表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Embrace~黒き魔性  作者: 笹木道耶
49/71

第八章 偽善(七)

※本作では“  ”(ダブルコーテーション)で括られている箇所が何か所かあります。これは、「作中世界の人物による著作(本など)」の引用部分です。

     ◆ 7


 四人は図書館を出たあと、二手に分かれて家路についた。

 栄と麗、一美と益美の組み合わせだった。


 門松が去ってから、四人は近くにあったコーヒーショップに入り遅めの昼食をとった。

 麗にとっては、学校以外で栄と行動する機会はそれほどあるわけではない。昨日もそうだったが、ここのところの幸運には、正直言って感謝してもしきれないほどだった。

 しかし、一美と益美がいるこの場では、めったなことは言えない。それにどうしても人数比三対一で女子が多い場では、女子の話題が男子の話を覆い尽くしてしまう。

 麗は仕方なく、一美と益美の話に合わせていた。


「あっ……、そういえばそうだったね。そっか、明日で一七歳になるんだ。おめでとう、セブンティーン」

「なんか、知らない内に年取ってるよねぇ」

 一美の言葉に益美が照れ笑いを浮かべた。

 すっかり忘れていたが、明日は益美の誕生日だ。仲良し四人組の中で、実は彼女が一番年下だった。

「それはおめでとう。そんで、誕生日会でもやるのか?」

 栄が何の気無しに口にしたその言葉に、麗はすぐに乗った。

 もしここで益美の誕生会を開くことになれば、栄も来てくれるかもしれないし、三奈と純一も呼べば、二人の仲を修復することも可能かもしれない。

 それに──。

 これ以上事件に関わるのは、何となくもう嫌だった。

 明後日にはまた事件が起こるかもしれないのだ。

 自分が死ぬことは──たぶんないだろうが(特に根拠はないが、みんなそう思うものだ。自分に限っては──と)、何となくじっとしていては気分が悪い。みんなではしゃいでその日を切り抜けることができて、かつお互いの親睦を深めることができれば一石二鳥じゃないか──という打算もあった。

 そんな麗の提案は、すんなりと一美に受け入れられ、益美も了承し、そして一美によって具体化されていった。

「じゃあ、会場はマスミの家──で、いいよね? ダメ?」

「たぶん明日にはもう、大丈夫だと思うけど」

「じゃ、決まり! 一度マスミの家に行ってみたかったのよね、私。じゃあ明日の午後から。それとも、夕方ぐらいからの方がいいかな?」

 麗も一美同様、一度も益美の家に行ったことがなかったので、その会場案には賛成だった。

 思えば、学校の近くの家なのに一度も行っていない。少し損した気分だ。どうして益美は自分の家に友人を招いたりしなかったのだろう──麗は、普段の彼女が社交的なだけに、そんな疑問に突き当たった。

 そういう意味では、今回はイヤに簡単にOKしたな──そんな麗の思いを余所に、一美が万事仕切って、具体的にまとめていく。

 思えばこれも、結構意外だ。


「じゃあ、益美の家の都合もあるみたいなので、明日の三時くらいからってことで。それまでに各自、プレゼントやケーキを用意すること。

 以上。何か質問は?」

「俺も、数に入ってるわけ?」

「もちろんよ。当たり前じゃない?」

 一美のその言葉は麗には嬉しかったが、次の栄の言葉は、嬉しくなかった。

「俺、明日はたぶんダメだわ。他、当たってくれ」

「え、どうして?」

「ちょっと、ね。野暮用っていうか」

「ふうん。……野暮用ねえ。友達甲斐のない人ね?」

 麗は一美にもっと彼のことを追及して欲しかったのだが、彼女はそれ以上、深入りはしなかった。

「じゃあ、女の子だけでやりますか。さんちゃんも呼ぶよね?」

 一美は、益美や麗に同意を求めたのだが、その問いに答えたのは栄だった。

「そうしてやってくれ。あいつ、落ち込んでるかもしれないから」

「え?」

 そう言い残して、栄は一人、席を立った。

 麗には、そのことが何となく、哀しくて、腹立たしかった。

 彼女はすぐ、彼を追った。



 私が友人と別れ、一人になるのを見計らって、男が声をかけてきた。

 二、三言葉を交わしたあと、先程の彼の言葉を思い出し、それとなく呟いてみた。

「昨日の事件の、正直な感想を聴かせて下さいよ」

「……まあ、いずれわかることですから。マスコミや周囲の方々に話を故意に流すのでなければ、僕は構いません。もっとも、学校の方は困るかもしれないですが」

 なるほど。

 すべて見えてきた──。

「で、私に何か?」

 私は彼に対し、努めて明るく振る舞った。

 しかし、彼の表情はさすがに硬いままだ。

 しばらくの沈黙のあと、彼は言った。

「僕に、協力してはもらえませんか?」

「協力?」

 意図を一瞬、掴みかねた。

「明日の夜、深夜の時間帯になりますが──私と行動をともにしてはいただけませんか?」

 ……思わず呆れかえりたくなるようなひどい要請だ。とても女子高生を相手にした真っ当な大人の男性の言葉とは思えない。 

「それって、ナンパですか?」

「! あなたは──」

 彼の本性が一瞬見えた気がしたが、すぐに自己抑制をしてみせた。失礼、取り乱しまして──と俯いて言った仕草が、何となく愛おしい。

「ふふっ、『嫌だ』と言ったら?」

「……言いますか?」

 丁寧な言葉遣いを通す裏で、私には彼の苦悩が見えた。


     ※


“「誰か、誰か私を止めて! 誰か、だれか──」

(止めて? なぜ止まらなければいけない? 止まってしまったら、今まで私は、何のために生きてきたというの?)

「誰か、だれか──」”


 人間としての良心と、そして人間としてのエゴ。

 『第六章 決意』。

 『第七章 神刃』。


 「止めて」だって?

 笑わせるな!

 そんなのひどい言い訳だ!


 良心とエゴ──そのどちらもが、この人間という奇妙な生き物の本質であり、そして人間を人間たらしめる最大の要素なのだ。

 でも。


“二つに引き裂かれた美しい少女の体が、醜く──いや、これ以上なく美しく、朽ちていく──。”


 そう。

 人は自分のために生きるものだ。


 自分が生きるために必要なら、きっと何だってやる。

 動物だってそこまではきっと同じだ。 

 だが、決定的な両者の違い。

 それは──。


“これで──これで私は、また新たなスタートを切ることができる。”


 人は、『生きる』ということに直接関係ないことでも、自分のために、何だってできる。

 それが他の動物との最も大きな違いであり、そういう生き物なのだ。


 例え誰かを犠牲にしても。

 例えそれが誰かのためでも。


“ああ、和司、愛しいあの子を──。”


 自分の幸せのためになら、何だってできる──。


 2×3×4×9×8=1,728

 一二の三乗。


 三乗=立方──。


 そして、『一一』月『六』日──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ