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水無月蔵光の冒険譚~第二部 古代地下帝国の謎を追え  作者: 銀龍院 鈴星
第三章 マリガトリア帝国
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第49話 悪夢再び

まさに悪夢が再び降り掛かろうとしています。

第49話 悪夢再び

蔵光達は、悪魔落ちした亜神族の一人から出たその声に驚いていた。


「確か、去年、エージが言うてたよな『『悪魔落ち』になった魔族の者は、その『絶対悪』の尖兵として誕生する。』って。」1-130

蔵光がそう言うと、ゼリーの空間魔法の中でその話を聞いていたエージがハッとした表情となる。


この時、エージが外の声を聞けた理由だが、ゼリーの空間魔法には種類があって、その内、体内空間魔法というのは、別に使っている亜空間の魔法と違い、外の声を聞く事が出来たり、周囲の状況を映像魔法で見たりすることが可能な特殊な魔法である。

また、体内とは言うものの、実際は別の次元にあるので、ゼリーが攻撃などで受ける衝撃等は全く感じないものとなっているのだ。


話を戻そう。


「そうです。その誕生には『悪魔素』が必要になり、悪魔素は、『絶対悪』の力の根元ですが…まさか、邪悪の神は亜神族をも悪魔落ちさせたうえに、自らの尖兵をアズマンの空間魔法の中に潜ませるのでなく、本体自身が潜んでいたということですか…?」

「まさか…」

エージの説明により、全員がその可能性に気付いた。

つまり、『悪魔素』が存在し、それにより『悪魔落ち』する魔族がいれば、それは、勇者の復活に合わせる様にして2000年に一度現れるとされる混沌の悪魔の復活を意味する…。


「じゃあ、この悪魔落ちした亜神族がその『絶対悪』そのものであるとすれば、こいつの名は!」

ヘルメスが勇者としてその存在を感知した。


「ガロヤスミカンダ!!」

全員が声を揃えて叫ぶ。


「確かにこの声はガロヤスミカンダの声やけど、アイツは去年(あるじ)達に消し飛ばされたんとちゃうんかいな?」

確かにゼリーが言う通り、あの時ガロヤスミカンダは、蔵光の先祖である水無月水覇の体に取り憑いていたが、あれはヘルメスが浄化したはず…だった。


だが、その答えをガロヤスミカンダが説明した。

何とも丁寧な邪悪の神である。


「ふ、あの時は我の力の少量をあの水無月の若造に分け与えていただけだ。あの力が我の全てと思わない事だな…」

ガロヤスミカンダの声で言葉を発する亜神族の者の様子がおかしい。


悪魔落ちした亜神族の者達はその一人を残して全員がその場に倒れてしまった。


「これは……魔力量があがっている。」

蔵光がガロヤスミカンダの魔力量が上昇していることに気付く。


『亜神族とは上手く言ったものだな、高い魔力量を持ち、神の子孫と言われる奴等から長い年月をかけて少しずつ魔力を奪っていき、腑抜けにしてやったわ!』

一人となった悪魔落ちの亜神族はさらにその姿をおぞましい異形の姿へと変貌させていた。



「そんな…もしかして、今の亜神族の人達の魔力値が低いのはそれが原因?」

ヘルメスが尋ねるとガロヤスミカンダは自慢げに語る。


『くははは!その通りだ、現世と精神世界を行き来する私が序列のある精神世界の方で力を得ることは難しい。かといって、こちらの世界には我の魔力を復活させる程の『負の魔力』を持つ者などいなかった。だが、そんな時、我の前に現れたのが亜神族なのだよ。彼等は常に傲慢で、利己主義で、他の種族を見下している。そんな奴等だからこそ、我の精神支配がしやすい存在だった。我は負の魔力を増幅させる『悪魔素』を与え、力が強くなったと勘違いさせ、その裏では世代を重ねる毎に奴等の膨大な魔力を吸収し、この日のために力を蓄えてきた。』

「この日のために?」

『そうだ、この間の『魔海嘯』は、まあ、言うなれば()()だな。あれが成功していれば御の字というところだったが…、まああれは我から言わせれば『想定内』というところだな。あれで、少しお前達の目を逸らせる事が出来たのが良かった。我が完全に魔力を取り戻すためにはまずお前達勇者から、いかにこの存在を隠し続けていかなくてはならなかったのかというのが一番の問題だったからな。特に魔力の高い勇者と水無月の者達の力は見くびってはいけないことはわかっていたしな。」

ガロヤスミカンダが勇者に決して油断はしていなかった事を話す。


『まあ、7000年前に現れ、今も生きているアズマンの力には、予想通りとはいえ驚いたが、上手く奴の力を利用して空間内に隠れる事が出来たのは我としても良い判断だった。当然だが現世で神と同等の力を持つ人間なんて我にとって非常に厄介な存在だったからな…』

「そんな……7000年前から?」

『そうだ、これまで我が復活して現れたというのはこの日のための伏線とだけ言っておこう…』

蔵光達は油断することなくガロヤスミカンダの話を聞いていた。


「まあ、お前達の想像通り、我は亜神族の中に紛れ込み、一度そこのアズマンの力によって封印されたように偽装して力が蓄えられるまで空間魔法の中でその時を待っていたという訳だ。ここまで非常に長かったが、まあ利用が終われば何て事はない、奴ももう動けないみたいだからな…』

そう言ってクリスタル化したアズマンを見た。


「そんなことまで…」

『まあ、良いではないか、私は今日は気分が良い。本当の姿を見せてやろう。』


ガロヤスミカンダは変貌させていた姿をさらに変化させる。


「こ、これは!!」

蔵光や王鎧の表情が険しくなる。


「これって、太陽神ラーの神殿で感じたのと…」

ヘルメスが言おうとするとゼリーがその言葉を遮る。

「全然似てない!魔力値が高いだけや!コイツはヤバイで!最悪や!魔力値が…」

ゼリーがリストウオッチ型のマソパッドをガロヤスミカンダにかざして魔力量を計測する。

ニューマソパッドには使用制限の魔力値はあるが、測定については旧マソパッド同様にいわゆる存在上限界と呼ばれる魔力値の辺りまで測定が可能だ。

そして、その測定値が今までで一番の最高値を記録した。


「アホな!?490億を越えとる…」

ゼリーが驚きの声を上げる。


「存在上限界ギリギリ…」

エージがそれを聞いて難しい表情となる。

存在上限界を越えれば現世でその姿を維持することが困難であるが、目の前にいるガロヤスミカンダはそのギリギリの魔力値を維持して蔵光達の前に立ちはだかってきた。

言うなれば地上最強の魔力値を持った存在なのだ。


「うおおおおーー!!」

ヘルメスがガロヤスミカンダに飛び掛かる。

だが、ヘルメスの体は何かの壁に阻まれた様に空中で停止し、次の瞬間には物凄い勢いで弾き飛ばされた。


「くっ!そんな…」

聖神力に包まれたヘルメスの体であっても、これほどの高魔力値の完成体となったガロヤスミカンダの体には触れることさえ出来なかった。


「ふはははははは!さて、手始めに我を倒すとか言われている者の存在を消すとするか…」

異形の邪神はそう言うとゼリーに視線を向ける。

それを見て蔵光の顔が焦りの表情となる。


「ゼリー!逃げろ!」

蔵光が叫ぶがそれは既に遅かった。


ボシュー!!

ゼリーの体が一瞬で蒸発したように水蒸気の様な煙を上げて消滅する。



「ゼリーぃぃーーー!!!!」

蔵光が叫ぶ。

精神異常無効も効かない程感情的になった蔵光の叫びが空間内に響いた。


「ははははは!『魃』だったかな?確かにこの魔法はスライムには良く効くな。」

何とガロヤスミカンダはゼリーに水魔神拳の様な技、いや水魔神拳そのものを使っていた。

間違いなく水無月水覇の記憶から会得したものであろう。


「次はお前…」

ガロヤスミカンダはヘルメスの方に同じ様に攻撃を仕掛けた。


「えっ!?」

最大の警戒はしていたが、ガロヤスミカンダの魔法攻撃にヘルメスは全く反応出来なかった。

だが、その攻撃は意外というか簡単に弾かれた。


バチーン!!


「な!?」

ガロヤスミカンダもそれには意外な反応をした。


「こ、これは…『自動絶対防御』…」

ヘルメスが呟く。

実はここで言う『絶対』は神から与えられた力を基準とした『絶対』であり、地上の世界で使われる言葉『絶対王者』のような地上限定みたいな生半可なものではなかった。

「むう!流石に我よりも上位の存在の加護は現世でも破れんか…まあよい…」

ガロヤスミカンダが少し唸るが、さほど気にはしていない様子である。


「蔵光殿!」

ヘルメスが蔵光に声を掛ける。

ゼリーを消滅させられたことで、一瞬だがそれに気を取られていた蔵光がハッとした表情となり、ヘルメスを見る。

それは、ガロヤスミカンダの攻撃を弾く事が出来るのであれば、まだ望みがあるということをヘルメスは目で合図していた。


『すまない…』

蔵光にとってのゼリーは従魔というよりは、既に家族と言っても良かった。

そんなゼリーを一瞬で消滅させたガロヤスミカンダに対して憎しみの心が沸き立つことは何ら不思議なことではなかった。

蔵光はガロヤスミカンダを恐ろしい程の形相で睨む。


「はーっはっはっはっはっ!私が憎いか?殺してやりたいと思ったか?それこそが負の感情!私の求めている混沌の力だ!」

「何っ!?うっ!」

ガロヤスミカンダがそう言った瞬間、蔵光の体が硬直する。

蔵光は、ガロヤスミカンダから水覇を取り込んでいた時と同じように精神を支配されそうになっていた。

それはガロヤスミカンダが言う『負の感情』が引き金となり発動する恐ろしい力であった。


「憎め!恨め!お前のその憎悪の感情が我をさらに強くするのだからな!」

ガロヤスミカンダの声が蔵光の頭の中に響く。


「ぐああああーー!!」

蔵光はそれに抵抗しようとして頭に激痛が走り、魔力の制御が出来ずに地面に墜落し、さらにそこでのたうち回る。

普段であれば、相手に自分の魔力が干渉するのだが、今は逆に相手の魔力値の方が高いため、自分に魔力が干渉してくるのだ。

そして『破魔』の能力を持つ如意棒をもってしても、蔵光自身が負の感情で満たされてきていることや、蔵光自身の魔力値を遥かに超す魔力干渉のため、中々打ち消す事が追い付かなくなっていた。


だがこの時、別の声が蔵光の頭の中に響いた。

『蔵光さん、負の感情を捨てて下さい。でないと奴に精神を取り込まれます!』

「こ、これは?!アズマン?」

蔵光がアズマンの声に反応した。


『奴は負の感情を糧にしています。精神が負の感情で満たされれば奴に精神を乗っ取られます。気持ちをしっかりと持ってください!』

アズマンの声がその場にいる全員に届く。

それはアズマンの魔力も存在上限界に来ているため、全員の体に干渉していることを意味していた。

だが、それが、蔵光を救うきっかけとなった。


「蔵光!奴を恨むな!憎むな!今こそ水魔神拳の真髄を思い出すのだ!」

王鎧も蔵光に語り掛ける。


「水魔神拳の真髄…」

蔵光がアズマンや王鎧らの言葉に反応する。

そして、蔵光は高速思考により一瞬でその答えに到達し、ハッとする。


「そうだ、水魔神拳の真髄は『鏡の様な水面の如く心静かに穏やかに、さすればそこに勝機が訪れる。』が信条!すっかり忘れていた。」

蔵光の表情がたちまち正気を取り戻した表情へと変化し、それとともに硬直した体が元に戻っていく。


「いくら魔力値を高くしても魔法が効かなければ意味がない。」

蔵光は手に持っている如意棒を見る。

蔵光の意識が正常になるとともに、如意棒の能力が正常に戻り、しっかりと『破魔』の役目を果たしているようだった。


そして次にヘルメスを見た。


「ヘルメス!」

「?!」

名前を呼ばれたヘルメスが蔵光を見る。

アイコンタクトでヘルメスは蔵光の考えを悟る。


「奴に攻撃を止められたのは高度の魔法障壁だ!奴を止められるとすれば…」

蔵光がそう言った次の瞬間、蔵光の姿が残像とともにその場から消える。


「うおおおおおおーー!!!」

気付けば蔵光はガロヤスミカンダの魔法障壁を突き抜け本体にダメージを与えていた。


「ぐおおおおおおおー!!」

ガロヤスミカンダが大きな叫び声を上げた。

ガロヤスミカンダ自身、蔵光の速度には余裕で対応出来ていたはずだったのだが、その胸には如意棒が突き刺さっていた。

「この如意棒の『破魔』の力は水の女神ミズハノメ様から与えられたものだ!いくらお前の魔力が強かろうと勝てる訳がない!!」


蔵光への精神干渉がなくなったため、本来の如意棒の力が発揮されていた。


これにより、蔵光の攻撃がガロヤスミカンダに届くことになったが、攻撃はこれだけではなかった。


「うおおお!!!」

『破魔』の力で破られた魔法障壁の破れた隙間からヘルメスとザビエラ、そして誠三郎、ヒダカらが入り込み、さらに邪神の体から延びているいくつもの巨大な腕や触手を切り裂き、或いは切り落とし、最後はヘルメスがその体に剣を突き刺し貫き通した。


これによりガロヤスミカンダに相当の深手を負わせたと思われたが、そうは問屋が卸さなかった。


「ぐぬおおおお!!」

ガロヤスミカンダが大きな唸り声を上げると、再び魔法障壁が張り直され、全員がその衝撃で弾かれた。


「ぐあ!」

「ふぐっ!」

「がはっ!」

全員がホールの壁に叩き付けられ苦痛の声を上げ、さらに打ち付けられたホールの壁から地面へ落ちる。

だが、防御魔法を掛けていたので致命傷は避けられたようだった。



「あっ!」

そんな中、ザビエラがガロヤスミカンダを見て叫んだ。

そしてその声に全員が釘付けとなる。


「か、体が再生している…。」

よく見るとガロヤスミカンダの体で破壊された部分がどす黒い霧に包まれ一瞬で再生している。


「はあはあ、そんな…あれだけの攻撃が通用しないのか?!」

「ううう、単に魔力量が桁外れだからなのか?」

「はあ、はあ、そもそも再生魔法なんてものが邪神にもあるのか?」

口々に疑問が飛び出る。


「よし、もう一度だ!」

蔵光がガロヤスミカンダに再度飛び掛かるが今度は相手から魔法の攻撃が襲いかかってきた。


蔵光は如意棒を前面に出して自分に向かってくる凶悪な魔法を何とか弾き飛ばす。

雷鳴の様な轟音がその度にホールに響き渡る。

地面に落ちたその魔法は地面を溶かし、『悪魔素』の噴出する場所の様な真っ黒の穴を開けていく。

少しでも触れれば呪いがかかる呪詛魔法のようだ。


それに、段々と相手の攻撃の数が増えてきたのか防御は出来ても相手に攻撃が出来ない。


「くそ、どうすればいいのだ!」

ヘルメスが相手に攻撃が届かないことに苛立ち始めていた。






いよいよ第二部も佳境になりました。

もう少しなので頑張ります。

(*>∇<)ノ


インスタグラムで設定画を公開中。

銀龍院鈴星かginryuuin_rinseiで検索できます。

カクヨムで「ドラゴンマスク」連載中。



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