異世界転生
『貴方は死んだのです。』
目の前の真っ白な空間に佇む一人の女性。
蒼い服に身を包んだその女性は眩しいほど白いこの空間の中でさえ淡く輝きを放つ。
俺の記憶にあるもので言えば、シスター。
聖職者のイメージでいいだろうか。
白銀の髪に、血色がよくほんのり赤い頬。
『こんにちは、私は女神。
あなたの未練は何ですか?』
目の前に立つその女性はそう言って微笑む。
その姿はまさに “女神” か。
これはやはり俺に言ったのだろうな。
「未練……ですか?」
『はい、貴方の未練を聞かせて欲しいのです。』
未練か。そうだな……
「………いや、ちょっと待ってくれませんか。ココはどこなんですか?」
周りを見渡すが、ただ白くだだっ広い部屋。家具と呼べる物は何も無い。むしろ、物として存在しているのは空間を照らす照明のような物体のみ。
「俺は……死んだのか? ホントに?」
『ええ、その通りです。 ここは生と死の間。 つまり、これから貴方は〈行くべき所〉へ行かなくてはなりません。』
「…………。」
『あなたは……そうですね。
貴方の人生において、特に大きな功績を残したわけではないようですが、目立った悪さもされて無いようなので、お望みであれば異世界への転生も可能です。
身体、記憶を保持したまま転生し、モンスターを倒して活躍している転生者も何人もいるんですよ?』
「……マジですか?」
『マジです。』
マジかぁ。
あれか、某小説家になりたいヤツが集まるサイトの人気カテゴリにもなっているあの『異世界転生』ってやつか!
え、まじで?
ついに俺にもチート能力持って、村で勇者なんて呼ばれたりして。
綺麗な女の子にもチヤホヤされたり、仲間の可愛い魔法使いといい感じになって……。
んで、いずれは魔王倒しちゃったりとか?
あ、もしかしたら俺も魔法とか使えんのかぁ。
「………むふふ、悪くない。」
『そのためには現世への未練を断ち切らなければなりません。貴方と生を繋ぐ想い、糸を……』
「なるほど、そういうもんなんですね。」
『はい、それをしないと貴方同様に不慮の事故で亡くなった方々はなんらかの未練、想いを持ったまま元いた世界に留まり続け、やがて自我を無くし、表の世界、つまり生きている者への干渉を引き起こしてしまうのです。』
すると、女神は急に後ろへ倒れ………
『どーぞ、おすわり下さい。』
「へっ?」
いつの間にか女神の後ろには椅子が現れ、それに腰掛ける。
女神は首をかしげ、手のひらを上にして催促する。
後ろを向こうと身体の向きを変えると、カタッと何かが触れる。
―――俺の後ろにもいつの間にか木造りの椅子が現れていた。
俺がそっと椅子に……ん?
なんかこの椅子若干傾いている気が…………いや気のせいか。
俺がそっと椅子に座ると、女神が続ける。
『そんな未練を断ち切るため、迷える魂を導くためにココがあるのです。』
「はー、なるほどね。」
『さぁ、貴方の番です! 現世への未練を断ち切り、貴方の望む形で新たな人生を始めるのです!』
女神は手を大きく広げ、眩しいほどの笑顔を俺に向ける。
「ついに、俺もゲームのようなファンタジー世界で生活できるんですね?」
『はい。』
「まさか……チートな能力も貰えちゃったりなんか……。」
『もちろん可能です。転生先を決め、最後に一つだけ望みをなんでも叶えて差し上げましょう。新生活応援サービスです。』
おっといけない。つい、立ち上がってしまった。
なんでも? 冷静になれ俺。
ほんとにこんな事があるなんて、夢じゃないよな?
夢オチなんてごめんだぜ?
……試しに頬をつねってみる。
「………痛くない!?」
『いや、あなた死んでるんですよ? この空間では身体は 認識 でしかないですから。』
「あ、そうか。」
……バカなことしたな。
しかし、ホントに死んだんだな。
「よし、決めたぞ! 俺はファンタジー世界で勇者を目指して剣士になろう! 剣士でも魔法が使えるといいんだけど、贅沢は言いません……。」
―――そして、俺の望みは……!!
「俺の望みは聖剣エクスカリバーを持って転生することだ!」
そして、床に浮かび上がる魔法陣!
異世界への門が開き、綺麗な女神に見送られながら、俺はチートでピンクなセカンドライフを始めるのだ!
『分かりました。ではさっさと未練を断ち切ってしまいましょう! じゃあ、さっそく貴方の未練を教えて下さい!』
「………え?」
『え?』