第50話 ガロヤスミカンダの最後
今回からいろんな情報が混じり合います。
というのも、この回以降の話では、チョッコやエージの話す言葉の意味や内容がもうひとつわからないところがあると思います。
そんな方は、別投稿の、
『転生前は芸人だった。 宮離霧千陽子の異世界コント ~伝説のお笑い芸人目指して~』
を読んで頂ければ、チョッコとエージの会話の意味がわかるようになっています。
第50話 ガロヤスミカンダの最後
蔵光達がガロヤスミカンダの高魔力に手を焼いていた時であった。
どこからともなく声がしてきた。
『蔵光様…』
その声に蔵光が反応する。
「こ、この声は…?」
『蔵光様…魔力を奴に与えてください。』
その声の主はオルビア・ピスタ・メトナプトラであった。
彼女はメトナプトラ国の最長老の孫娘であり『先見の乙姫』という予知能力を持つ蔵光達のクランズ、『プラチナドラゴンズ』の一人である。
ゼリーの体内空間にいたはずであり、ゼリーが『魃』により霧散したため、蔵光は彼女達も空間ごと弾けたものと思っていた。
「そ、それじゃあ!?」
蔵光の表情がたちまち明るくなる。
『私達は大丈夫です!訳は後で説明します!ですから早く魔力を!』
オルビアが蔵光達に再度促した。
そしてさらに蔵光達に声を掛ける者がいた。
『私も手伝います。自分の魔力を魔法に変換せずに魔力弾の状態で奴にぶつけて下さい!』
そう言ったのはアズマンだった。
『蔵光君!オルビアさんの言う通りにしてくれ!』
エージの声も聞こえてきた。
「わかった!」
蔵光はそう言うと、水魔法に変換する前の『素の魔力』を空中に展開した。
だが、それを黙って見ているガロヤスミカンダではない。
直ぐに強力な呪詛魔法を蔵光に放ってきた。
だが、ヘルメスの『自動絶対防御』とアズマンの『時間の激流』により、蔵光に到達するまでに魔法は消滅していた。
誠三郎、ヒダカ、ザビエラはガロヤスミカンダをその場に足止めするため、本体を守る魔法障壁を攻撃する。
『小癪な奴等め!』
ガロヤスミカンダが怒りを顕にする。
その間にも蔵光の体から膨大な魔力が絞り出され、本来、魔法に変換されないと目に見えない魔力が視認出来るレベルにまで魔力の塊が膨れ上がっていた。
「蔵光!もう良い頃じゃ!」
王鎧が魔力を放つタイミングを見計らって蔵光に指示する。
「うおおおおおおーーー!!」
蔵光は自分から絞り出した魔力をガロヤスミカンダのいる方向に移動させつつ、再び、魔法障壁に『破魔』の特性を持つ如意棒を突き立て破壊し、魔力の通り道を作った。
「俺の魔力の半分をやるぜ!」
蔵光が額に汗を垂らしながら叫ぶ。
そして、その直後、巨大な魔力弾をガロヤスミカンダにぶつけた。
『ぐはああああああぁぁぁぁーーーー!!!』
醜悪な怪物の体に魔力の巨大な塊が凄い勢いで吸収されていく。
そして、現在のアズマンの体の様にクリスタル化した状態となり、さらにその体が一瞬、大きく光り輝いたかと思うと、海鳴りの様な音と共にあっという間に消えてしまった。
先程までの激しい戦闘が一瞬で終わりを告げ、辺りが静寂に包まれた。
「はあ、はあ…」
流石に自分の魔力の半分以上を短時間で魔力弾に使用した蔵光は、急激な脱力感に襲われていた。
そして、今までに無いほどの荒い息遣いで空中から地上に降り立った。
『主ぃ~!』
突然、どこからか、あの変な生き物の声がしてきた。
「ゼリー?!!」
蔵光が辺りをキョロキョロと見回す。
声は近くから聞こえるのに姿が見えない。
「ここや!ここや!」
声がしていたのは蔵光の直ぐ側、と言うか蔵光の耳に貼り付けてあったゼリーの通信魔法『水蓮花 通信+位置探査version』からであった。
「よいしょっと!」
『水蓮花』の薄い膜の表面から、ぬるりと飛び出したのは体長が10㎝程の小さなゼリーであった。
小さいので蔵光の肩にちょこんと乗っている。
『水蓮花』は元々ゼリーの体細胞を分離させて作られた薄い皮膜状のものに通信機能を付与させて作られた特殊な魔法であり、『位置探査version』は通信機能にそれぞれの位置を表示する機能をプラスしているものであり、蔵光達のクランズ『プラチナドラゴンズ』に所属している者であれば皆が体に装着しているものである。
これらは、いずれも全てゼリーの分身体であるので少しでも体の一部が残っていれば、いくらガロヤスミカンダに蒸発させられたとしても、ゼリーはそこから自動再生することが出来た。
それはゼリーならではの特性であり、以前、蔵光から『魃』を食らって以降は常に自分の分身体を別の場所にキープするのが癖付いていたのだった。
「ゼリー!無事だったんだね!」
蔵光の顔に笑顔が戻る。
「当たり前や、あんな攻撃でやられるゼリー様やないで!」
小さなゼリーが応える。
「まあ、アイツに『魃』を使われるとは思わんかったけどな。」
「でも、ゼリーが無事で本当に良かったよ。」
蔵光が泣きそうな顔をしている。
『精神異常状態無効』のスキルのせいで、あまり感情をあらわにしないはずの水無月家の者としては非常に珍しい光景だ。
「しかし、よく倒せたよな。皆のお陰だよ。」
蔵光がゼリーに礼を言う。
「まあ、あそこでオルビアが直近の予知をしたからな。」
「そうだったんだね、まさか、あそこで『存在上限界』を利用するとは思わなかったよ。」
蔵光は、既に魔力値が490億Mであったガロヤスミカンダに対して、自分の体から取り出した100億を超える高魔力の魔力弾を使って、多量の魔力をガロヤスミカンダの本体に投入することにより、ガロヤスミカンダの本体の魔力量を魔力過多の状態にし、急激に『存在上限界』の状態にさせ、その存在自体を無理矢理精神体に変化させて、地上から消滅させたのだった。
オルビアがその未来のビジョンを見て蔵光に伝える事で、蔵光はそれに気付き行動に移したのである。
あくまでもそれは仮説の域に過ぎなかったのだが、これは蔵光達の賭けであった。
「精神体になったらしばらくはこちらの世界には戻って来られへんやろうな。」
「しばらくって…またやって来られても困るんですけど…」
ゼリーの言葉にヘルメスが肩をすくめる。
「ガロヤスミカンダも『邪悪の神』だけど、ようやく、これで『精神界』の仲間入りだね。」
蔵光も、ガロヤスミカンダの存在が地上世界から消滅したことを感じ取りホッとした表情となっている。
「まあ、奴の様に中途半端な魔力やったら、いつかまた他の神様に、この世界へ戻されて来るかわからんで、それにや、もしアイツに地上世界と精神界とを自由に行き来する能力が発現すれば、また現れるかもな。」
ゼリーが、トンでもないフラグを立てた。
「それは困るなあ~」
「わっはっはっはっ!」
二人のやり取りを聞いて誠三郎が大笑いをする。
一方、こちらはアズマン。
『ガロヤスミカンダは自分自身は影に潜んで一切姿を見せず他の者を操って、この世に混沌をもたらしているとは聞いていましたが…まさか、私自身も、あのガロヤスミカンダの手のひらの上で踊らされていたとは思いもよりませんでした…』
アズマンはこの7000年間、自分が一柱の邪悪の神によって良いように操られていたという事実に愕然としていた。
だがそんなアズマンにヴィスコが声を掛ける。
「それなんですが、これまでガロヤスミカンダは姿を見せなかったのではなく、見せられなかったのではなかったのかと思うんです。」
『姿を見せられなかった?』
「はい、ガロヤスミカンダが人前に姿を現さなかったのには恐らく理由があったのではないかと思います。」
『え?理由?それは一体どういうこと?』
「まあ、これまでの話や集めた情報を総合して考えたんですが、ガロヤスミカンダという存在は、元々『邪神』という位置付けであり、本体は『精神界』に存在するべきモノだと考えられます。ですが、何故かガロヤスミカンダはこの世界に留まざるを得ない状態、つまり、魔力値は低いため『精神界』には存在出来ないが、地上世界でも自分の存在を維持することが難しい状態、例えれば、この地上世界では本来の自分の姿、つまり『本体』というモノを持っていなかったため、他の人間や動物、偶像等に憑依して移動するしか方法がなかったのではないでしょうか。」
これまで自分の部屋である『ビスコの部屋』で集めた情報を元に組み立てた仮説ではあるが、水無月水覇や神の子孫といわれた『亜神族』に取り憑いていたのも、そういった理由があったのだろうとヴィスコは推理していた。
『なるほど、本体を持たない存在…それならば納得がいく。』
こうしてアズマンがようやく事態の整理を終えた頃、ゼリーが声を掛ける。
「さて、アズマン…」
『えっ?』
「お前の希望は叶えてやるからちょっとだけ力を貸せや!」
そう言うとゼリーは空間魔法を展開した。
そしてその亜空間の中から本物の転生者を呼び出した。
チョッコ・クリムであった。
「何だい、ゼリー?また何か用かい?」
チョッコ・クリムがヨロヨロと空間から現れた。
そしてゼリーがアズマンにこう言う。
「アズマン!このババアをお前の『時の魔法』で若返らせてやってくれや!」
「誰がババアや!」
チョッコがゼリーにツッコミを入れる。
『……こ、この人は?』
「このババアが正真正銘の宮離霧千陽子の生まれ変わりや!」
『こ、この人が…クリムさん…?!』
クリスタルの状態になっているアズマンが緊張しているのが伝わってきた。
「ワイがコントをやるより、本物の転生者のババアとエージがやる方がエエやろ?」
「こら!ババア、ババアってうるさいぞゼリー!」
チョッコはそう言うと、ゼリーに魔法を掛ける。
魔力値はチョッコよりゼリーの方が遥かに高いが、とある方法でゼリーの体にはチョッコの魔法が干渉する。
そして、突然ゼリーが叫び出す。
「うわっ!くっさ!めっちゃ臭いわ!何やこれ?!うわああああああ!!」
ゼリーは突然自分の体からいきなり臭い臭いがしてきたので、その場でのたうち回る。
「参ったか?チョッコ様特製の『濃縮ニンニク水溶液』をお前の体に注入したんや!お前がババア、ババアとうるさいからな。」
「うわー、やめてや!そんな地味な嫌がらせ!」
「うるさい!そしたらババア言うたこと謝るか?」
チョッコは、小さくなっているゼリーの体を指で摘まんで引き上げ、自分の顔をゼリーの顔に近付けた。
チョッコとゼリーとの間には、蔵光とは違う特別な主従関係が存在するようだ。
「うぅぅー、わ、悪かった。謝るわ。」
観念したのかゼリーがチョッコに謝った。
「ふっ、しょうもない奴やのう。」
そう言ってチョッコがゼリーを地面にポトリと落とすとニンニク魔法が解ける。
そして、ようやくチョッコから解放されたゼリーは再びアズマンの方を向く。
「と、とりあえず頼むわ。」
そう言ってゼリーは再度、チョッコの若返りをアズマンに依頼する。
『た、確かに本物の方がいいですよね。…わ、わかりました。では…』
アズマンがそう言うとチョッコ・クリムはあっという間に二十代の若さになった。
「こ、これは?!」
チョッコが驚いて自分の手を見る。
シワシワであった手がツルツルになっている。
ヨボヨボの体がシャンとする。
顔や体のシミも消え失せ、白髪は金髪に戻る。
「頼むでババア。」
ゼリーがそう言うと、チョッコが今度はすかさずツッコミのチョップを入れる。
「お前、また言うたな?!アホ!よう見てみい!誰がババアや!こんなピチピチギャルになったワイになんちゅう事を言うんや!」
流石のチョッコもゼリーにピチピチの若い姿に戻してもらったためか、今度は怒りながらも笑っていた。
「わかった、わかった!後はこいつから説明してもらってや。」
そう言うとゼリーは体内空間からエージを出した。
エージは目の前のチョッコを見ると直ぐにそれが千陽子の本当の生まれ変りの人物であることに気付く。
「うわあ!本物や!本物の千陽子さんやあ!目付きの悪さなんかそのまんまやないですか!」
と言ってチョッコに抱き付こうとしたが、チョッコから顔面にカウンターパンチをお見舞いされた。
「おふっ!やはり千陽子さんや…」
エージは倒れながらも笑っていた。
その様子を見ていたチョッコもエージの姿を見てハッとする。
「おっ!お前、もしかしてエージか!?」
チョッコ自身は今回、初めてエージの姿を見た訳なのだが、空間内でゼリーとシンクロしていた頃に、ある程度はエージの情報を貰っていたので直ぐにと言うか殴ってから気付いたのだった。
「という事で、今からアズマン、いやマキーオこと東万紀男にコントを見せてやって。」
ゼリーが二人にお願いする。
「何でこいつに?」
チョッコがゼリーに尋ねる。
「クリム&カリスマの大ファンらしいわ。」
とゼリーが言うとエージは、
「話を聞くとファンというよりはストーカーに近いらしいですよ。」
と答える。
「何やそれは?キモイ奴やな。」
とチョッコから低評価の感想を述べられるとアズマンから驚きの事実が語られた。
「クリムさん、私もそうなんですが、実のところ、日本では私の父親もクリムさんのファンだったんですよ。」
「えっ?何やそれ?初耳やけど?」
ゼリーもその話は聞いたことがなかった。
「実は私の父親はアズマグループという親会社の会長で、私はその傘下にある東運送という運送会社に勤めていましたが、父親はその他にも関連会社として『AZUMANIA』という子供服メーカーも全国展開でやっていました。」
「な、?!何やて!そ、それは、ホンマか?!」
チョッコとゼリーが同時に反応する。
「まさか、お前の父親って…チューやんか!!?」
チョッコとゼリーがハモりながら答えを言うとアズマンがそれに反応する。
『その通りです。私の父親はチューやんこと東忠男です。』
『マジか…』
アズマンの回答にチョッコとゼリーが愕然としていた。
しかし、エージにはまだピンときてはいなかった。
「えっ?アズマンのお父さんって、一体、誰?」
エージがチョッコに尋ねるとチョッコがそれに応える。
「以前、と言うか転生前に京丹後のペンション『ゴースト』でコント用の衣装を持ってきてくれたオッサン覚えてるか?」
「えっ?もしかしてあの人の息子さん?」
エージもようやくアズマンの父親の正体が何者なのかわかったようだった。
「そう言うことならば…、あの時の衣装の礼をするためにも…やらんとあかんわな。」
チョッコがエージに言うと、エージもそれに応える様に頷く。
「でも、ちょっとだけ時間をくれ!エージとネタを合わせるから。」
とチョッコがアズマンに言うとアズマンも、
『わかりました。お願いします。』
とそれに応えた。
「おい、エージ!ネタは出来とるんか?」
「出来てる。でも、あの頃の様なキレは無いかも…」
エージは転生した本物の方の千陽子が空間にいるとゼリーから聞いたときから少しずつネタを作るようにしていた。
「チッ、あの頃って…お前がいつキレのあるネタが作れたんか全く覚えてないけど、しょうがないな。まあ、ええわ、ちょっとそのネタを見せてみい。」
チョッコがそう言うとエージは用意していたネタを書いた紙をチョッコに渡す。
そして、チョッコはそれに目を通した後、エージを睨む。
「ふーん、ホンマにキレないな。」
「ゴメン。」
エージが頭を掻く。
「まあエエわ。そしたらちょっとだけネタを合わせよか?」
「うん、わかった。」
こうしてチョッコとエージ、いや千陽子と叡知は何百年もの時を越えて再びコンビを組むこととなったのだった。
インスタグラムで、『宮離霧千陽子とチョッコとゼリー』の画像を公開しています。
それでは次回もよろしく。
(*´∀`)♪
インスタグラムで設定画を公開中。
銀龍院鈴星かginryuuin_rinseiで検索できます。
カクヨムで「ドラゴンマスク」連載中。




