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第九幕 行ってらっしゃいませにゃ、ご主人様


 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。


 火炎のブレスで髪の毛を焦がされ、すもも漬けで甘酸っぱい恋の錯覚を覚えて、黒コゲ危機一発でスリルとどんでん返しに驚かされ、気がつけば1時間が過ぎていた。


「ご主人様、時間が来てしまったにゃ」


 時間というのは、どうやら最初に席をチャージした1時間が終わってしまったということらしい。


「ああ、もうそんなに経ったのか」


「うにゃにゃ……残念にゃけど今日はこれでおしまいにゃ」


 ドラコにゃんは少し寂しそうな顔になった。しかし、こういう料金システムって「延長」とか出来るもんじゃないのか?


「ミルキーウェイは延長ができないにゃ。ご主人様には1時間で帰っていただかないといけないにゃよ」


「どうしてだよ。延長料金を払えばいいんじゃないのか?」


 その方がお店だって儲けになるはずだろ?


「それが……」


 ドラコにゃんはなぜか申し訳なさそうに作り笑顔を浮かべ


「実は、ミルキーウェイは異世界に繋がっているお店にゃ。わたしたちはそっち側の住人だから平気にゃけど、ご主人様はあまり長くこっち側にいてしまうと……」


「ど、どうなるんだよ」


「元の世界に戻れなくなってしまうにゃ」


「え……」


 元の世界に、戻れなくなる――?


「そうにゃ。1日に1時間くらいは平気だにゃ。でもそれ以上時間が過ぎてしまうと……ご主人様の出口が消えてしまうにゃよ」


 俺はミルキーウェイの入り口のドアを見た。ここへ来て1時間、ドアはちゃんとそこにある。


 けれど、心なしか色が褪せているような、周りの壁やテーブルや椅子と比べて色が薄くなってきている気がする。


「だから、ミルキーウェイに延長はないにゃ」


「そんな……」


 俺はもっとここに居たかった。ドラコにゃんや寿里やマギナとお喋りして、ゲームをして遊んでいたかった。でも、帰れなくなるわけにはいかない。


 ドラコにゃんは残念そうに俺を見つめている。寿里もマギナもそれを分かっているのか、黙って下を向いている。


「そうか。それじゃあ仕方ないな」


 俺はポケットから財布を取り出すと、ドアの横にあるレジカウンターに足を向けた。俺の後ろからドラコにゃんが続いて、レジを操作する。


「お会計は800ミルキーにゃ」


「安っす!」


 財布の中から千円札を支払い、お釣りに百円玉を2枚もらう。


「それとご主人様、メンバーズカードを作ってもいいかにゃ?」


「メンバーズカード?」


「もし、ご主人様がまた来てくれるのにゃら、このカードがあれば次は一人でもお店に来れるにゃよ」


 なるほど、最初は案内してもらわないと来られないのか。


「ああ、もちろん来るさ。また遊びに来る」


「あ、ありがとにゃ♡」


 嬉しそうな顔をするドラコにゃんを見て、何だか俺は照れ臭かった。お店の子が「また来てね」というのは当たり前のことだろうけど、心の底から嬉しそうな顔をしているドラコにゃんがとても眩しかった。


「それじゃご主人様、向こうを見るにゃ♡」


 ドラコにゃんに言われて振り向くと、寿里がカメラを構えていた。


 パシャ!


 と振り向きざまに写真を撮られた俺は、フラッシュの眩しさで一瞬目がくらんだ。


「今日のチェキはサービスなんだな」


 ゾンビ娘の寿里が、ヒョイと写真を渡してくる。てかこれ、何も写ってないぞ?


「チェキは写るまで少し時間がかかるのよ。そんなことも知らないの?」


 ツンデレのマギナがツンツンしてくる。


 へぇ、これがチェキか。


 俺はメンバーズカードとチェキを受け取って、3人のメイドさんを見た。


「今日はありがとな。絶対また来るよ、だから次も一緒にゲームしような!」


「待ってるにゃよ♡」


 ドラコにゃんは小さな八重歯を見せて、愛くるしい笑みを浮かべる。もしからしたら、今日出会ってから一番ステキな笑顔かもしれない。


「ボクも楽しかったんだな。またいつでも来るといいんだな」


 寿里は表情を変えない。ゾンビだけにムスっとした顔がデフォなのかな。ただ、無表情でもピースしてくれたから、きっと楽しかったのは本当なんだろう。


「ご主人様が来ないとアタシたちのお給金がないんだから、必ずまた来なさいよね!」


 マギナはツンとして目を合わせてこない。俺は「それはデレ言葉なんだろ?」と少し笑ってしまった。


 火炎のブレスを引き受けてくれてありがとな。


 さっきまで何も写っていなかったチェキに、俺とドラコにゃんの姿が見えてきた。驚いてマヌケな顔をしている俺の横に、手でハートマークを作っているドラコにゃん。


 はは……よく見ると、ドラコにゃんの頭にドラゴンのツノが写ってるよ。この子はやっぱり本物のドラゴンだ。


 俺はチェキとメンバーズカードを握りしめてドアを開いた。


 いつの間にか、店の奥から他のメイドさんたちも見送りに来ている。ドラコにゃんと寿里とマギナ、そしてメイドさんたちが手を振るのを見届けて、俺はミルキーウェイを後にした。


 みんなありがとう。絶対にまた来るからな。




――行ってらっしゃいませにゃ、ご主人様♡


カフェ・ミルキーウェイには他にも、堕天使やヴァンパイアや大魔王などの異世界住人が出稼ぎに来ています。

他のメイドさんのメニューやゲームはみんなそれぞれ違うので、試してみたい方は秋葉原で『ミルキーウェイ』というメイドカフェを探してみてくださいね。

ただし、1日1時間以上を過ごしてしまうと、現実世界に戻れなくなりますのでご注意を。



本当は長編としていろんなメイドさんを描いていこうと思ったのですが、今回はお試しということで短編サイズで完結させてしまいました。


拙い文章に最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

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