第3話 謎の古代文字
古文書の謎が深まります。
第3話 謎の古代文字
蔵光達はギルレアンの拠点『べれり庵』に戻ってきていた。
温泉宿『べれり庵』には、魔導バスの格納庫同様にクランズ専用の建物が宿泊施設とは別に棟が建てられていた。
拠点となる建物は和風テイストの、『和モダン』と言うのであろうか、瓦屋根と木造建築であるが、木目を生かした柱と外壁に、大きめの庇と長めの縁側が特徴的で、その縁側に座って眺められるようにゼリー監修『和風庭園』が設けられていた。
大きな岩と玉砂利、松の木や竹等に良く似た種類の樹木などを色々と取り寄せテーマに沿って各所に植えていった。
こうして『べれり庵』内には『枯山水』の庭園や『鹿威しのある池』の庭園などが次々に造られていき、夜には魔石ライトによるライトアップもできるようになっている。
そんな庭が見える縁側奥の部屋の一室に蔵光、ゼリー、ヘルメス、ヴィスコの四人がいた。
畳敷の和室で約10畳程度であろうか、その部屋の中央に置かれた和机の上に古文書を置き、それを囲むように座っていた。
ゼリーはエージに古文書を転送する前に、とりあえずその古文書を確認する事とした。
「外側の表紙の木の材質はヤイダ樫やな。それに、この角を保護する金具は…あの『ヘストロン』や。」
ゼリーが古文書の表面を触って鑑定する。
「『ヘストロン』って言ったらダウスの持っていた剣、今は『聖剣ヴォルガナイト』の元になっている金属じゃないか?」
ゼリーの鑑定に蔵光が少し驚く。
ダウスは、黒龍モグル・ランカスの配下の龍族の者であるが、以前、クワッテ鉱山で大量の魔物を転送させ、蔵光に殺された奴である。
その者が持っていた業物の剣がこの幻の金属と言われた『ヘストロン』で出来ていた。
「かなり、古いな、グランマリオンの魔法研究棟でも解らんかったんかいな?」
とゼリーがぼやく。
「あそこの魔法研究は進んでいますからね、私も一度は行ってみたいと思っているんです。」
ヴィスコもよく知っているようであった。
グランマリオンとはタイトバイトス皇国の首都グランマニアに所在する有名な魔法学校で、卒業生で有名な魔法使いと言えばチョッコ・クリムとかジュリエッタ・ラムダ・ギャラダスト、エミリア・サムソライト等がいる。
また、そのグランマリオンの魔法研究棟とは、古代魔法や古代遺跡の遺物の研究をしている所であり、過去には、今回、解析依頼をしてきたギャラダスト家の御先祖様のジュリエッタ・ラムダ・ギャラダストもここの研究員として所属していたこともあり、最終的には魔法研究長になり、その後は代々、そのギャラダスト家が魔法研究棟の責任者的な地位に就いていた。
ギャラダスト家は、タイトバイトス皇国では貴族の中でも有名な家であり、ジュリエッタの頃は伯爵家であったが彼女の功績により、今では侯爵の階級を持つ家となっていた。
まあ、知る人ぞ知るという感じなんで、世界中の有名な魔法使いを知っているヴィスコなら知っていて当然のことなのであろう。
「まあ、ギャラダストが持ち込んだ言うんやから、それまでにかなり解析を試みたんやろな。」
とゼリーが言いながら、古文書の表紙に取り付けられた宝石を見る。
青や赤、緑の宝石が所々に埋め込まれている。
美術品としても価値がありそうだ。
「何やこれ?一つだけ、魔石やないか?」
確かによく見ると、独特の魔力の波動が感じられる。
「保護魔法が付与された分じゃないの?」
と魔法オタクの蔵光が言うと、
「いやぁ、これは…違う。」
ゼリーが、その魔力波動のする赤い魔石に触れ、魔力を流し込む。
すると、表紙に埋め込まれている、全ての宝石から光が発せられ、古文書の上の空中に映像が浮かぶ。
それは文字であった。
「こ、これは…」
ゼリーがその文字を見て驚く。
蔵光やヘルメスなどは今まで見たこともない文字であった。
「古代文字?」
蔵光が唸る。
「いや、多分、この程度の仕掛けであればグランマリオンの方でも分かっていたはず、それに古代言語の『アレフイア』とかもグランマリオンの魔法研究棟とかでも解読できているはず、なのにこれは一体…」
ヴィスコがグランマリオンの実力を踏まえた上で解析依頼があった経緯を分析する。
「これは…『日本語』や。」
ゼリーが衝撃の事実を告げる。
「ニホンゴ?」
蔵光達が聞きなれない言葉に戸惑う。
「ワイやエージが転生する前にいた世界の言葉や…」
「ええっ!!?それじゃあ…」
「これを作ったのは恐らくワイ、いや、正確にはチョッコ・クリムとカリスマ・エージらと同じ転生者や。それしか考えられへん。」
ゼリーはチョッコ・クリムの精神をトレースして、記憶や知識を受け継いだスライムネコであり、今は自我を持ち、本人とは若干、記憶等にズレがあるが、一年前までの知識や過去の記憶は共有しており、それ以前の記憶自体はほとんど変わる事はない。
なので当然ながらチョッコの転生前となる宮離霧千陽子の記憶の中にある『日本語』の知識もゼリーは持ち合わせていた。
なお、本物のチョッコ・クリムは現在、亜空間にて若返りの薬『水仙の水』待ちをしている状態である。1-163
「そんな…転生者が大昔にもいたなんて…」
ヘルメスが衝撃の事実に驚きを隠せない。
「まあ、チョッコやエージがおるくらいやから、過去にもそんな奴がおっても不思議ではないな。」
「確かに…」
ヴィスコもゼリーの言葉に納得したように頷く。
「まあ、使われてる文字が日本語やったら、グランマリオンの奴等にはわかる訳はないわな。」
「で、何て書いてあるの?」
「『ここに我が帝国の全てを記す。知りたくば、合い鍵を探せ、それは年の始まり、北の火の神より昇る太陽を拝む時、その中心に眠る。だが、汝ゆめゆめ忘れることなかれ、それは支配ではなく、また共存でもない。恐怖がその決断を急がせた。』とあるわ。なんやよう解らんが、とりあえずエージに送るわ。」
ゼリーはそう言うと、空間魔法を展開し、エージのところにある自分の分身体を通じて亜空間から古文書を転送した。
「さて、エージの奴、どこまでこれが解析出来るかな?」
とゼリーはニヤリと笑う。
「で、これからどうするの?やっぱり古文書の解析の依頼元に?」
とヘルメスが確認する。
「そうだね、古文書が出てきた場所は大事だよね。」
「そやな、そこに他のヒントがあるかも知れんしな。」
蔵光とゼリーもヘルメスと同じ考えであった。
「じゃあ、タイトバイトスに?」
とヴィスコが確認する。
「そうや、首都グランマニアにある魔法学校グランマリオンや。」
「やったー!」
念願の学校見学が実現したのでヴィスコが畳の上で小躍りをしている。
「で、どうやって行く?」
「そうやな、そう言えばザビエラ達がドラグナーに乗ってギズモワールとタイトバイトスの『東の森』に行くとか何とか言っとったな。」
とゼリーが言うとヴィスコが直ぐに反応する。
「じゃあ、一緒にドラグナーで?了解、それなら直ぐに連絡します。」
ヴィスコは直ぐにトンキへ連絡を入れる。
「あー今、最終チェック中だけど、ザビエラ様には言っておくよ。」
とヴィスコの『水蓮花』による連絡で直ぐにトンキが応える。
念じるだけでゼリーの分身体が目的の人物を自動に選定し、すぐに話ができるので、マソパッドよりも手軽に使えるのが『水蓮花』の良いところだ。
それに、通話限界距離も約200kmは可能なので、そう考えるとニューマソパッドが水蓮花に完全勝利をするのはまだまだ先のようにも思われた。
その日のうちに、高機動型魔導バス改め高機動型魔導飛行船『プラチナスカイドラグナー』はまず、ギズモワール村へ向けて出発した。
結局、魔導飛行船にはザビエラ、オルビア、トンキに加え、蔵光、ゼリー、ヘルメス、ヴィスコが乗ることになったので、それならばと、蔵光達もギズモワール村と『東の森』の調査へ一緒に行くことになった。
まず、訪れたのは前回もお世話になったギズモワール村のシンディーナのところだ。
ヴィスコは本来、『ビスコ部屋』で留守番の予定であったが、シンディーナの所へ行くと聞くと直ぐに自分も行くと言い出し、押し掛けでドラグナーに乗ってきたのだった。
もちろん、目的はシンディーナの『蔵書』である。
前回は『邪悪の神の化身探し』で少ししか時間の余裕がなかったため、ゆっくりと見る事は出来なかったが、今回は、ヘルメスの許可をもらい、お泊まりをさせてもらう事にしていた。
ここは魔導飛行船の中、操縦席は前方の方に設けられているが、バスの時よりも比較的広めに作られていて、操縦はハンドルではなく、操縦桿で操作するように改造されていた。
また操縦席とそれと接する部屋とは扉で隔離されていて、本当に飛行機のコックピットような感じであり、操縦席以外の座席、つまり飛行機で言えば客席のある方の部分はドーム状の部屋になっていて、座席は床に固定されている訳ではなく、魔力で自在にその場所を変更することが出来、状況によっては座席の位置が移動し、円卓が置かれた会議室にも変化させることが出来るようになっていた。
現在の座席は、飛行機のエコノミー席のような客が縦列に並んでいて、みんなは、そこに座っていた。
そして、魔導飛行船の中ではオルビアの予知が始まろうとしていた。
静かに目を閉じ、今から向かおうとしている『東の森』の方向へ向け意識を集中する。
オルビアの表情が歪む。
「赤い魔物、恐らくドラゴンです。確かに森の中にいるようです。それにかなり大きいです。ギルガさん程でもありませんが、100m以上はありそうです。」
「それだけか?」
ゼリーが肩透かしをされたような声を出す。
普通のドラゴンならザビエラだけでも討伐は余裕で出来る。
そんなクエストに何人もかかる必要はない。
「ええ、でもこのドラゴンって、普通のドラゴンよりかなり強いですよ。」
「あぁ?どういう意味や、普通より強いって…?」
「負の魔素に関係なく、魔力値がかなり上がっているみたいですね、凶暴化もしてないみたいだけど…とても残忍で狡猾…でも、それ以上はよくわからないですね…それに…」
オルビアはここで言葉を止め、それ以上は何も話さなかった。
オルビアの予知が終わり、結局、飛行船の中ではゼリーもそれについて明確な答えは出せなかった。
飛行船はギズモワール村の上空にやって来た。
山の木々が鬱蒼と生い茂る森の中にその村はある。
トンキは村の近くにあるやや開けた場所にやって来ると『プラチナスカイドラグナー』を垂直着陸させ、静かに停める。
皆がドラグナーから降りて、そこから村までは歩きで向かうことになった。
「さあ、行こう。」
ヘルメスがリーダーとして指揮を執る。
一般人レベルのヴィスコやオルビアがいるため移動速度はゆっくりである。
森の中は午後の木漏れ日の中、小鳥がさえずり、さわやかな風が吹き、静かに木の葉を揺らす。
今から起こる恐ろしい出来事を隠すかのように…
マ「そう言えば、この間、アサッテさんのパーティー『栄光のハゲタカ』が『べれり庵』に来てたよ。」
(ー_ー)
ト「えっ?メトナプトラからわざわざ?」
(゜_゜)
マ「うん、メンバーの斥候のリルカさんや魔法使いのシンさんが、どうしても行きたいって、アサッテさんにせがんだらしいよ。」
(´・∀・`)
ヴ「そう言えば、ヨーグでドラグナーの見学をしたときに、露天風浴場とかを見て感動して、ウチのクランズに入りたいって言ってゴネていたよね。」1-94
ト「そうそう、あれは大変だったよな。そう言えばセージさんのとこも来てなかった?」
マ「ああ、来てたな…確かあそこはセージさんのとこの弓使いのサンジャと、回復魔法使いのフラワーの女性陣が、サリドナ支部に登録変更するとかしないとかで揉めてたみたいだけど?」
ヴ「それも、ここの温泉宿目的が原因?」
マ「んー、恐らく。」(;´д`)
恐るべし『べれり庵』(´゜ω゜`)
でわ、次回もよろしく。