第15話 魔物最強対魔物最凶
さあ、いよいよタラスク登場です。
第15話 魔物最強対魔物最凶
「なあ、主ぃ、神クラスの人間って、どのくらい強いんかな?主は相当強いんやろうけど、タラスクもどれくらいの強さというか、どんな奴か全くわからへんし。」
ゼリーが地下帝国の人間の強さを計りかねている状況であったが、蔵光の方は、
「さあ、かなり強いんだろうね。俺にも全くわからないや。」
といたって普通である。
「はん、主はエエ性格しとるわ。」
とゼリーは少しあきれている。
強者の余裕なのか、それとも精神異常耐性無効というスキルのせいなのであろうか、蔵光はあまりヨルやマグローシャの話にも動じている様子はない。
夏の季節が長いと言われている魔法世界マーリックの中でも今日のこの北の森は、秋が迫っているにも関わらず、灼熱の太陽が、厳しい日差しを投げ掛け、そして、熱帯雨林気候かと思わせるような湿度の高さと熱帯性の植物群が行く手を阻む。
そんな森の中を移動しながらも蔵光以外の全員が、北の森最強と言われる魔物の王『タラスク』との対決の事で頭が一杯となっていた。
しかし、『北の森』はその事すら忘れさせる程、広大で、魔物の数も半端なく多かった。
森に入って直ぐは、ゴブリンやコボルト、オークなどのまあ言わば弱い部類の魔物がいたが、森の中程を過ぎると、魔物の数はやや少なくなってきた分、それらの強さが格段に強くなってきていた。
何せ、べらぼうに数が多いので、蔵光やゼリーだけでなく、ヘルメスやザビエラも手分けして退治している。
本当は森の生態系を守りたいのだが、彼等から襲ってくるので、さすがにやられっぱなしとか、放置しておくことは出来ず、そのまま無視していれば、いくらでも付きまとってくるので殺して始末しなければ、仕方がないのだった。
なので、もうかれこれ二時間以上も戦い続けているが、魔物が収まる気配がない。
「東の森でも結構多いなと思いましたが、ここはまた一段と多いですな。」
とザビエラもその数に辟易している様子である。
だが、その彼の持つ『聖槍デスフレア』はそんな事を思わせない程の威力を見せつけている。
その一薙ぎで周辺の魔物は全て真っ二つになり、さらに先端の炎に触れた者は『焼棄』とでも言うのであろうか、燃えて崩れていく。
またその炎は森には全く影響を及ぼさず、魔物だけを燃やしていった。
ヘルメスの『聖剣ヴォルガナイト』は威力は凄いが、リーチが槍に比べて短いので、倒す魔物の数もザビエラよりも制限される。
だが、その手数の多さは凄まじかった。
さすが、昔取った杵柄とでも言うのだろうか、自分の実家のヴェレリアント領内にある『グリシュの森』で魔物を大量に討伐して、身体中を返り血で真っ赤にさせて戻ってくる姿を見て、領民がつけた二つ名が『ヴェレリアント家の魔物』である。
恐ろしい程に上がった魔力により、身体能力も上がり、その力を余すことなく使い魔物を切り刻む。
こうして北の森の中は、二人の勇者による殺戮行為で、辺り一面に魔物達の血の臭いが満たされ、それが、さらなる魔物を呼び寄せる事になった。
だが、それでもある程度、回収可能な魔物の死体はゼリーが体内に取り込み、吸収して溶かしてしまったので、血の臭いは比較的少な目に抑えられていた。
『東の森』では余り、戦闘行為を描写説明していなかったが、実はザビエラの言っていたとおり、『東の森』での戦闘の様子も、こことさほど変わりはなかった。
恐らく、ギルドカードに自動記録された魔物の討伐データはとんでもない事になっているであろう。
全員が何万という単位で森の魔物を討伐しているのだから、下手をすれば国家予算的な額になりそうである。
だが、そんな心配を他所に、森の中程を過ぎた頃、この森の中堅クラスの魔物が現れた。
大きさも20mを越えようかという魔狼であった。
それも、負の魔素をたっぷり吸っている凶暴化した奴が三頭である。
口の辺りからは、凶暴化した魔物特有の真っ黒な魔素の霧が漂い、口から漏れ出る血生臭い臭いが周囲に広がっている。
ノースヨーグの魔狼と同じ様に、鋭く尖った牙や、獲物を切り裂いたであろう前足の先の爪等も喰らい続けた動物の血肉等でどす黒く染まっている。
「臭い!」
ヘルメスが叫ぶ。
血の臭いなら何とか我慢出来たであろうが、獣臭と腐臭がダブルでやって来れば、さすがのヘルメスも声を出す。
戦場などではこの様な臭いがずっと立ち込めている。
放置された死体から放たれる腐敗臭である。
嗅いだものにしかわからないが、かなり臭い。
恐らく、この魔狼は腐敗した魔物の死体も食べているのであろう。
「こいつ、かなり強いぞ。」
ザビエラが今までの経験で肌に感じる、相手の強さを捉える。
魔力値が五千万近いザビエラにこう言わせる程の魔物であった。
目は真っ赤になり、完全に凶暴化、凶悪化している。
「魔力値が1500万ある。という事は魔法も使いそうだな。」
ヘルメスがニューマソパッドの魔力値計測機能で、魔狼の魔力値を測る。
魔力値が高い魔物は、古代魔法に近い魔法を使う事がある。1-118
魔狼系はよく風系統の魔法を使用する。
森の中では炎のような燃え広がったりする事もない、有効便利な魔法であるため、魔狼の研究者の中では遺伝により使用出来るのではないかとも言われている。
そして、案の定、魔狼達は見えない真空の刃を飛ばす魔法を展開してきた。
当然ながら、ヘルメス達にはゼリーの防御魔法が掛けられているため、全ての攻撃魔法は弾かれる。
また、ヘルメス、ザビエラは魔狼達よりも更に高い魔力値を持っているため、その動きはかなり速い。
生い茂ったジャングルの木々の間を縫うように、二人はすり抜け、一瞬で魔狼との距離を詰める。
そして、勝負も一瞬で決着する。
ヘルメスが聖剣ヴォルガナイトを縦に振り下ろすと、一匹目の魔狼は額から真っ二つに切り裂かれて絶命する。
また、ザビエラは、森に入ってからは魔族の姿に戻して戦っているため、持っている聖槍デスフレアもその体の大きさに比例して大きくなっているのでかなりデカイ。
その槍を二匹目の魔狼の体にぶっ刺す。
槍は魔狼の額から尻の方に突き抜けて串刺し状態となり、魔狼は即死した。
蔵光は目にも止まらぬ速さで如意棒を三匹目の魔狼の頭部に振り下ろし、魔狼の頭は壁に叩き付けられた完熟トマトになっていた。
全部が20mを越える凶暴化魔狼のため、三人に比べると格段の差があるのだが、三人は、それをものともしないで全て討伐してしまったのだ。
ヨルはそれを見て、
「すごーい。多分、これくらい強ければ地下の住民とも十分に戦えるはずだと思うんだけどなあ。」
と呟いた。
蔵光達は、更に森の奥に進む。
かなり進んだと思われた辺りで、ザビエラが何かに気付く。
だが、その瞬間には全員が、それに気付いていた。
ザビエラが、
「何だあれは?」
と森の奥の方を指差す。
目視出来るところで異変を感じられるというのは余りない。
目視察知以外で、周辺の状況を知るためには、生命体感知の魔法とか気配察知スキルを使用して気付くのが普通である。
そうでなければ、大体は自分に何らかの影響があってからでないと気付くことはないからである。
それが、今回は目視確認により、異常を見つけていた。
それは、陽炎のような空気の揺らめきのようなモノであった。
だが、これは本当の陽炎ではない、陽炎は、小さければ逃げ水とか、大規模になれば蜃気楼とも呼ぶ。光線は空気の密度の異なる大気の中を進む際、密度の高い方に光が進むという性質があり、何も無い場所に有りもしないモノを浮き上がらせる、つまり、蜃気楼などは遠くにある街や森などの景色を屈折させ、浮き上がらせて近くにあるように見せる自然現象であり、通常、この様な森の中では大気の温度差もそれほどなく、距離的に見ても空気の密度が異なる様な場所ではなく、自然発生するような所ではないはずであった。
しかも、その空気の揺らめきは、最初、幅が40m以上はあると思われたが、よく見ていると次第に大きくなっていくのがわかるほど激しく揺らめいていた。
そして、それは大きくなりながら、周囲の木々を溶かしていくような感じであった。
「アイツ、もしかして…」
ゼリーが何かに気付く。
「どうしたの?あれが、『タラスク』なのかい?」
「たぶん、そうやろ、そして、その正体が…」
とゼリーが言うと、その揺らめきは実体化し始めた。
それは、形はゼリーとは違うが、同じ様な濃く青く透き通った体をしていた。
「あれは!?もしかして…」
ヘルメスがゼリーに言うと、ゼリーが答える。
「その通りや、あれは間違いなくエンペラースライムや。」
凶悪な魔物の代名詞ともなっているエンペラースライムは、その体から発する酸の霧等を使って相手を溶かす等するという恐ろしい魔物であり、過去には国を滅ぼした事もあるという伝説もある位のモンスターである。
だが、目の前のエンペラースライムは、強酸の霧だけでなく、先程の陽炎のような、ゼリーとはまた違う能力を持っているようであった。
マグローシャの話でも『タラスクの正体は、その目に見えているが、まるで見えないモノ』というちょっと意味がわからない表現でしか教えてもらえなかったが、今のクラゲのような姿を見る限りではそんな事は感じさせない。
「主ぃ、頼みがあるんやけど、アイツと戦わせてくれへんか?」
とゼリーが蔵光に頼み込む。
「どうしたの?」
「これは、ワイらスライム同士の争いや、どっちが上かわからせたらなアカン。ワイは喰い合いでは負けたことがあらへん、絶対に勝つ。それにアイツは生け捕りにせんとアカンねんやろ?」
とゼリーが言うと、蔵光も少し考えて、
「そうだね、わかった、じゃあゼリーに任せるよ。」
と言って、ゼリーに先を譲る。
ゼリーが目の前のエンペラースライムの前に立ちはだかる。
「ちょっとワイより先輩かも知らんけど、勘弁してくれや。」
とゼリーがネコの姿のままで、目の前の巨大なエンペラースライムに飛びかかった。
だが、ゼリーは目の前の巨大なスライムにかすりもしないというか、全く何かに触れるという事もなく、ストンと地面に着地した。
「何やこれは?」
ゼリーはエンペラースライムの体内辺りにいるはずなのに、全くそれを感じない。
まるで、空気の中にいるような、そんな感じがしているのだ。
「何やこいつの体は?空間魔法でもない、ホンマに陽炎か何かか?それとも…別の何か全く感触がないモノの中にいるようや。」
ゼリーが青いスライムの体内の部分でキョロキョロしている。
「流石にワイらの仲間は、最強とか最凶と言われるだけあって、能力もチートなヤツ持っとるやないか。中々おもろいな。」
ゼリーは再び、そこから外に飛び出す。
「今からちょっと暴れるんで、主らはここから離れとってくれるか?」
とゼリーが蔵光らに声を掛ける。
すると、蔵光達も、
「わかった。」
と言って頷き、その場を離れた。
距離的に約500mくらいは離れたであろうか。
そのくらい離れないと、ゼリーが本気を出して暴れれば、このジャングル程度なんかはゼリーを中心にして、一瞬で爆心地のような状態になると言っても過言ではないのだ。
ト「魔狼って、確かノースヨーグの森でめちゃくちゃ強い個体を蔵光さんが退治したとか?」
( ゜ 3゜)
ヴ「そうね、私達が馬車の中で寝ている時にね。」
(゜д゜)
マ「あの頃は、まだ馬車も魔改造されていないときだったみたいだね。」
( ´∀`)
ヴ「そうなのよ!あの時には既に、魔改造出来るだけの装備品はゼリーちゃん師匠が持っていたんだけどね。お陰で便所には苦労させられたわ。」
(`ε´ )
ト「大体、旅の時は、野○○だからなあ。今から考えるとトンでもなかったなあ。」
(///∇///)
ヴ「今はもうあの頃には戻れないわ。」
(*>ω<*)
マーリックは色々なところで、現代日本より遅れてるからなあ。
特に衛生面は大事だから、ゼリーなんかは貴重な存在だな。
ではまたです。(*゜ー゜)ノシ