第39話 ジパング王国7 居残り
現れたのは?だーれだ!
第39話 ジパング王国7 居残り
「皇詞ぃぃ~!!あああ…」
蓮之進が悲痛な声で皇詞のいた場所辺りに向けて叫ぶ。
水無月家の分家の当主と言えども、流石に実の息子が死の霧に晒されるとあって、かなり動揺していた。
だが、そんな動揺も関係ないかの如く、霧の向こう側から男の声が聞こえてきた。
「そんなに騒ぐな蓮之進!」
霧の中に飲み込まれた息子に狼狽えていた蓮之進がハッと我に返り、瞬時に声のする方向を見る。
「こ、この声は…?」
「『魃』」
さらにその声が洞窟内に響くとみるみるうちに霧が晴れていく。
「あ、あ、あ、うわあああ!」
そこにいた全員が死を覚悟していただけに、霧が晴れていくのがわかると大きな歓声が上がる。
そして、その歓声にはもうひとつの意味があった。
霧の中から突然、自分達の目の前に水無月航夜の姿が現れたからだ。
水無月一族の中でも一番力を持つと言われるその絶対的な存在は、目の前にいるというだけで彼等に絶大な安心感を与えていた。
また、彼等はもうひとつの変化も見逃さなかった。
「あれっ?エンペラースライムは?」
誰かが声に出す。
「本当だ、奴は一体どこに?」
霧の向こう側にいたあの恐怖の元凶であるエンペラースライムの姿が見当たらないのだ。
「ふっ、これの事か?」
航夜が足元に転がっている小さな石ころ程度の『何か』を指でつまんで拾い上げる。
それは饅頭くらいの大きさで、拾い上げた感じから少し弾力のあるように見え、洞窟内の地面の土にまみれ、まるで焦げ茶色の『きなこ餅』といった感じだ。
よく見ると少しピクピクと動いている。
「そ、それは!?」
蓮之進がその『何か』を観察する。
「スライム…、も、もしやそれは先程のエンペラースライム?!」
蓮之進の驚きにも航夜は動じず片方の眉を少し上げておどけた表情となる。
「ど、どうして?」
皇詞の方は地面に座り込んだまま、自分の手足を見ながら自分の身の上に起きた出来事の状況把握が追い付いていなかった。
皇詞はあの死の霧の中へ完全に包まれた時、死を覚悟した。
だが、実際のところ自分の体は溶けずに目の前に存在していたからだ。
航夜はその呆然としている皇詞の横を通り過ぎ、息子の近くまで駆けつけていた蓮之進の前までやって来た。
「航夜様、先程のは魔神拳の奥義『魃』で御座いますか?」
蓮之進が航夜の前に膝を付いて敬意を示しながら、先程の水魔神拳のことを尋ねた。
水無月家の者達の中には蓮之進の様に水魔神拳を『魔神拳』と呼称する者もいる。
「ああ、そうだ。この奥の通路内でコイツらが大量に湧いていたんだが、一匹だけこちらに逃げたみたいだったんで追い掛けてきたのだ…お前達では荷が重いだろうと思ってな…」
「それでこちらに…」
蓮之進との会話で航夜が平然としゃべる言葉の内容に皇詞は恐怖を覚える。
『あのエンペラースライムが大量に発生していただと?と言うことはつまり、それらを全て倒して、さらに逃げていた先程の奴を駆逐しに単身でここまで来ていたと言うのか?!』
たとえ一匹であっても、その驚異の殺傷能力に分家の者達は逃げ惑うしか手がなかったのに、本家の者達は大量のそれを倒しきり、それに加えて、その魔物自身でさえ、本能で彼等の危険性を察知し、逃げ出してしまう程の桁外れの強さに愕然とする。
「しかし、噂に違わず、魔神拳とは凄まじい威力ですな。」
そう言って近付いてきたのは主眞だった。
「ふっ、これは息子が以前に考えたという討伐方法でな、先程もそれを教えてもらったお陰で父上らと全て討伐に成功したのだ。それがなければ我らも奴に溶かされていたかもな。わっはっはっ!」
航夜が声を上げて笑う。
それが本当かどうか判然としないが、主眞には、航夜達伝承者が、自分達の身体が命の危険に晒されていても動じていなかったということをその口調で悟る。
彼等、伝承者には『精神状態異常無効』というスキルがあると聞かされているが、死にそうな目にあっていても、いつでも冷静に対処出来るという事実に驚かされる。
だが、それ以上に主眞が驚かされたのは航夜が大笑いをしたことだった。
普段、航夜は声を立てて笑うことはない。
立場的なものやスキルの影響等もあるのだろうが、いつも感情が読めない表情をしている。
それがある意味、彼の恐ろしさを際立たせていた。
それだけに水無月本家の伝承者が大笑いするという余り見られない光景に、分家の当主達全員が動揺しながらも、引き吊った様な愛想笑いを航夜に返す。
「あの技を蔵光様が…?」
「ああ、我等も『換』や『魃』は使えるのだが、水質変換の魔法の『換』はあまり使わないし、水分を吸収する『魃』で相手の体内から水分を抜き取る様なことはしないからなあ。」
「そうなんですか…」
普段、航夜や王鎧達は戦闘には専ら物理攻撃には『水化月』と呼ばれる高圧の水の刃や『滴』という硬質化した水滴をマシンガンの様に飛ばす魔法を使用したり、『水激・零座』と呼ばれる水のレーザービームの様な大量殺傷魔法を使用するので、蔵光の様に水魔神拳でも補助魔法的な位置にある『水恵』と呼ばれる魔法群の中にある『膜』『換』や『魃』はあまり戦闘に使用しないのだ。
なので、それらの魔法を戦闘用に使用して戦う蔵光は、伝承者の中でも異質な存在と言えるであろう。
「水魔神拳の応用ということらしいが、あの技で同じ様にして今の従魔を従えたらしい。」
「えっ?と、という事は、もしかして蔵光様の連れておられる従魔とはエンペラースライムなのですか?!」
主眞が驚きで大きく目を開く。
「そうらしい、それに異世界からの転生者の記憶を持ってもいるとも言っておった…。」
「ほお、異世界の…何と珍しい!」
「ほら、そう言えばお前が以前、キングドリルの討伐を依頼してきた時の話だ。」
「えっ?と、ああ、あの時の…!確かあの時の蔵光様はまだ10歳くらいでしたか?」
「そうだな、父上が『エブーダの森で遊んでこい。』と言って送り出したらしい。」
「はは、あの魔物の森でですか?それはまた豪気な…それでキングドリルのついでにエンペラースライムを従魔にですか?」
「うむ。」
航夜が頷く。
それを横で聞いていた皇詞が頭をガックリと下げ、
『何だ?俺って、こんな化け物みたいな奴らに意地を張っていたのか?』
この時、皇詞は初めて自分達と蔵光達との世界の違いをハッキリと認識したのだった。
「航夜様はこの後、また岩戸の方へ?」
「いや、ここに残るとしよう。ここで、またさっきの様な奴等が湧いても困るからな。」
「と言うことは?」
「ああ、順位の査定は無しだ。」
それを聞くと主眞の顔に安堵の表情が浮かぶ。
まあ、さらにエンペラースライムに来られても困ると言うのもあるのだが、こんな中途半端な状態で順位査定をされても困るし、本家の航夜が介入する程の事態な訳だからそれもやむ無しといったところであろう。
「了解しました。では我々は何を?」
「そうだな、各分家は当主、若しくはその代理を残して全員上階へ上がって待機、当主達は俺の指示があるまで連絡要員として、ここで待機だ!」
「はっ!」
全員、直ぐに航夜の指示に従う。
誰も文句は言わないし、異議を唱える者はいない。
何故なら彼の命令は絶対だからだ。
「おい、急げ!乗り遅れるな!」
航夜の指示を受けた各分家の配下の者達は降りてきた魔導エレベーターに乗って上がって行く。
エンペラースライムの恐怖も冷めやらない状態だからであろう。
部隊員のほとんど全員が我先にと、駆け込む様にしてエレベーターに乗って行った。
屈強な水無月家の家来達も、流石に伝説の魔物に対する死への恐怖には勝てなかったようであった。
「王鎧様達は?」
「そのまま地下にあるという帝国に向かって階段を降りてるよ。」
「地下の帝国というやつですか…?」
「そうだ、マリガトリアと言うらしい。俺達本家の者よりも強いと思われる者が存在するという話だ。」
「まさか?本当ですか?」
主眞は疑わしいような目をして航夜を見る。
水無月一族の強さを知っている分家の当主であるからこそ、そんな眉唾な話に対して、すぐには信じがたいところがあった。
「タイトバイトス皇国にある北の森のダンジョンにはかなりレベルの高い魔物がいてな…」
「はあ、何の話ですか?」
主眞は航夜の話の内容が別の話に飛んだので一瞬戸惑う。
「そこは俺や親父殿が昔、武者修行中に入った事があるダンジョンでな、とんでもないレベルだったよ、それこそ命懸けという奴だ。それも今回の話に関わっていたものらしい。」
「まさか?その話も本当なのですか?」
「そのダンジョンを作ったのが今回の件の元となる人物らしいということまでは聞かされた。確かにあのダンジョンにいた最後の階層にいたボスの魔物はかなり危険だったからな。」
「それほどですか…?」
「息子が、そのダンジョンにいた魔物達が以前戦っていたという『亜神族』とか『神の子孫』と呼ばれる者達が今回の相手になりそうだと言っていた。」
「それはかなり厄介ですな。ですが、それならばなおさら航夜様もここにはおられない方がよろしかったのでは?」
「ああ、だから俺もこちらに加勢することにしたのだ。」
「あっ!」
主眞は、航夜がエンペラースライムが再びこの開かれた岩戸から現れ、更にこの場所にやってくる可能性を考えてここにやって来ている事をあらためて理解した。
「そうですか…わかりました。」
「まあ、そういうことだ。あちらの方は大丈夫だろう。親父殿が付いておられるし、増援も間もなく来るだろうしな。」
「増援…ですか…?」
「ああ、飛びっきりのな。」
航夜はニヤリとして主眞を見た。
それは子供が何かイタズラを計画するようなどこか茶目っ気のある表情であった。
「まあ、何にしましても航夜様がここにおられるというだけで私共も非常に安心して対応させてもらえます。」
と主眞が言うと航夜は主眞の耳元に口を寄せ、
「まあ、魔物の対応は俺がするから、少し頼まれ事を聞いてくれないか?」
と話した。
「頼まれ事とは一体?」
何でも出来る航夜から頼まれる様なことがある事自体珍しいため、主眞も少し気を引き締めて話を聞く。
「いや、大したことではないのだが、朝から色々と用事があってな、実は朝飯を食べるのを忘れていたのだ。食べてくれば良かったのだが、蔵光達に『直ぐに出るぞ』と偉そうな事を言ってここまで連れてきた手前、俺だけ飯を食べに帰る訳にもいかず、困っておったのだ!」
「ぷっ!航夜様!もうすぐ昼ですよ、我慢出来ないのですか?」
主眞はあまりの可笑しさに吹き出す。
「そう、笑ってくれるな、俺達、伝承者は魔力やスキル『超剛力』に使用するエネルギーの値が高い分、体内でのエネルギー消費量も多い。だから、普通の人よりも多くの食料を必要とするのだ。なので数時間もすればお腹が空きすぎて大変なことになるのだよ。」
と航夜はもっともらしく解説する。
まあ、蔵光も確かに食べる量は多いが航夜が言うほどではない。
だが主眞は、確かに航夜がかなり体内燃費が悪そうというか、かなり大食漢なのが理解できた様で、直ぐに食料の手配を始めた。
主眞は、これまで航夜に対しては水無月一族の伝承者として、普通の人間と違うというよりか、人間とは一線を画している人物という考えを持っていた。
だが、この様な人間らしいところを見せた航夜に対し、
『航夜様もやはり一人の人間でしたな…』
と主眞は少なからずも共感を持った。
そして、主眞と一緒に食事の準備をしていた姫羅が、
「お父様、ニヤニヤしてどうなされたのですか?」
と尋ねてきた。
自然と顔が笑っていたようだった。
「いや何でもない、思いだし笑いだ。」
「そんなに面白いことがあったのですか?」
「かなりな、ふふふ。」
「変なお父様。」
姫羅もあまり笑わない父親がこんな緊迫した場所で笑っているのを見てつい連れて笑ってしまうのだった。
【アサッテ・ハイドのクエスト日記】
ここはイスパイタス王国の廃棄都市ダークウィンダム(旧都市名ウィンダム)。
ソウド「アサッテ、噂の『キメラ』はどんなタイプの合成魔物なんだ?」
(´・ω・`)?
アサッテ「それがな、全くわからない。ははは」
ヾ(´▽`*)ゝ
シン「ちょっとぉ~!そんな情報も無しにここまでやって来たって言うの?」
(。・`з・)ノ
ガズン「この間も言ったように、俺の聞き込んだとこでも、軍の下の者達にも話は聞かされていない程の案件だ、かなり上層部で極秘にされている様だった。」
ヽ(´・ω・`*)
シ「じゃあ、とんでもない奴だったらどうするのよ!」
(*゜Д゜)ゞ
リルカ「ちょっと静かに!!」ヘ( ゜Д゜)ノ
ア「どうした?!」ヽ( `・ω・)ノ
リ「何か、音が…」(丿 ̄ο ̄)丿
ソ「そういえば…何か低く唸る様なブーンという…あっ、あれは!」
( ・_・)ゞ
ガ「何だ?あの黒い影のような…」(´・ω・`)?
ア「早く建物の中に隠れろ!」(;´゜д゜)ゞ
ーーー◇◇◇ーーー
リ「ふー!何とか逃げられたけど…」( ´Д`)=3
シ「何あれ?」((( ;゜Д゜)))
ソ「昆虫…か?大群だったな…」∩( ´Α`)
ア「キメラだ…イナゴと何か別の魔物との融合体だった。」
(・д・)ノ
シ「えっ?アサッテ、あの一瞬で見えたの?」
(;゜∀゜)
ア「まあな、だがキメラがあんな大群だとは思わなかった。」
(*´・∀・)ノ
ガ「どうする?アサッテ。出直すか?」
(*´・ω・`)b
ア「いや、やる!」( ̄^ ̄)
リ「ふー、やはりそう言うと思った。」
(´・∀・`)
シ「そう来なくっちゃ!」(*´∇`*)
さてさて、キメラ討伐を決めたアサッテ達のパーティーの運命や如何に?!




