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水無月蔵光の冒険譚~第二部 古代地下帝国の謎を追え  作者: 銀龍院 鈴星
第四章 奇跡の始まり
53/56

第53話 意識回復

舞台は現代の日本になります。

人間関係について詳しい事を知りたい人は『転生前は芸人だった。 宮離霧千陽子の異世界コント ~伝説のお笑い芸人目指して~』を参考にして下さい。

千陽子の転生直前の話です。

第53話 意識回復

ここは、太陽系第三惑星にある地球という人間の住む水の星。

そこは魔法世界マーリックとは違い、名前こそ存在するが、『魔法』とは全く無縁の世界である。

だが、その文化水準は相当に高く、魔法の代わりに『科学』という力が、魔力の代わりに『電力』というものが世界の生活を支えていた。

その星に住む地域の人間達は自分達の住む場所を日本と呼んでいるのだが、その国で、ある出来事が起こっていた。


「えっ?こんな時間ですけど…?今からですか?あ、はい…、はい、わかりました。」

携帯電話で話をしているのは美山香(みやまかおり)という女性である。

年齢は30代前半。

細身の引き締まった体つきをしている。


電話をしている場所は大阪市内にある『ファンタジー』というスナックで、香はこの店のアルバイト店員だ。


現在の時間は午後10時を回っていて、確かに香が言う通り、スナックのアルバイトでなければ家でくつろいでいる時間だし、普通、そんな時間に呼び出しするとは非常識極まりない。

だが、その電話の内容は、そんな事を問い詰める様な事態ではない様子だ。


香が携帯を切り、何か思い詰めたような表情となる。


「どうしたの?香ちゃん?誰から電話?」

その様子を見ていた店のチーママであるマヤが声をかけた。


「あ、いや、クロさんから…」

「えっ?クロさん?ああ、黒山さん?今ごろどうしたの?店に来るの?」

「いや、何か病院に来いって…」

「どこの?」

「大阪第三病院…」

「それって…!」

マヤの表情が変わる。


彼女達の環境は、1ヶ月前に起こったあの事件を境に激変していた。

それは、お笑いコンビ『クリム&カリスマ』の宮離霧千陽子(くりむちよこ)と相方のカリスマエージこと花里須磨叡知(かりすまえいじ)の失踪。

約1ヶ月前、関西お笑い界の大会『関西コント大賞』の会場に向かう車に乗っていたその二人がトラックに追突されるという交通事故に遭遇、その直後に二人は車の中から忽然と消えていなくなっていたというものだった。

その後、警察が二人の行方を捜索したが全く手掛かりが掴めず、捜査は行き詰まっていた。


香は昔、宮離霧千陽子に憧れ、千陽子が総長として率いる暴走族のレディースチーム『スターセブン』に入り、No.4の幹部として活動していたが、チーム解散後は真面目に職に付き、この間までネイルサロンで働いていた。

しかし、今回、憧れの千陽子が事故に巻き込まれ、所在が分からなくなったのが原因で、仕事に手が付かなくなり、職場を去っていた。

彼女はチーム解散後も熱烈な千陽子のファンであり、いわば彼女もアズマンと同じ様に千陽子の信者の様なものであった。

その憧れの存在が突然、自分達の目の前からいなくなった。

警察の懸命な捜索にも関わらず、その消息は一向に判明せず、香を含めチームのメンバー全員が失意のドン底にいた。

特に千陽子が自分達の心の支え、気持ちの拠り所となっていた香にとって何か体の芯から抜けてしまった様な虚脱感が日々の生活に襲いかかっていた。

なので、最初は何をするにも、気力が湧かなかったが、香を心配したマヤの勧めもあり、少しでも千陽子の存在を感じれればと、事故前まで千陽子が勤めていたスナック『ファンタジー』で働かせてもらっていたのだった。


そして、その彼女に電話をしてきた黒山という人物。

彼は大阪府警の警部補で、府警の捜査一課の捜査員だ。

単なる交通事故なら交通課の仕事であり、刑事の捜査員の出番は無いのだが、失踪となれば話は別だ。

失踪となると家出というだけでなく、誘拐だとか、もしかしたら拉致されて殺され、どこかに捨てられてたり、埋められたりしているのではないかとか、色々と考え、危惧するお偉いさんもいて、黒山がこの件に噛まされていた。

というのも、千陽子はこの事故の前に発生していた殺人事件を解決に導いたという事があり、その事件に起因する、若しくは関係する何らかの事案に遭遇しているのではないかという可能性が捨てきれない状況であったことや、事故現場から本人が忽然といなくなるという前代未聞の珍事だったこともあって、殺人事件の捜査員の一人だった黒山が担当者の一人として抜擢されてしまったのだった。


だが、この事故は先にも述べたが不可解な事が多すぎて、解決の糸口が見つからない、つまり、『迷宮(おみや)入り』の状態となっていた。


香は黒山の呼び出しに応じて市内にある大阪第三病院に到着した。


香が病院にやって来た理由、それは、そこに入院中の患者に関する用件であり、その入院患者は千陽子達の事故に関係のある人物であった。


既に入院患者の面会時間が終了しているにも関わらず、黒山がそこに呼び出しをしてきたということは何かこの件で動きがあったからだと、香を含め、ファンタジーのマヤも直ぐに察しがついた。


病院の一階にある自販機コーナーのベンチに黒山は座っていた。

香がその黒山に近付いて声を掛けた。


「何すか?例の患者に何かあったんですか?」

黒山は居眠りをしていたのか閉じていた目をゆっくりと開き香を見る。


「ああ、香か悪いな。ちょっと目ぇ(つぶ)ってたわ、まあ座れや。」

香は黒山が腰を上げてベンチの端に少し移動したのでその空いたスペースに座った。

黒山の顔を見ると無精髭が結構伸びている。


「クロさん、目の下にクマ出来てますよ、ちゃんと寝てますか?」

「アホ、何年警察官やっとるとると思うとんねん。徹夜なんか慣れとるわ。」

「そうですか。」

香は黒山が連日、千陽子達の捜索にあたっていることを知っていた。

だが、その捜索に行き詰まりがあることもわかっていた。


「万紀男が目を覚ました。」

「えっ!?マジですか?でも、アイツは…」

「ああ、そうや、植物状態やったんやが、意識とともに全ての身体機能が戻り始めた。信じられへんことやけどな。」

「そんな…」


黒山の言う万紀男という男は先の入院患者の事であり、名前を東万紀男(あずままきお)と言って、千陽子達の乗る車に衝突したトラックの運転手で、事故により、頭を強く打ち、植物人間の状態となってこの病院に運び込まれていた。


彼を診察した医師の話では意識を取り戻す確率は非常に低く、もし彼が意識を取り戻したとしても、恐らく脳死に近い状態であるため身体機能は回復しないであろうと家族には説明されていた。

その男が意識の回復と共に身体機能までも取り戻そうとしていた。


そこに一人の初老の男が現れた。

「おっちゃん!」

香がその男に反応する。


それは、東万紀男の父親であり、千陽子の個人的なスポンサーでもあり、スナック『ファンタジー』の常連客の『チューやん』こと東忠男(あずまただお)だった。

忠男は、普段から千陽子と懇意にし世話になっていた人物で、子供服メーカー「AZUMANIA(アズマニア)」の社長という肩書きの他、その他の事業でも日本全国にシェアを拡げているアズマコーポレーションの会長であり、香も忠男とはファンタジーでも顔を合わせているのはもちろんの事、京丹後での合宿にもやって来て、千陽子らの衣装を差し入れしてくれていたのをよく知っている顔馴染みでもあった。


香の本音としては、事故の当事者が千陽子と()()()()()であれば、どれだけ良かったであろうということだった。

そうであれば、いなくなった千陽子を返せと相手にしがみついて思いの丈をぶつけたり、恨み言の一つでも言えたであろうが、事もあろうか、万紀男は忠男の息子だった。

忠男から多大な世話を受けている事を、普段、千陽子から聞いて知っていた香にとって、恩人の息子を責め立てることも出来ないもどかしさと辛さがあったのだ。



「香さん、千陽子ちゃんをエラいことに巻き込んでしもうて、本当に申し訳ない…」

忠男が深々と頭を下げる。

「おっちゃん…」

香もどんな言葉を掛けていいかわからなかった。

忠男にも以前の元気は見られない。

自分が応援している芸人・宮離霧千陽子が乗った車に、自分の息子が運転するトラックが突っ込んだのだ。

それにより、千陽子と叡知が行方不明となり、自分の息子は植物人間状態となってしまったのだ。

ショックを受けないはずはなかった。


「香、お前を呼んだんは、ちょっとワシらの手に負えん事態があったからや。」

黒山が香に向けた目は普段の黒山の目ではなかった。

普段は魚の腐った様な目と言うのだろうか、やる気の見えないボーッとした様な感じなのだが、その目には普段にはない気合いと言うか凄味があった。


「手に負えん事?」

「そうや、お前さんにアイツの言うとる事が本当なのか判断してもらおうと思うてな…」

「判断?何の事ですか?」

「お前、今までに東万紀男と千陽子がどこかで会うたりしてるとか、万紀男の名前が千陽子の口から出たとか聞いたりしてないか?」

「いえ、無いですけど…」

「そうか、わかった。そしたら、今からこの東さんの話をちょっと聞いたってくれるか?」

「えっ?おっちゃんの話をですか?」

「そうや、ワシみたいな頭の硬い人間にはこの話は理解できんからな。」

「はあ…」

香は黒山が何を言おうとしているのか全く理解が出来なかった。


『そんな事言われても、クロさんに理解でけへん話がウチに分かるわけがないやん。』

と香は思いながらもそれを口に出す事はなかった。


「香さん、聞いて貰えますか?」

忠男が香に声を掛けると香も無言で頷いた。

すると、忠男は静かな口調で香に話をしだした。


「香さんもご存知の通り、息子はこの1ヶ月、この病院のICUで意識不明の重体で入院しておりました。体よりも頭を強く打っていたせいで脳の機能の大半が停止し、脳死に近い状態となっていましたが、奇跡的に今日の朝方に意識を取り戻しました。医師の話ではしゃべりかけても話は出来ないだろうと言われていました。ですが、目を開けると、私を認識して『親父』と呼んでくれました。なので、私はこれまでの状況を息子に説明しますと、息子は最初、自分の置かれた立場が理解できなかったようでしたが、突然、私に信じられない言葉を言ってきたのです。」

「信じられない言葉?」

「はい、『『クリム&カリスマ』の二人は異世界で生きている。』と…」

「な!?何やて?!それはどういう…?」

香は一瞬、忠男が何を言っているのか理解が出来なかった。


「生きているってどういう事ですか?それに異世界って…どこかで頭でも打ったんですか?……あ…!すんません。」

「アホ。」

香の言葉に黒山が突っ込みを入れる。


「万紀男は、それだけでなく、私が知らないことを話してくれました。例えば黒山さんが少年課にいた頃に抗争相手と間違って殴り付けてしまった事とか…」

「それって…」

香の顔が凍り付く様に固まる。

そして、黒山の顔を見ると黒山は軽く頷く。


「あの事はワシとお前らの間で秘密にしとった事や。あれはワシにも否があったから千陽子やお前らにも口止めし、『何も無かったこと』にした。お前達が他の奴等に喋っていなければの話だが…」

「そんな事、喋る訳がないじゃないですか!喋ってしまえば千陽子さんが少年院に行かなければならなくなる。今は時効や言うても、今でも、それはチームのメンバーの中では禁句ですから…」

「そしたら、それを喋る奴と言えば…」

「もし、それを話すとすれば、当の本人である千陽子さんだけです。」

「そうやな、だが、お前の話では千陽子と万紀男にはそんな接点はないし、時間も場所もない。あるとすれば…」

「その異世界ということですか?そんな馬鹿な…熱烈ファンやったという万紀男がどこかからその情報を入手したとかじゃ?」

香が怪訝な表情で忠男を見る。


「それはワシも考えた。せやけどな、それが、そうとも言われへんのや。」

黒山が更に話を続ける。


「何や千陽子は、万紀男がその異世界とやらからここに戻って来る事が分かってたみたいでな。千陽子とワシとお前しか知らんことを伝言してきたらしいわ。」

「私らしか知らんことですか?」

香にはまだピンときていなかった。


「『豊中東警察署で貰った『お詫びの缶コーヒー』ありがとうと言っといてくれ。』と言うたらしいわ。あと、和田が持ってた練炭の件も知っとったわ。あの例の練炭の下から見つかったヤツの事をな…」

「そんな…それって…」

香はその言葉を聞いて絶句する。

コーヒーの件は別として、真犯人の和田が練炭の他にソレを持っていたことは警察署で黒山に『絶対に言うな』と口止めされていたからだ。


あれは殺人事件の真犯人を警察官が警察署に連れて行く前に確認したから千陽子と香は知っている。

捜査を担当した黒山もそれは知っている。

残りの練炭を和田が持っていたことは彼が練炭を捨てようとしていたゴミ処理センターに取材に行った記者達が聞き込んで、新聞や雑誌にも載せていたから、一般的には知られているが、万紀男はセンターの職員も知らない、和田が練炭を入れていた袋の底に入れていたモノの存在を指摘していた。

それは、マスコミにも明かされていない警察独自に収集された証拠品のひとつであった。


流石の黒山もこの件については千陽子と香に口止めした。

警察情報でも、殺人事件に関する情報は最重要機密のため、それらの漏洩は御法度だ。


「千陽子さんは生きているの…?」

香が忠男に聞く。


「アイツが言うには、二人はその異世界とかいうところで転生したとか…」

「えっ、もしかしてエージ君も一緒なの?」

香が忠男の言葉に驚く。

エージもその異世界とやらにいるような口振りだ。

「あ、いや、私は話がよくわからないんで、黒山さんに聞いて貰ったんだけど、黒山さんも何か狐につままれたみたいだと…」

香の突っ込みに忠男は焦った様な感じで話したが、やがてその目を下に伏せ病院の廊下を見ている。


「おっちゃん…あの…駄目だったらいいんですけど、万紀男に、あ、スミマセン、万紀男さんと話をさせてもらってもよろしいですか?」

「ああ、かまわないよ。」

香の申し出に忠男が頷いて了承する。


こうして香は意識が戻った万紀男と話をすることになったのだった。





普通、脳死状態になると脳細胞が死滅するので、意識が回復しても身体機能は元に戻りにくいと聞いたことがある。

少し違うが、心肺停止状態になると、早期に心肺蘇生をしなければ、脳に酸素が行き渡らなくなり、同じく脳に影響が出ると、ごく最近、聞いたことがある。

だが、その人物は措置が適切だったため脳に影響は出なかった。

現場での措置もスゴいのだろうが、それらを連携して行えるシステム、救命措置がスムーズに出来る医療がこの世に存在することがスゴいと思う。

やはり、最先端医療はチートかも。

(*>∇<)ノ


インスタグラムで設定画を公開中。

銀龍院鈴星かginryuuin_rinseiで検索できます。

カクヨムで「ドラゴンマスク」連載中。

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