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Embrace~黒き魔性  作者: 笹木道耶
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第十章 ペルソナ(二)

     ◆ 2


 彼女は上体を起こし、「電気、点けようか」と言った。

 私はそれに同意せず、暗闇を維持した。

 狭い部屋の中に、緊張の面もちをした二人の『少女』がいる。そのくらいは、鮮明な明かりがなくても判る。

 二人して、どう話を切り出そうかと、思案しているようであった。

「『現実的』か……ウフフフ」

 痺れを切らしたように彼女が呟いた。

 心なしか、彼女の体は震えているようにも見える。

「あなたなら知っているんじゃなくて? 読書家だもんね。

 たぶん、麗ちゃんや私よりも、あなたの方が読書量は多いでしょう? ねえ?」

 この言葉に沈黙が訪れる。

「国立Y大教授、宮腰俊一郎が言うところの『思念』。

 そして『悪魔』、『魔術』という概念。

 不老不死の伝説や、『霊』といった怪しげな概念。

 そして『奇跡』──そして『螺旋』」

「……何が、言いたいわけ?」

 彼女の態度がそれまでのものとは明らかに変わっている。

 その態度は挑戦・挑発的で、その顔は、心の底から溢れ出てくる、例えようもない不適な笑みをたたえていた。

「解っているんでしょう? あなたなら。今がどういう状況だか。

 わざわざ今、好き好んでここにいるんだもんね」

 二人の『美少女』のその表情は、互いに劣らない魔性の笑みで溢れていた。



     △

 四人に絞ったのは、彼女たちが高校二年生だったから、というのが一つの理由だった。

 彼女、『阿木名和子』は、子どもを身ごもってしまったため、高校二年生になる前に中退を余儀なくされた。そして退学して、子どもを産んだ。

 彼女は死亡したとき、一七歳だった。

 絞った四人のうちの一人は、二年E組の守井楓だった。

 守井は十分に美少女と言って良い容姿で、かつ友人が多いとは言えない人物だった。

 頭が良く、化粧も高校生にしては濃いため、素顔がわかりにくいことも彼女の容疑者性を高めていた。

 しかし彼女は、悪い意味で目立ちすぎた。

 男女交際も派手で、いわゆる「遊び人」だった。

 友人が多くないのは、彼女に敵が多いからだった。

 そして彼女の小学、中学時代を追ったところ、容易に追えた。

 当時の彼女は、誰に聴いても「人気者」だった。

 この事実は、当時の写真を確認する以前の問題で、彼女が『和子』でない証明だった。彼女は確かに五年前までは小学生で、そして二年前までは中学生だったのだ。そして、彼女の素顔も、どうやらそれを裏付けていた。


 更に絞った三人のうち、一人は柳麗だった。

 彼女については、地味で友人も少なく、頭が良くて、痩せぎすではあるものの、よく見るとかなりの美少女であるという事実が、彼の注意を大きく引きつけることになった。

 守井同様、彼女の過去を追ったところ、あまり目立つようなこれといった写真も出て来ず、一瞬「これは」とも思ったのだが、しかしやはり、守井と同じ理由で、否定せざるを得ない状況になった。

 両親と同居で、守井と同様、一〇年以上この地に住んでいたのだ。自分のような人間が『力』を使って追えば、ある程度なら、その成長の軌跡を容易に、短時間で追うことができた。

 誰かと入れ替わったような、不自然な形跡も見当たらなかった。

 それが『まがい物』ではないという、確証を持ち得るレベルで。

 一〇年という数字自体は微妙なセンでも、彼女の確かな成長過程の記録はそこかしこに確かに存在し、現在の彼女との連続性は九九パーセント確かで、それを裏付けていた。

 残るは二人に絞られた。

     ▽



「ねえ、話変わるけど、門松先生のフルネーム、知ってる?」

 高校生ぐらいの女子の間では、突然話題が換わることは極めてよくある。  

「知ってるけど?」

「ドキッとしたでしょう?」

「……どうして?」

 一瞬、沈黙が闇を支配する。

 互いに出方を窺っているのだ。

「マスミは、どこで知ったの? 先生の名前」

 一美が益美に、質問に質問で返す。

「古代さんのお通夜のときに。記帳のとき、たまたま一緒になったから」

「そう」

「かずみは?」

「私?」

「だって……気にしてたんでしょ? カレのこと」

「だからあ、そんなんじゃないって」

 一美は、あどけなささえ感じさせるような悪戯っぽい口調で言った。

「でも何か……何か今日、変だよ? 一体どうしたの? マスミちゃん」


※本作の登場人物等のおさらいに関しては、「Interlude 総目次提示・舞台・登場人物一覧等」(第12部分。第二章と第三章の間)をご覧いただければと存じます。

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