1話 無能力者(2)
「親の力だけで入学した屑野郎が」
「むかつくんだよ。毎回坂月さんに守ってもらってるなんて」
「能力も学力も何一つ優れたものの無い人間はそれに見合うところに行きやがれゴミが」
地べたに這いつくばる俺に向かって全身蹴りつける3人のクラスメイト。
夏海はトップアイドルになれるほどの整った可愛い見た目をしている。
勉学や運動に能力の全てが優秀だからこそ、憧れの的である夏海のそばで何時も一緒にいる俺に同性からの恨みを買いやすいのだろう。
「ざまぁみろ。能力を使ってない分だけありがたく思え」
「嫌だったら、さっさと学校から去ることだな」
ありったけの怒りをぶつけて満足し、この場から去っていく男達。
俺は痛みですぐには立てず、しばらく地べたに這いつくばったままだった。
この学校に入学してから1ヶ月、何十回と繰り返されてきたイジメに、うんざりしていた。
「でも、こんな姿は夏海にだけは見せられないよな」
もし見られたらさっきの3人、今頃火ダルマになっていただろう。
入学してから1週間の頃、夏海の前でクラスメイトから殴られたとき、怒りのあまり殴ったやつの私物を燃やし、校舎が火事になりそうになったからな。
中学の頃は、女子生徒と会話していると俺に向ける視線と表情で恐怖に感じることがある。
それはたぶん気のせいだろう。
一限目が始まる時間だが、この姿のままで戻る訳にはいかないし怪我を直すため保健室へと向かうか。
〈保健室〉
「失礼します」
「また来たのね裕斗。よく怪我するね」
扉を空けると白衣どころか上着を脱ぎ、ブラジャーとミニスカート姿になっている23歳独身女教師がいた。
なんてカッコしてんだこいつ。
「ミカ姉、学校でその姿になるの止めてくれって言ってるだろ。誰か来たらどうするんだ」
松浦美佳子、それがその上半身下着姿の変態教師の名前で俺の従姉だ。
「こんな時間に来るのはあんただけよ。それに私はこの姿でいるわけではなく着替えていただけで、たまたま運悪くお前が来ただけだ。人を変態扱いするな」
よく言うな。確かに着替えの途中で入ってきたかもしれないが、俺がここに来ると8割の確率でこの姿でいる。
そしてそのまま上着を着る素振りをせずにずっと下着のままで保健室をうろついているし。
「だったら早く着ろ」
「つい最近まで一緒に風呂入っていたのになんで目をそらし、背を向ける」
何年前の話だ。覚えている限りでも中学生になってから一緒に風呂は入ってない。
「うるせぇ、年頃なんだよ」
「何だ。チ○コでも立ったのか」
「立つわけ無いだろ。いいから早く上着を着ろ」
本当に最悪な教師だ。
だけどそれは俺が幼い頃からの親族だからこそこんな態度をとっているのだ。