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水無月蔵光の冒険譚~第二部 古代地下帝国の謎を追え  作者: 銀龍院 鈴星
第三章 マリガトリア帝国
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第52話 アズマンとの別れ

アズマンが消滅します。

第52話 アズマンとの別れ

「よっしゃ!行くで!エージ!」

とゼリーが気合いを入れる。


コントで使用した異世界版『AED』は、元々エージが、ゼリーから作って貰ったという空間魔法が付与された『アイテムバッグ』に入れていたものであり、最初はコントに使うために入れていたという訳ではなかったのだが、たまたま、開発中の製品だということでバッグに入っていたのと、コントの内容に見合う道具だったため使用したというのが本当のところだった。


大きさや形は元の世界のものとほとんど同じだ。

エージはそれを巧みな手つきで、最初にセットされていた作り物の魔石を取り外し、アズマンの体の一部だったクリスタルを装置に取り付け直した。


「じゃあ、カルマさんを…」

エージがそう言うと、アズマンが亜空間のゲートを作り出し、そこから保存していたカルマの遺体を取り出した。


『時の魔法』により亜空間に保存されていたカルマの体は修復された損傷の全く無い体であり、まるで眠っているかの様である。


「凄い、これが7000年前に亡くなった人だなんて…」

ヴィスコがその魔法の凄さを実感する。


エージがその遺体の側で『AED』の準備を始める。

この時、チョッコがカルマの姿をチラリと見て、少しだけ眉根を吊り上げる。


「あれは…なるほどな。そういう事やったんか。となると…」

と一言呟くとニヤリと笑った。


エージは装置から延びるコードの先に取り付けられたシートを仰向けに寝かせたカルマの心臓付近に貼り付ける。


「電気魔力充填!」

エージが装置を操作するとしばらくして装置からガイダンス音声が流れる。

『準備が出来ました。危険ですので、装置から離れてください。』


エージが『AED』から離れると装置が自動的にカルマの体へ電気魔力を流す。

バチンという大きな音と共にカルマの体が、跳ねる様に動く。

何度か装置から電気魔力が流されたがカルマの心肺が動く気配は見られなかった。


「あれ?お、おかしいな?そんなはずは無いんだけどな?」

エージが焦った様に『AED』装置を確認しているところにアズマンが声を掛けた。


『エージさん、ありがとうございます。もう結構ですから…』

「あ、いや、大丈夫ですから…ちょっとだけ時間を…」

「いえ、本当にもう結構ですから…最初から無理なんじゃないかとは思ってましたから…」

「いや、でも、」

エージはアズマンの言葉を受け入れ難かった。

それは、自分の発明した『AED』の性能を証明するとかというものではなく、素直にカルマを助けたいという気持ちがあったからであった。

それだけに、アズマンから止められたときは自分の無力さを恨んだ。

だが、カルマが蘇生しなかった本当の理由はその様な事からではなかったのだが、この時は全員がカルマの蘇生失敗に失意していた。


だが、その時であった。



「!、来る!!」

蔵光が何かの接近を感じ取った。


みんながいるホールの上空が突然明るくなり、プラズマの様な光が蔵光達の周囲に発生し始める。

そして、空中に巨大な女性の姿が現れる。

天女の様な羽衣の如く、全身に薄い布を体に巻き付けたその体には実体が無いようであり、ホログラム映像の様に揺らめき、煌めいていた。


『アズマン…いえ、東万紀男よ…』

その女性の声がホール全体に響く。


「こ、この現象は!!」

「太陽神ラーの時と同じだ!」

それは、以前、蔵光達がメトナプトラ国の首都ヨーグに訪れた時、ラー神殿で起こった現象と同じであった。


「水神ミズハノメ様…」

すぐに王鎧がその正体に気付きその場に跪く。


「ま、まさか!?ミズハノメって、主達の主神やないか!?」

ゼリーもその名前は知っている。

黒龍から世界を守らせるために、水無月一族に力を与えた、神界でもかなり上位の存在。


『はい…』

アズマンがミズハノメの呼び掛けに応えると、ミズハノメがここに現れた理由を告げる。


『もう、お分かりの通りあなたは今、神界、貴方達が言うところの『精神界』に来る条件を満たしています。心残りはあるでしょうが、このまま、貴方を神界に導きます。』

『……』

ミズハノメの言葉にアズマンは沈黙している。


『どうしました?』

『ミズハノメ様なら私の考えなどお見通しのはずですが…』

アズマンがそう言うとミズハノメは相手の言葉を聞くこともなく答えた。


『ああ、その事ですね。貴方が最後に望んでいるのはカルマの蘇生ですが、カルマはこの世界には甦らせる事は出来ませんよ。』

『そんな…』

無情にもミズハノメはそう答えたが、その後に意外な事実を話す。


『貴方は彼女を現世に復活させようと考えているようですが、彼女はこの世界での蘇生、復活を望んではおりません。』

『えっ?何故?』

アズマンはミズハノメの言葉に驚く。

『よく考えれば、それは、貴方にもわかる事でしょう?』


ミズハノメにそう言われ、アズマンが自分の立場をカルマに置き換えて考え、一つの答えを導き出す。

『……!ま、まさか!?そ、そんなこと……』

『そうです。貴方と同じように、彼女も貴方を愛していました。』

『………』

『貴方はいずれこの世界から消えてなくなる。そんな世界に復活したところで、彼女の望みが叶えられる訳がない。彼女の望みは貴方と一緒にいることなのですから…貴方のいないこの世界で、しかも7000年が経過した未来の世界で彼女一人で生きていくには辛いですから。』

『確かに……そうですよね。』


アズマンは『AED』による蘇生が成功しなかった原因がまさか『本人の拒否』という理由であることに最初は戸惑いを隠せなかった。

彼女だけでもこの世界に生き返らせてあげたいと思っていた。

それが、彼女に対する唯一の償いだと思っていたからだった。

だが、まさか、彼女自身もアズマンを愛していたという事実に今さら気付かされるとは思わなかった。


『もう時間はありません。ここにいる者達は私が地上に送ります。貴方は私と共に…』

そう言うとミズハノメの姿は眩しい光の中へ消えていった。

そして、アズマンのクリスタルの体も光の輝きと共に淡く消えていく。


『あっ!そ、そんな…ちょっと早すぎ…』

流石のアズマンも、既にこの世界に干渉が出来なくなってきている様子で、自分自身の時間を止めることも出来ないようだった。


『仕方がありません。私ももうこれまでです。皆さん、ありがとうございました…。』


アズマンが蔵光達に別れの言葉を伝える。


「元気でな…」

「精神界に行くんやったら、その言葉はいらんと思うけどな……」

ゼリーの言葉にチョッコがツッコミを入れる。

「………?」

「行くんやったらの話や…」

「何やそれ?」



やがてホール全体に光が満たされ、その光が無くなると蔵光達は『幽霊門』のある『鬼の(アギト)』まで戻っていた。


「こ、ここは?!最初に入ってきた門?」

ヘルメスもその異様な場所を忘れる事はなかったようだった。

蔵光達は『幽霊門』と言われる巨大な鳥居の奥にある岩戸の前に立っていた。


「ん?向こうが何か騒がしいな?」

王鎧が幽霊門の外側に気配を感じ取った。


「これは…」

「魔物ですな…」

蔵光達も同じ様に気配を察知し、直ぐにその気配の場所へ移動する。


「これは!」

そこには山積み状態で無数の魔物の死骸が転がっており、その向こう側には航夜が立っていた。


「父さん!」

「おう、蔵光か!?早かったな。もう終わったのか?」

「はい、あのこれは?」

蔵光は航夜の足元に転がる魔物の死体を見ながら尋ねた。


「ああ、さっき追いかけたエンペラースライム以外に、門から這い出てきた魔物だ。いずれも魔力値が億を越えているみたいだった。」

「やっぱりあのエンペラーだけじゃなかったんですか?」

「ああ、予想通り、あそこの岩戸から溢れて来ていた。今はもう収まっているがな。」

「そうだったんですか。でも、魔力値がそれだと分家の人達では荷が重かったのでは?」

「大丈夫だ、彼等には全員避難してもらった。それに途中から応援も来たからな。」

「えっ?応援?」

航夜の魔力値が強すぎて気付きにくかったようだが、航夜がそう言って気配のレベルを低くすると急に航夜の周囲に大きな気配を感じる様になった。


「なっ!?」

「こ、これは!?」

航夜より低いとはいえ、ヘルメスやザビエラの魔力値を越える程の魔力の波動を感じる。


「ヘルメス!ヴィスコ!オルビア!」

懐かしい声が洞窟の中に響き渡る。

声の方向を見ると、名前を呼ばれた彼女達の目が大きく開く。

岩陰から懐かしい顔が現れたのだ。


「ギルガ様!」

ヴィスコがギルガの姿を見つけると飛び付いて抱き付く。

「元気そうだな。」

「はい!ギルガ様は?!」

「古龍にそれは愚問だ。」

「そうですね。」

ギルガの返しにヴィスコが舌をペロッと出す。


だが、航夜から応援と言われていた気配はそれだけではなかった。

そこにはギルガの父親である古龍ワダツミの姿と、ギルガの恋人であるデルタ・グリードもあった。

「なんや、えらい強烈な気配が揃って来とるな?祭りでもするんか?」

その様子を見たチョッコが初めて見る古龍の気配に臆することなく、声を出すと、今度はそれ以外にも航夜の応援に来ていた者達の一人が反応した。


「チョッコ!!」

それは冒険者ギルドサリドナ支部のギルドマスターのMr.Mだった。


「ん?誰やお前?」

チョッコが不審な目でMr.Mを見る。

確かに頭の上からスッポリとフードを被っているので誰だか全くわからない。

声もフードのせいでこもった様に聞こえハッキリとしないのだが、蔵光達はその正体を知っているので、チョッコの後でクスクスと笑っている。


「何や何や?お前ら何、笑うとんねん?……あっ!まさか…!」

チョッコは先程まで隔絶された空間の中にいたので全くその辺りの事情はわからなかったが誰だか大体察しが付いたようだった。


「お前、水覇やな?」

「正解。良くわかったね。」

Mr.Mが被っていたフード型のお面を取り外すと中から水無月水覇が現れた。


彼は蔵光達の遠い御先祖様で、過去に、メトナプトラにあるノースヨーグ砦に攻めてきた魔族の虐殺行為に対してブチキレてしまい、逆に魔族の領土に攻め込んで魔王やその配下はおろか、一般魔族の者達を虐殺するという恐ろしいことをしでかしてしまった。


彼はその件で無益な殺生をしたという罪により、ミズハノメから『時の魔法』により300年という長い間、『次元幽閉』と呼ばれる亜空間に閉じ込められる罰を受けていた。

それを知るのは数少ない関係者のみで、彼の妻であるチョッコはそれを自分の魔法の力を利用して300年間待っていた。

だが、次に再会したとき、彼は若いときのままであり、チョッコは年老いた老婆となっていた。

チョッコは『これではワイに不公平や!』と言って若返りの方法をゼリーに探してもらう事になり、その探索の間、自分のものではなく、エンペラースライムのゼリーが使う空間魔法の中に自分を閉じ込めさせていた。

その機会が訪れれば若返るために。


そして、一方の水覇も正体こそ蔵光にはバレてしまっていたが、この未来の世界では職にも就いておらず、また今後、水無月家の本業である黒龍退治にも協力してもらわないといけない等、色々とクリアしなければならない問題があったのだが、元々、水覇は冒険者ギルドのS級冒険者であったということもあって、ヘルメスの父親であるヴェレリアント領主のバジルス・カース・ヴェレリアントが冒険者ギルドの本部に働きかけてヴェレリアント領にサリドナ支部を作らせた際に、そこのギルドマスターの座に座らせたのだった。

あと、水覇が顔にフードを被っていたのには理由があったが、それは別の機会があれば話そう。

あくまでも機会があればの話だが。


ともあれ、結果的にチョッコはアズマンの力で若返る事が出来、再び夫の水覇と再会を果たしたという訳だった。



「おかえりなさい、チョッコ。大変だったね。」

水覇が彼女を迎え入れる様に両腕を拡げる。


「アホ、空間の中におったら、一瞬の話や。」

そう言いながらもチョッコは水覇に近付き、お互いを抱き締めあった。

そして二人の目には涙が流れる。


「まあ、何とかこっちの話も上手くまとまった感じやな。」

と言いながらゼリーが短い腕を組んでその光景を見て頷いている。



「でも、結局どうなったんだろうね。アズマンはあのまま精神界に行ったんだろうか?」

蔵光が岩戸の方を見ながら唐突に呟いた。


岩戸から転移門までの最終トラップとなっていたと思われる魔物噴出はアズマンが去った事により、既に止まっているためか音もなくシーンとしている。


現世界から消えてしまったアズマンを心配している訳でも無いようだが、アズマンの存在は蔵光にとって大きな出来事であった。

そもそも蔵光にとって自分より強い存在との接触や戦闘は身内だけであり、アズマンやガロヤスミカンダといった『自分より強い存在』との出会いは普通ではあり得ない事柄であった。


そんなアズマンがあっさりとミズハノメの言葉を聞いて精神世界に旅立っていった。


「天国でカルマと一緒になれたんとちゃうか?」

とゼリーが言ったが、蔵光は別の事を考えていた。


「まさかね…」

そしてその蔵光の考えこそが、まさに神の奇跡が行われる予兆(フラグ)であった。


ミズハノメという神様以外にも日本には沢山の水の神様が存在する。

蔵光の名前の由来のクラミツハもそうだし。

※蔵光の名前については『水無月蔵光の冒険譚 第6話過去編1~水無月家の資格者~』参照。


何にしろ、それだけ『水』というものが大切で神聖なものだと思われてたんだろうなあ。

(* ̄∇ ̄)ノ


インスタグラムで設定画を公開中。

銀龍院鈴星かginryuuin_rinseiで検索できます。

カクヨムで「ドラゴンマスク」連載中。

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