第五幕 ご主人様、ゲームをしましょうにゃ
俺がスペシャルドリンク『レッドドラゴンオーブ』を飲み干すと(もちろん果肉も全部食べた)、ドラコにゃんが
「それじゃあご主人様、ゲームをするにゃ♡」
と言ってきた。
「ゲーム?」
「はいにゃ! 今日はお店がまったりなので、みんなでやるにゃ♡」
「お、それは楽しそうだな。やろうやろう」
まったり――つまりお店が空いてるってことだな。
空いてるというか、俺の他にお客らしき人は誰もいない。広い店内でポツンと俺だけがお給仕されているのは寂しい気もするが、周りに気を遣わなくていいのは気楽で助かる。
……てかこの店、ホントに流行ってないのか?
そんな俺の心配をよそに、ドラコにゃんは大声で仲間を呼び集める。
「マギナ! 寿里! 一緒にゲームをやるにゃよ!」
すると店の奥から、ふたりのメイドさんが寄ってきた。
着ている服はドラコにゃんと同じメイド服だが、ひとりは全体的に紫色がかって見える。これは、服の色が紫なんじゃない。陽炎のように紫色の霧を纏っているような、オーラを発しているような……
「マギナは魔法少女にゃ。ほら、ご主人様にもマギナの魔力が見えるにゃね?」
「ま、魔法少女!? その紫色は魔力の光なのか!?」
そういえばドラコにゃんが言ってたな。このメイドカフェには異世界からたくさんの種族が出稼ぎに来ているって。
なるほど、魔法少女も魔女と戦わずにメイドさんになるご時世なのか。
世も末ならぬ、異世界も末だな。
「ふん……アタシはドラコにゃんに呼ばれたから来ただけで、ご主人様のためにゲームをするんじゃないんだからねっ!」
なんだ? いきなり怒られてしまったぞ?
でもこういうキャラ、嫌いじゃない。
そしてもうひとりの子は――なんかすごく顔色が悪いんですけど。顔が青白くて、具合が悪そうな感じ。それに、右目に眼帯をしてるのは怪我してるんじゃないか?
「寿里はゾンビ娘だにゃ。眼帯は寿里のアイテムだから、気にしなくていいにゃよ」
ゾンビかよ!
いくら出稼ぎっても、死人までもが稼ぎに出て来るなんて、本当に異世界も末だな。
「ボクは死人じゃないんだな。生ける屍なんだな」
「それって死んでるだろ!」
スマンスマン、思わず突っ込んでしまった。このメイドカフェは何でもアリだ。寛容な心で受け止めよう。ゾンビだろうがボクっ娘だろうが一向に構わない。
「で? ゲームって何をするのよ。まさかドラコにゃんのアレじゃないでしょうね?」
マギナが嫌そうに腕組みをする。
「その、まさかにゃ♡」
「嫌よ! アレは防御するのに魔力を使って、マジカルジェムが濁っちゃうんだから!」
「ボクも炎に弱いから、命がいくつあっても足りないだな」
おいおい、一体どんなゲームなんだよ。防御するのに魔力が必要? ゾンビの命がいくつあっても足りない? だいたいゾンビはすでに命がないだろ。
「二人とも協力してほしいにゃ。せっかく新規のご主人様が来てくれたにゃんよ? 楽しくゲームをして、常連さんになってもらわにゃないと」
逃げ出そうとするマギナと寿里を掴み止めるドラコにゃん。二人とも、明らかに嫌がってますよ?
「なあ、ゲームってどんなことするんだよ。ひょっとして危ないゲームなのか?」
「危なくないにゃ。スリルがあって楽しいにゃよ♡」
「だって二人とも嫌そうだぞ?」
マギナと寿里はこの場を離れようとジタバタしている。が、ドラコにゃんが服を掴んで離さない。いや、そこまで無理にやらんでも……
「二人とも聞くにゃ。ご主人様が次に来てくれた時には、わたしのお給仕を譲るにゃ。これでどうにゃ?」
ドラコにゃんの提案で、二人はピタっと動きを止めた。
「マギナも寿里も、携帯の支払いとアパート代が滞ってるにゃよね。お給仕の仕事がないと、携帯が止まってアパートも追い出されちゃうにゃよ?」
な、なんという生活感丸出しの会話!
出稼ぎ労働者にお給金というキラーワード!
これがメイドさんたちの会話でいいのか!?
「し、しょうがないわね。別にアンタのご主人様のためじゃなくて、家賃の催促がウザいからやってやるんだからね!」
「ボクもツイッターが出来なくなるのは困るんだな。仕方ないからやってあげるんだな」
お給金で即決かよ!
やはり出稼ぎ労働者にマネーをチラつかせるのは強い。
結局4人でやることになったわけだが、肝心のゲーム内容について俺はまったく理解できていない。スリルあるゲームとか言っていたが、それを教えてもらわなきゃ始まらない。
「で? どんなゲームなんだ?」
という俺の問いかけに、ドラコにゃんは人差し指をビシっと立ててこう言った。
「黒コゲ危機一発にゃ!」
黒『コゲ』危機一発って何だよ!?
黒コゲ……
炎……
あ、なんとなく想像できた。