第30話 メディスロンの話
メディスロンの話には謎がある。
第30話 メディスロンの話
メディスロンは、キングファイアバード族の王として四つの森を守護している魔物の王の一人であり、ヨルムンガンド、タラスク、ビー・クイーンらの中でも最古参の魔物である。
年齢は一万年を越えた辺りから覚えていないらしい。
だが、四人の魔女同様に、アズマンから『時の魔法』で肉体を若返らされていた。
メディスロンの話の内容はほぼ、サバーニャの言っていた内容と同じであったが、多少違っていた部分というか、彼自身の経歴について話したので、それについて掻い摘んで話をすると、彼は若い頃、例のワダツミと戦い続けていて、自分の炎が効かなくて、逆にワダツミの炎に焼かれ、一度、死んだと思ったが、何とかファイアバード種の特性により蘇生し、甦る事ができた話や、その後はワダツミを恐れて、島を抜け出した事を話す。
その後は各地を転々と放浪の末、ある土地に住んでいた。
この頃の世界はまだ、人間達も『亜神族』と言われる神の力を継承した一族や、自分達のような『神の血を受け継ぐ者』と呼ばれる魔物の種族が住んでいたが、その間には相容れぬ軋轢というか、亀裂があった。
メディスロンもまた、その争いに加わり、その強い力と統率力で、魔物を率い『亜神族』と争っていた。
その炎は天を割り、地を溶かし、ワダツミ以外に恐れるものは何も無かった。
ワダツミは、当時、ギルス火山帯にあるヘストロ火山に竜王として君臨していたため、『亜神族』との戦いに加わる事もなく静観していた。
そんな時、不思議な男がメディスロンの目の前に現れた。
名前をアズマンと言い、彼が言うには
『魔物と人間、特に『亜神族』との戦いを止めてもらいたい。』
というのだった。
メディスロンは一笑に付すが、このアズマンという男はとんでもない男であった。
『自分が、『亜神族』を制圧するので、自分に魔物の世界を統一してもらいたい。』
そう言ってきたのだ。
たかが、人間風情がと思ったが、相手に攻撃する隙はもちろん相手に攻撃の足を踏み出すことすら出来なかった。
恐ろしいほどのオーラがこの男に見えた。
恐らく、その実力はワダツミ以上。
多分、戦っても勝つことが出来ないと分かる。
そのため、アズマンの申し出を受け入れ、メディスロンは自分の配下の魔物を抑え、アズマンの申し出通り、『亜神族』を含む人間との戦闘行為を中止した。
配下の者達の中には、それに不満を申し立てる者もいたが、強引に抑え付けた。
誰が掛かっていってもアズマンには勝てないことはわかっていたので、止めるしか選択肢はなかった。
こうして、しばらくは平和な時期があったが、結果的に、別の魔物達の派閥が人間族を襲い協定を破ってしまった。
そこには自分やタラスクと共にアズマンと協定を結んだヨルムンガンドの母親であるアングルボザがいた。
アズマンに頭を下げるが、もうこうなってしまえば仕方がないと言って、アズマンは人間を襲った魔物達を全部捕らえてしまった。
また、『亜神族』の者達は、地下へ閉じ込める事となった。
最初のうちは、メディスロン達も地下の世界に連れていかれた。
その後、アズマンは『亜神族』達を地下世界に封じ込め時間を止め、地下世界は封印され、四人の魔女だけが出入りを認められる。
反乱した魔物達は北の『エキドナのダンジョン』に送り込まれた。
タラスクだけが猛反発したがアズマンの決定は絶対だった。
そして、その封印の扉の門番と鍵の使用者は後に『四獣』と呼ばれる、メディスロン達が担当となった。
これについては、自分達魔物達にも少なからず責任があったため、仕方無く付いたのだが、森は4つあり、自分達魔物の代表者は三体しかいないという事で、メディスロンが二つの森を守ることとなった。
また、それぞれの森の管理者は『四人の魔女』と呼ばれた、マグローシャ、サバーニャ、アジーナ、サンマーサの、四人であった。
メディスロンはしばらく、二つの森の扉をまもっていたが、しばらくしてビー・クイーンという神魔虫がそのひとつを受け持つ事になった。
彼等は虎蜂族という種族で地下世界にいたらしいのだが、何故、ここにやって来ていたのか、理由は知らなかった。
ただ、自分が二つの森を守る代わりに、タラスクは、エキドナのダンジョンを受け持つ事になった。
ヨルムンガンドは幼かったため、ほとんど何も知らないだろうという話だった。
恐らくは自分の母親アングルボザの事も知らないだろうと思うが、『マリガトリアン』の謎を全て解き明かす時にすべての真実を知ることになるだろう。
という話であった。
水月については、時々、負の魔素の状態を確認にやって来る変なじいさん程度に思っていたが、一度、手合わせをしてやろうとしたが、全く歯が立たず子供扱いをされてしまった。
後で聞いたら、2000年前に、ギルス火山帯からワダツミ達を追いやった水無月一族であることを知る。
自分が勝てなかったワダツミを追いやる一族なんかに勝てる訳がないと、その後は、彼の言いなりとなり、定期的にやって来る水月に四つの森における負の魔素の発生状況について報告をしていたのだが、いつの間にか、ミイラ取りがミイラになってしまうように、自分自身が負の魔素を体内に取り込んでしまって黒龍化し、結果的に先程のブラックファイアバードになってしまっていたと言う事らしい。
水月もこの広大な森は本来『四人の魔女』が管理していたことや、マソパッド開発され『四つの森』の詳細が明らかになるまでは、実態もあまり詳しいことは調査をしていなかったし、浄化対象にも入れず、定期的にメディスロンの報告を受けていただけに留まっていた。
それに加え、マソパッドが開発されてからも水月は『魔の大森林地帯』の件に手を取られていて、魔素口の調査を自分の配下のジパング王国の『忍』に任せっきりとなっていた。
だがその『忍』でも、特に危険だと言われる『四つの森』の奥は入れないため、実質放置状態となっていて、そういった事もメディスロンが黒龍化が進行した理由だと思われた。
まあ、画面上では黒龍化したかどうかはわからないので確認のしようもないのだが…
「面目ありません。」
メディスロンが水月に謝ると、水月も、
「まあ、ワシもここにはあまりこれなかったのも悪かった。許せ。あと、謝るのなら、この二人に言った方がいいぞ。何せ、殺そうとしてきた相手の命を助けたんじゃからな。フオフオフオ。」
と水月は応えた。
「確かに…いや、二人とも、今回は本当に済まなかった!」
とメディスロンは大きな身体を小さくして、再度、ヘルメス達に謝った。
「では、扉の錠を開けて下さい。」
とヘルメスがいうと、メディスロンは、
「実は、北の森と同じ様な扉はここには存在しない。」
「えっ?」
「扉があると言われてここへは来たんだろうが、本来、鍵が納められている扉があるのは東の森だけで、北はエキドナのダンジョンを攻略すれば、鍵は手に入り、西の森はビー・クイーン達が過去に所持していて、今は行方がわからなくなっている『ケントルム・テラエ』という剣が鍵を手に入れるために必要なアイテムとなっているらしい。我にはそれをどう使うのかは伝えられておらず、我にもわからない。我にはこの南の森に納められている鍵に関する事の一部しか知らん。」
「と言うことは、ここ、南の森は一体?どこに鍵が納められているんでしょうか?」
「それは、わからん、ある『言葉』を覚えさせられた。我には何の事か全くわからないのだが、【神】ならばわかるらしい。」
「【神】ならわかる言葉って何がですか?」
「それは、『チヨコが賢者の新弟子面接を受けた時に、自分は誰の娘だと言っていたか。』だ。」
「はい?」
ヘルメスはメディスロンの言葉の意味すら分からなかった。
「はっはっはっ、その様子では全くわからんという顔だな。これは、我がアズマンから直接、教えられた言葉だ。一言一句間違えてはおらん。それに、この様な問題が、『マリガトリアン』の中にいくつか書かれていて、それを全て解き明かせば、地下帝国への道がわかるようになっているらしい。」
「そうですか、それは多分、今、北のダンジョンに潜っている者が解けるのではないかと思いますので、また、ここにやって来ます。」
「そうか、【神】は降臨していたのだな。」
「はい、本当は300年程前に生まれていましたけど…」
「おいおい、えらく長生きだな?そいつは人間じゃないのか?」
「説明すると長いので、今度また来たときに説明しますから。」
「そ、そうか、じゃあ待っておるぞ。」
ヘルメス達はメディスロンと別れたが、その時のメディスロンの顔は何故か寂しそうに見えた。
その後、ヘルメスとザビエラは、自分達を助けてくれた水月を『べれり庵』に招待していた。
そして、自慢の温泉施設と料理を堪能してもらう。
「おおー、これは気持ちがええのう。」
水月が温泉に浸かりながら、声を出す。
『うおー』とか『ああー』とか、何故か、人間は温泉に浸かると声を出す。
万国共通、いや異世界共通なのだろうか。
水月はこの温泉宿『べれり庵』が気に入ったのか、既に、宿泊三日目に入っていた。
「蔵光さんの曾祖父さん、ここを大分気に入ったみたいだな。」
とマッソルが宿の玄関で掃除をしながらトンキに言う。
「そうだな、もうすぐ蔵光さんもここへ帰ってくるって言ってたから、それまではいるんじゃないかな。どうしたの?」
「まあ、その、ヘルメスの姉御の命を助けてくれたとかで、姉御が連れてきたんだけどね…お金が…」
「えっ?もしかして、三日目?もしかして、このまま無賃でずっと泊めていくつもりなのか?」
トンキが驚いて聞き返す。
いくら命の恩人で蔵光の曾祖父と言えども、一応ここは温泉宿だ、無賃宿泊で泊まり出すと際限が無くなるので、ある程度でけじめは付けなくてはと一瞬思ったトンキだったが…マッソルが慌てて否定する。
「いやいや、逆だよ!目茶苦茶お金を渡してくれて…」
「えっ、そうなの?」
「うん、『べれり庵』の指定口座に3億マスタ入金されてた。」
「は?さ、3億マスタ?嘘だろ?いくらなんでも…」
「うーん、曾祖父さ、あ、いや水月様曰く、『遅くなったが、曾孫のクランズ結成のお祝いじゃ』って言って…」
「いやいや、いくらなんでも出し過ぎでしょ!」
「まあ、水無月家はジパング王国の大家だし、あのくらいは普通らしいよ。」
「まあ、一家で世界中の強力な魔物を討伐してるからなあ…貰う報酬も桁違いということか…」
トンキは水無月家の金銭感覚がぶっ飛んでいることに今更ながらあきれていた。
「トンキは蔵光さんを迎えに行かなくてもいいのか?」
「ああ、帰りは飛んで帰ってくるって。」
「なるほどね。空を飛べるって考えたらやっぱり凄いね。」
「そうだな、俺もザビエラ様に飛翔魔法で飛ばせて貰ってる時はかなりワクワクしてたな。」
「俺も、今度、水月様に頼んでみようかな?」
「えっ?何で?蔵光さんでなくて水月様なの?」
「えっ?あー、何て言うのか、蔵光さんて、今はすごく忙しそうだし…うちのクランズの裏トップだし…」
「裏トップって、ははは、まあ、水月様も忙しそうだけど基本的に一人で行動しているし、今なんかは温泉でくつろいでいるしな。確かにどちらかと言えば、今なら俺も蔵光さんやザビエラ様に頼むより水月様に頼むかな。」
「だろ!」
とかなんとか、トンキとマッソルのトンマコンビがくだらない話をしていると、『べれり庵』の玄関口に蔵光とゼリーが帰ってきた。
「おかえりなさい!蔵光さん。」
マッソルとトンキが笑顔で出迎える。
すると、蔵光がマッソルに、
「マッソル、いつでも俺にも言ってくれたら空へ飛ばすよ。」
「へ?」
「あ、いや、あの、スミマセン。」
「アホやのう、『水蓮花』で話が筒抜けやで!」
「あ、」
マッソルが、先程のトンキとの会話の事を言われていると気付いて顔を赤くする。
マッソルとトンキは自分達の耳に取り付けていた、超薄型で膜状の通信魔法道具『水蓮花』を思い出していた。
マ「いやあ、水月様、お金出しすぎですなあ。」
(@ ̄□ ̄@;)!!
ト「3億マスタあれば、何でも出来る!」
(;´゜д゜`)
マ「うーん、俺なら貯金か家族に送金かな。」
ヽ(´・ω・`*)
ト「まさに小市民的回答だな。」(´-ω-`;)ゞ
マ「じゃあトンキは、3億あればどうするんだよ!」
(;゜Д゜)
ト「私なら高級魔導車を買って、世界中を旅行して回るね。」
(*>∇<)ノ
マ「でも、それだったら、今の『プラチナスカイドラグナー』で回った方が早いんじゃないの?」
(o・ω・o)
ト「そりゃ早いけど、あれは、別物だよ。それにあれを使うときは仕事上だし、元々私の物じゃないから。」
(o゜з゜o)ノ
マ「まあ、そうだね、旅行もいいな。それに世界中の美味いものを食べたいな。」
(((o(*゜∀゜*)o)))
ト「そうだよな。確か、姉御に聞いたけんだけど、メトナプトラのライズにある高級メトナ牛の肉料理専門店で『牛牛屋』というところのステーキが最高らしい。」1-53
ヽ( `・ω・)ノ
マ「うわー食べてえ!今度、その肉、うちの『べれり庵』にも仕入れてみようかな。」
o(*≧∇≦)ノ
ト「それ、賛成!」!!ヽ(゜д゜ヽ)(ノ゜д゜)ノ!!