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Embrace~黒き魔性  作者: 笹木道耶
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第十章 ペルソナ(五)

     ◆ 5


「嘘をつくことって、私は一番嫌いなの」

 彼女はそう、私に言った。

 それはそうだろう。

 でなければ、今、彼女はここにはいないはずだから。

「嘘をつくだけの正統な理由があれば仕方ないけど、そうじゃなければ──特に、面白半分でつくものじゃない」

「ただの自己正当化ね。詭弁だわ」

「違う。私には、それだけの『理由』がある。あなたと違って」

「あらあらあら。それはまた自分勝手なこと」

 余裕のある私の反応に、彼女はいささか戸惑ったような反応を見せた。

 それが私には心地よい。

「でも、よく判ったね」

「それはお互い様よ」

 再び、二人の間に沈黙が訪れた。

 私の頭はこのとき、フル回転していた。

 彼女が至って平静なのが、私には気に入らなかった。

 彼女はいったい?──。

 根負けしたように、この時沈黙を破ったのは、私の方だった。

 この私が、沈黙に耐えきれず先に口を開いてしまうなんて、ある意味屈辱的なことだった。



     △

「なぜあなたが──まあいい。あなたのできることは、もう一つしかないのですから」

「あら? 随分強制的な響きに聞こえるわね?」

「本当は今日にでも勝負をつけたいところですがね……解っているのですか? 自分が今、どういう状況におかれているのか」

「解っているつもりですわ。少なくともあなたよりはね?」

「何? それはどういうことです!?」

 少女の挑発的な言葉に、オレは思わず彼女の胸ぐらを掴んでいた。

 少女は醒めたような、それでいて皮肉の込もったような表情でオレを見る。

 言葉はなかったが、その表情で──身体全体から発せられるオーラのようなもので、オレをたじろがせ、オレの手から自らの自由を取り戻した。

「次に狙われる人。そして犯人──あなたが言いたいのは、そういうことでしょ?」

 彼女はジェスチャーを交えながら、自分の『知っていること』を誇示して見せた。

「あなた──いや、君は、もうそこまで突き止めていたというのか!? ならどうして!?」

「突き止めていた? ふふっ、違うわ」

 少女は妖艶な微笑みを浮かべたまま、こう言った。

「突き止めたんじゃなく、『知ったいた』のよ。

 もちろん、多少の裏付け調査をした上で、私も確信に至ったのだけれど。それは認めるわ。でも、見当をつけるぐらいたやすかったんじゃなくて?

 何て言ったってあの名前──うふふふっ」

 少女はまるで、オレのことを嘲笑っているかのように、蠱惑的な上目遣いでオレを見た。

     ▽



「どうして、何が理由で、何が気に入らなくて、あの人たちを殺したの?」

 少し間があったあと、声を殺した笑い声が闇にこだました。

 先程感じた心地よさは、霧が晴れるように、いつの間にか消え失せていた。

「あなたは今、『あの人たち』と言ったけれど、最初にターゲットに決まったのはあなたよ? でも、まあそうか。当の本人の前で、いきなりそれを言うのもどうかと思うし。

 じゃ、古代さんからいきましょうか?」

 異常ささえ感じさせるような冷たい響きのする声が、闇に響く。

※本作の登場人物等のおさらいに関しては、「Interlude 総目次提示・舞台・登場人物一覧等」(第12部分。第二章と第三章の間)をご覧いただければと存じます。

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