサンマーサが説明するとヘルメスも納得する。
「あ、あの…母さん…」
蔵光がサンマーサに声を掛ける。
ようやく思考が落ち着きサンマーサに声を掛けることが出来たようだ。
蔵光に幼い頃の母親の記憶はない。
実質、初対面みたいなものだ。
なので、どう話しかけていいものかわからない。
サンマーサも蔵光から話しかけられてようやく自分の子供が誰なのかわかったようだった。
まあ、とはいえ息子と言えるような年頃の男の子はこの部屋のメンバーの中に蔵光しかいないのだが…
「貴方がくーちゃんなのね…あ、ごめんなさい。貴方が赤ちゃんの時にそう呼んでいたものだから…」
サンマーサも赤ん坊だった蔵光が、今は大きくなって立派な青年になっていることに感動している。
「いえ、あの…」
蔵光がサンマーサの言葉に応えようとしたとき、サンマーサが蔵光に近付き蔵光を抱き締めた。
「母さん!」
蔵光がサンマーサの行動に驚いたが抵抗はしなかった、というか出来なかった。
初めて味わう母親の温もり。
いくら『超剛力』のスキルを持つ蔵光でも、それを振り解くほどの力は、今の蔵光にはなかった。
「大きくなったのね。母さん嬉しい。」
サンマーサは蔵光を抱き締めながら涙を流していた。
それは、自分の宿命に振り回されながらも最後にはようやく自分の子供を抱き締める事が出来たという安堵感に満ち溢れていた。
「母さん、もう森の管理はしないの?」
「うーん、ちょっとやり残した事もあるから、それが終わればまたここに顔を出すわ。」
そう言ってサンマーサは航夜のほうを見た。
航夜はそれを見て黙って頷いた。
「ちょっと待ってえや!最後の質問や!」
そう言ったのはゼリーだった。
「ワイは…ワイは、この計画のために作られたんか?」
ゼリーの体がプルプルと震えている。
確かに今までの話を聞く限りではサンマーサがゼリーをチョッコ・クリムに回収させ、救世主となる宮離霧千陽子の記憶やチョッコ・クリムの知識を植え付けた後で、帝国の封印を守護する水無月家の正当な継承者にゼリー拾わせるというところまで予言されていれば、ゼリーは計画的に製造された人工魔物としか言わざるを得ない。
だがゼリーは既に、本来の救世主となるはずのチョッコとは別の人格を形成している特殊な魔物だ。
自分の存在が自然発生したものではなく、実験とはいえ人工的に作られたものであるという事実を知らされた訳だから、いくら魔物だとはいえ、自我を持つ者にとって非常にショックな話だったであろうと皆が思っていた。
「ええ、数匹放たれた内の一体がチョッコ・クリムさんに回収され、そこから救世主となる存在が初めて生まれ、現在まで生き残ることはあらかじめ予言でわかっていました。確率的にも数匹いたスライムの中で、あなたがそうであるとは言い切れませんが、実験により人工的に生まれた存在のひとつであることは間違いありません。自我が目覚めたあなたにとっては大変辛い事だとは思っています。気休めでもここで謝れと言われれば謝ります。」
サンマーサはゼリーに静かに頭を下げる。
そんなサンマーサに対しゼリーは意外な言葉を告げる。
「ワイはあんたの手から生まれたんやな。ちゅうことは、ワイは主と兄弟ということになるな。」
ゼリーはそう言ってニヤリと笑った。
「えっ?」
サンマーサはドキッとした表情をする。
「ワイはあんたを恨んでなんかおらへん。逆に感謝しとる。こんなおもろい世界に誕生出来たのはあんたらのお陰やからな。」
「あっ!」
ゼリーの言葉を聞きサンマーサの目から涙が流れる。
それは魔物とはいえ、いずれは自我を持つであろう禁忌の所業とも言える生き物を作った研究者としての責任について、どう始末をつけるのか、サンマーサは研究の過程からずっと苦しみ悩んでいた。
自分達の未来を救うことになるであろう魔物だからきっと正しい心を持っているであろう。
だが、そんな存在に、このような残酷な現実を突き付ける日が来る事をいつも恐れていた。
しかし、それは絶対にゼリーに話さなければならないサンマーサのけじめでもあった。
研究者として、いや人間として生き物の一生を弄ぶ様な真似をしたのだ。
ゼリーから怒鳴られ、罵倒され、殴り付けられ、最悪、殺されても仕方がないと思っていた。
だが、ゼリーから罵倒されることを覚悟していたサンマーサに掛けられた言葉は意外にも感謝であった。
ゼリーはサンマーサを許していた。
それは普通の魔物であれば絶対に経験することが出来ないような、夢のような素晴らしい経験をしたことや、蔵光という主に出会えたこと、誠三郎、ヘルメスやヴィスコといった仲間にも巡り会えたことはゼリーにとって何物にも代えがたいことだった。
そんな、自分を作ってくれた存在をどうして恨めようか。
「ちゅうことは主はワイの弟とちゃうの?!」
ゼリーがハッと気付いた様な表情をする。
「アホ、そんな訳あるか!」
そこにチョッコがすかさずツッコミの手刀をゼリーの頭に叩き込む。
「お前は私の子供だよ。」
そう言ってチョッコがニヤリと笑った。
「ま、まあ、どっちでもエエねんけどな。」
そう言うとゼリーは短い手で腕組みをしながら、プイッと向こうを向いた。
チョッコから自分の子供と言われて嬉しかったようだった。
「あははは、まあ、僕はどちらでもいいよ。」
蔵光が笑う。
その後しばらく、サンマーサは航夜と話をした後、再び空間魔法を展開してそこから魔の森の方へ帰っていった。
後で航夜から聞いたのだが、サンマーサにはビーレイクの村の人達を元に戻すという仕事や、他の魔女達と今後の4つの森の事や、タラスクとビー・クイーンの今後の事を話し合う予定があるらしい。
蔵光にはサンマーサから聞きたいことはまだ沢山あったが、またの機会にすることとなった。
まあ、会いたければ、また森に行けば良いのだから。
「なあ、主ぃ、今度はもうちょい金になるクエスト受けようや!」
「えっ?お金になるクエスト?もう、沢山あるからいいんじゃない?」
蔵光がゼリーの突然の提案に眉を上げる。
「そう言われたら、そうやな、それやったら例の盗賊団『蜂の巣』の頭目グリーン・ビーが元いたガルガード帝国に行くっちゅうのはどうや?」
「ゼリー、また面倒なことを…」
誠三郎がそれを聞いて顔をしかめる。
確かに軍事大国であり、何を考えているかわからない様なガルガード帝国に入るというのはリスクはあってもメリットはあまり無い。
つまり、面倒な旅になることは火を見るよりも明らかであり、ゼリーは他人の面倒事が大好きなので、そんな提案をしたのであろう。
「まあ、とりあえず、俺達もヴェレリアントに戻ってヘルメスのお父さんに今回の事を報告しないとな。」
蔵光がそう言うと、側にいたヘルメスも蔵光の言葉に便乗する。
「そ、そうだぞ、ゼリー殿、グランマニアにもこの件の詳細を報告しないと駄目だから、しばらくはクエストは受けられないぞ!」
「ちぇ!しょうがないな。まあ、ええわ、とりあえずここは引き下がっといたるわ。」
ゼリーは不満そうな表情で蔵光の言葉に従う。
これほど横柄な態度の従魔がこの世にいるのかと思うほどゼリーの行動には毎回驚かされる。
だが、ゼリーがそう言った途端に、クランズの全員がドッと笑う。
何故か憎めない存在だ。
「ははは、ゼリー、それはまた、今度だな!」
蔵光がゼリーの頭をポンポンと叩いてゼリーの気分を落ち着かせる。
とは言いながらも、水無月家の城から遠くに見える広大な景色を見ながら、プラチナドラゴンズのメンバー全員が次の冒険に胸と期待を膨らませているのだった。
中途半端だと思う方もおられるかも知れませんが、これで「水無月蔵光の冒険譚」は終わりです。
続きは、今のところ考えていません。
別の機会があればいいのですが…
文章力が無くて本当にすみませんでした。
長い間とは言えませんが、付き合って頂きましてありがとうございました。
今後とも精進しますので、よろしくお願いいたします。
では、また次の機会までさようなら。
ヾ(´▽`*)ゝ




