炎の凪唄 ベルニナ・ユル・ビュジエ 1
ここに来るたびに思う。
「あたしは、誰なんだろう……」
ベルニナ・ユル・ビュジエ。
それが、答え。
見下ろす光景が嫌いじゃないのが、不思議。
綺麗だって、思える心がある。
「何をしている。早くしろ」
ーー洞穴。
あたしは、そう呼んでいる。
珍しく、初老の、「洞穴の主」が急かす。
研究が上手くいっているのかしら?
いえ、期待してどうするというの。
あたしは、自分で決めたのだからーー。
一秒でも、ここにいる時間を縮めたいから、緩めの、簡素なワンピースを着ている。
衣擦れの音にも、二十歳が迫ってきた、若い裸体にも、「洞窟の主」は目もくれず研究に勤しんでいる。
魔力で強化された、大きな硝子の容器に、粘着性の透明な液体が満たされている。
この半年。
死ぬ気で魔法を学んできたというのに、この液体の正体すらわからない。
もう、何十回目だろう。
次がーー最後。
そうじゃない。
ここに来るのは、最後にしてみせる。
液体に肩まで浸かってから、ゆっくりと口をつける。
始めは少し息苦しいけれど、すぐに楽になる。
液体の中。
世界が歪んで見える。
「歪んでいるのは、どっちなのかな」
この顔も、この肢体も。
あたしのものだと、どうしても認められなかった。
一緒に、最期まで幸せに過ごせたならーー。
「幸せを投げ出したのだもの。きっとーー」
魔法が発動する。
落ちた水滴が、洞窟で反響するような、独特の澄んだ音。
眠っているようで、眠っていない、半覚醒状態。
感覚を失って、人から実験材料になる瞬間。
ーー魔雄ハビヒ・ツブルク。
彼の痕跡。
わずかな、ーー奇跡だっとしても、必ず……。
「……っ」
あたしは、焼け爛れるような炎を、身の内に宿した。