ど、どうすれば?
「あ、あのぅ……俺はどうすれば?」
俺は椅子に座って女神の返事を待つ。
「別にすることなんてないわよ。」
「あの、何をしてるんですか?」
「見て分からない? ゴロゴロしてるのよ。」
「はい、聞いた俺がバカでした。」
何時間たっただろう…いや、何分か?
よく分からないが、どうやら俺は未練が分かるまでココから出られないらしい。
未練たって覚えてないんだもん。
未練がないんじゃないのかとも言ってみたが、ココに来る=未練がある ぐらいなんだとか。
つくづくよく分からないシステムである。
まったく、俺のストーリーはどうなっているんだ。
ましてや、なんだこのぐーたら女神は……。
会った時はもっと女神っぽかったのに、めんどくさい事になったら急に態度を変えやがった。
本当の女神様はどこにおられるのですか。
「な、なによ……ちょっと、なんでそんなに可哀想な目で私を見るの? ねぇ!?」
「なぁ、俺はお前と違ってゴロゴロしてるだけじゃ暇なんだよ。なんかないのかよ?」
「な!? わ、私だって好きでゴロゴロしてる訳じゃないわ!」
すると、女神が しょーがないなぁー とばかりにため息をつきながら立ち上がる。
「あのね、ここには何もないの。
この場所はただの認識でしかないのよ。」
女神が手を前に差し出し、手のひらを下にして
でもね……と続ける。
するとその直後、俺の目の前にはちょっと変わったデザインの椅子が2つ…3つと現れた。
これはこの女神と出会った時にも見たが、いったいどこから現れたのだろう。
そして、女神がその疑問に答えてくれる。
「でもね…認識しだいでは何でも創り出すことができるのよ。ココは《想像力》次第では楽園になりえるの。
だから普通はココで思い通りの体験をして未練を晴らしていくのだけれど………まぁ、いいわ。
じゃあね、私は寝るのに忙しいの。」
そう言って女神は白い部屋のすみっこへ向かっていく。
「じゃあ、寝るばっかしてないで好きな事すればいいのに。」
女神がビクッとした……ように見えたのだが、何も言わず寝転がってしまった。
でも、想像すればなんでも手に入るんだな……ココは。
もしかしてこれはこれで魔法みたいじゃないか!?
え、ちょっとやってみよ。
「えーっと、じゃあ……リンゴリンゴリンゴ…………。」
俺は必死に頭の中でリンゴを《想像》する。
ゴロゴロゴロ!
「うっわぁ! やべぇ、出しすぎた!」
女神も驚いたようでこっちを見ている……が、すぐ目を逸らしてしまった。
でもホントに出たよ。すげーじゃんこの部屋!
「あ、うめぇ。」
くぅぅぅぅぅぅぅぅ………
「ん? 腹減ってるのか?」
「ば、ばか! 何も食べなくても変わらないわよ! ………じゅるり」
なにも食べてないのか。いや、食事は必要ないみたいだ。
しかし、一人でこんなにリンゴはいらないなぁ。
もしかしたらいくらでも食べられるのかもしれないが、さすがに飽きる。
邪魔だし、消えてくんねぇーかなぁ……あれ、消えたな。
消すこともできるのか。
なんて便利な世界なんだろう。
―――チリリリリリリリリリリ!!
「ななな、何事!?」
「やっと来たわね。 遅かったじゃない。」
ええ? 何!? 突然目覚まし時計みたいな音が…!
「ほら、あんたも真ん中で突っ立てないで邪魔にならないように後ろの方で見てなさい。」
「え? あ、はい。」
俺は訳も分からず、白い部屋の端へよる。
女神は手で服を叩き、乱れを直している。
部屋の真ん中に歩いていくと、その前へ魔法陣のような光が浮かび上がった。
「あの、何してるんですか?」
「シっ!!」
一瞬だけ口に人差し指をあてた女神は静かにするよう示す。
魔法陣の光がだんだん薄れていくにつれて人影が浮かび上がる。
「こんにちは、私は女神。 貴方は死んだのです。」
穏やかで女神らしいその微笑みに、俺は思わず身震いをしてしまった。