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第四幕 ご主人様、美味しくな~れのおまじないにゃ


「それではご主人様、ドリンクをお持ちしますにゃ。どれがいいか選んでほしいにゃ♡」


「お、そうだった。せっかくだから頂かないとな」


 ここまで俺は何も飲まず、注文すらしていない。そうして20分は経ってしまっただろうか。カフェに来たはずが飲食に辿り着けてないけど、こうやってお喋りをするのもメイドカフェの楽しみ方ってことか。


 でもワンドリンクで600ミルキーだからな、何か注文しないとだ。


 どうせならドラコにゃんのメニューを選ぶべきだな。コーヒーやオレンジジュースはどこでも飲める。オリジナルメニューでいってみよう。


「じゃあ、この『赤竜の宝珠』ってのにしようかな。赤竜ってレッドドラゴンだろ? これが一番ドラコにゃんぽいもんな」


「はいですにゃ! しばらくお待ちくださいにゃ、ご主人様♡」


 俺はいくつかあるオリジナルメニューの中から、この場に相応しいと思えるものを選んだ。初めてメイドカフェに案内してくれたドラコにゃんに合わせたって感じかな。


 こうやって雰囲気を合わせるの、大事だろ?


 それから少しして、ドラコにゃんはトレイに何かを乗せて持ってきた。


「お待たせしましたにゃ! 『赤竜の宝珠』ですにゃ♡」


 赤い液体に、赤い果実が……透明パックの中に入ってる――だと? そして傍らには白いストロー。しかも小さいヤツ。それを丁寧にテーブルに置く。


 これってもしかして……


「すもも漬け!?」


 駄菓子屋で売ってるヤツじゃん! スモモを酢に漬けて汁を飲むアレだよね。スモモも食べられるヤツだよね!?


 俺は慌ててメニュー表を見返してみた。


 赤竜の宝珠、300ミルキー。


 明らかに安い。アイスコーヒーが500ミルキー、オレンジジュースが600ミルキー。他のドリンクの半額程度であるこのメニュー、普通じゃないと疑うべきだったか?


「別名、レッドドラゴンオーブですにゃ♡」


 レッドドラゴンオーブ!


 たしかに、赤い液体の中に真紅のオーブが沈んでいるのように見えるのが幻想的というか、神秘的というか。


 でも……


「思いっきり、『すもも漬け』って書いてあるし!」


 他のオリジナルメニューからして、地雷っぽいモノは出てこないだろうと安心しちまった。


 ドリンクを頼んだのに、まさかの駄菓子だぞ!?


 いや、ドリンクに間違いはないのだが、これは想像の斜め上をいってる!


 俺は開いた口が塞がらないまま『すもも漬け』を凝視していると


「ご主人様、これは完成形ではないのですにゃよ?」


 ドラコにゃんの目がキラリと輝いた。


 待て。待ってくれ。『レッドドラゴンオーブ』というネーミングで『すもも漬け』を出すセンスは、時代を先取りしすぎている。いや、昔の駄菓子だから時代を逆行してるのか?


 どっちにしても、この破壊力に俺の脳ミソは追いついてないぞ。ここからさらに何かを施そうというのか?


「おまじないにゃ♡」


 ドラコにゃんはすもも漬けにストローを刺すと、何やら呪文のように唱え始めた。


「美味しくな~れ、美味しくな~れ……」


 そうして両手でハートマークを作ると、まるで子猫のような顔で小さい八重歯を見せる。


「にゃんにゃんにゃん♡」


 最後はパチンと片目でウィンクして


「これで完成にゃ!」


 召し上がれと言わんばかりに両手を広げてきた。


 その『おまじない』を見た俺は、少し顔が赤くなっていたと思う。可憐な仕草と愛らしい表情で、恥ずかしい呪文を一生懸命に唱えているドラコにゃんに見蕩れてしまった。


 胸の奥がキュンとして、心がときめく。


 なんだろう、これ。


 俺、この子に惹かれている?


 これは、恋……なのか?


 俺は頭がボーッとしている状態で、すもも漬けを手に取った。


 おまじないのかかった『赤竜の宝珠』こと『レッドドラゴンオーブ』は、妖しい色をしている。透き通った赤い液体が気分を高揚させ、まるで恋心に火をつけるようだ。


 ストローに口を付け、ゴクリとひと口飲む。


「…………酸っぱ!」


 口の中に広がる、酢の酸っぱさ。きっと俺は「*」こんな口の形をしてるんだろうな。


 でも、酸っぱさの中にも、ほのかな甘みがあるような気がした。




 恋は――甘酸っぱいんだな。


※メイドカフェには、世界観を作るための専門用語があります。


 おまじない・・・ドリンクなどを美味しくするおまじない

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