第十章 ペルソナ(二)
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彼女は上体を起こし、「電気、点けようか」と言った。
私はそれに同意せず、暗闇を維持した。
狭い部屋の中に、緊張の面もちをした二人の『少女』がいる。そのくらいは、鮮明な明かりがなくても判る。
二人して、どう話を切り出そうかと、思案しているようであった。
「『現実的』か……ウフフフ」
痺れを切らしたように彼女が呟いた。
心なしか、彼女の体は震えているようにも見える。
「あなたなら知っているんじゃなくて? 読書家だもんね。
たぶん、麗ちゃんや私よりも、あなたの方が読書量は多いでしょう? ねえ?」
この言葉に沈黙が訪れる。
「国立Y大教授、宮腰俊一郎が言うところの『思念』。
そして『悪魔』、『魔術』という概念。
不老不死の伝説や、『霊』といった怪しげな概念。
そして『奇跡』──そして『螺旋』」
「……何が、言いたいわけ?」
彼女の態度がそれまでのものとは明らかに変わっている。
その態度は挑戦・挑発的で、その顔は、心の底から溢れ出てくる、例えようもない不適な笑みをたたえていた。
「解っているんでしょう? あなたなら。今がどういう状況だか。
わざわざ今、好き好んでここにいるんだもんね」
二人の『美少女』のその表情は、互いに劣らない魔性の笑みで溢れていた。
△
四人に絞ったのは、彼女たちが高校二年生だったから、というのが一つの理由だった。
彼女、『阿木名和子』は、子どもを身ごもってしまったため、高校二年生になる前に中退を余儀なくされた。そして退学して、子どもを産んだ。
彼女は死亡したとき、一七歳だった。
絞った四人のうちの一人は、二年E組の守井楓だった。
守井は十分に美少女と言って良い容姿で、かつ友人が多いとは言えない人物だった。
頭が良く、化粧も高校生にしては濃いため、素顔がわかりにくいことも彼女の容疑者性を高めていた。
しかし彼女は、悪い意味で目立ちすぎた。
男女交際も派手で、いわゆる「遊び人」だった。
友人が多くないのは、彼女に敵が多いからだった。
そして彼女の小学、中学時代を追ったところ、容易に追えた。
当時の彼女は、誰に聴いても「人気者」だった。
この事実は、当時の写真を確認する以前の問題で、彼女が『和子』でない証明だった。彼女は確かに五年前までは小学生で、そして二年前までは中学生だったのだ。そして、彼女の素顔も、どうやらそれを裏付けていた。
更に絞った三人のうち、一人は柳麗だった。
彼女については、地味で友人も少なく、頭が良くて、痩せぎすではあるものの、よく見るとかなりの美少女であるという事実が、彼の注意を大きく引きつけることになった。
守井同様、彼女の過去を追ったところ、あまり目立つようなこれといった写真も出て来ず、一瞬「これは」とも思ったのだが、しかしやはり、守井と同じ理由で、否定せざるを得ない状況になった。
両親と同居で、守井と同様、一〇年以上この地に住んでいたのだ。自分のような人間が『力』を使って追えば、ある程度なら、その成長の軌跡を容易に、短時間で追うことができた。
誰かと入れ替わったような、不自然な形跡も見当たらなかった。
それが『まがい物』ではないという、確証を持ち得るレベルで。
一〇年という数字自体は微妙なセンでも、彼女の確かな成長過程の記録はそこかしこに確かに存在し、現在の彼女との連続性は九九パーセント確かで、それを裏付けていた。
残るは二人に絞られた。
▽
「ねえ、話変わるけど、門松先生のフルネーム、知ってる?」
高校生ぐらいの女子の間では、突然話題が換わることは極めてよくある。
「知ってるけど?」
「ドキッとしたでしょう?」
「……どうして?」
一瞬、沈黙が闇を支配する。
互いに出方を窺っているのだ。
「マスミは、どこで知ったの? 先生の名前」
一美が益美に、質問に質問で返す。
「古代さんのお通夜のときに。記帳のとき、たまたま一緒になったから」
「そう」
「かずみは?」
「私?」
「だって……気にしてたんでしょ? カレのこと」
「だからあ、そんなんじゃないって」
一美は、あどけなささえ感じさせるような悪戯っぽい口調で言った。
「でも何か……何か今日、変だよ? 一体どうしたの? マスミちゃん」
※本作の登場人物等のおさらいに関しては、「Interlude 総目次提示・舞台・登場人物一覧等」(第12部分。第二章と第三章の間)をご覧いただければと存じます。




