第六幕 ご主人様、生き様を見せる時にゃ
ドラコにゃんが持ってきたのは『元祖・黒ひげ危機一発』というおもちゃ。樽に短剣を刺して、黒ひげが飛び出したら負けってやつな。
しかし、肝心の黒ひげ海賊が乗ってない。
その代わりに、樽の上に顔を出しているのは竜の人形。口を大きく開けて、威嚇するように鎮座している。今にも火炎のブレスを吐いてきそうな感じだ。
「一応、聞いておこうかな。これはどうやって遊ぶモノかを」
俺は嫌な想像を思い浮かべながら、ドラコにゃんに聞いてみた。
……遊び方とオチ、なんとなく予想はできてるけどな。
「簡単だにゃ。樽に短剣を刺して、竜に炎を吐かれたら負けにゃ♡」
「やはりそうかーーーー!」
黒ひげが飛び出すおもちゃを魔改造してるじゃねーか! 竜に炎を吐かれて黒コゲになるって……スリルがあって楽しいどころの話じゃねえ。ゾンビ様も命を惜しむほどの危険な遊びだよ!
しかも炎を吐くって、まさか……
「ちょっと待つにゃ。わたしの火炎のブレスを仕込むにゃ!」
ドラコにゃんは目を瞑ると、薄くて柔らかそうな唇を尖らせ『黒コゲ危機一発』を手に取った。そして薄桃色の唇で竜の口に優しく口づけると
ゴゴオッ!
と音を立てて、竜の人形に火炎のブレスを吹き込んだ。
「待て待て待て! 今の音、さっきよりもだいぶ迫力があったぞ? 一体どのくらいの炎を吹き込んだんだよ!?」
「ん~……20%くらいにゃ♡」
死んじゃう! それ死んじゃうヤツ!
「ずいぶんと弱々しい炎ね。その程度なら魔力を使わなくても平気だわ」
「ドラコにゃん、今日は手加減してくれるんだな」
マギナも寿里も、安心したような顔をしている。あれで手加減? いつもはどんな灼熱の炎なんだよ!?
「ご主人様は初めてだからにゃ。最初は手加減しておくにゃ♡」
そう言ってドラコにゃんは竜の頭をクルクルと回転させた。これでどこかの差込口に「アタリ」がセットされたわけだ。
こうして『黒コゲ危機一発』という名のデスゲームが、テーブルの中央にスタンバイされた。
「さあ、始めるにゃよ♡」
キュピーンと目を光らせ、対面のイスに腰掛けるドラコにゃん。いつの間にか、マギナと寿里も椅子を持って俺の両側に座っている。
二人ともやる気マンマンじゃないですかやだー!
しかし、ここで俺が断固拒否したら楽しい場がシラケてしまうだろう。せっかくドラコにゃんが俺を楽しませようと用意してくれたゲーム、マギナや寿里も一緒にやると言っているんだ。ここで逃げたら、俺はただのチキンヤローになっちまう。
覚悟を決めるしかない、か。
「しゃーねー、こうなったら俺の生き様を見せてやるぜ!」
あの炎を喰らったら『生きた様』を見せられなそうだけどな。
でも大丈夫、確率は4分の1だ。
それにドラコにゃんはレッドドラゴンだから、自分の炎には耐性があるんだろう。マギナは魔力で防御できるって言ってたし、寿里はゾンビだから死ぬことはないはず。
つまり、俺が回避できればいいわけだ。
このデスゲーム、切り抜けてやるぜ!
俺はおもちゃの短剣をひとつ取ると、RPGゲームの勇者のようにそれを高く掲げた。
俺の胸の中では今、旅立ちの曲が流れている。
これから火炎のブレスを吐き出すラスボスに挑むわけだ。
当然、俺のレベルは1だし、装備だってこの短剣とTシャツ&ジーパンだけ。ドラゴンメイルとか水鏡の盾のような、炎に耐性のある防具を装備しているわけじゃない。
ましてや、フバーハみたいな炎のダメージを半減する魔法が使えるわけでもない。
しかし、俺には勇気がある。それを見守ってくれるメイドさんが3人も付いている。今こそ勇気を力に変えて、この世界に光を取り戻す!
行こう。そして伝説へ……だ。
「ご主人様、カッコイイにゃ♡」
「ふん……少しは度胸があるようね」
「ボクが死なないように祈ってあげるんだな」
メイドさんたちと心もひとつになった。これで
「もう何も恐くない!」
俺は先頭をきって『黒コゲ危機一発』を引き寄せた。
樽の上に鎮座する竜が、鋭い目で見つめてくる。大きく開いた口からは、微かに赤い炎が漏れているのが分かる。
「へーき、へーき。差込口は30か所くらいあるんだ。いきなり当たるなんてことはない……はず!」
俺は少しだけ震える手で、短剣をグイっと差し込んだ。
――でも待てよ?
誰かが「アタリ」を引いた時点で、この店は灼熱の炎に巻かれるんじゃ……?