表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Embrace~黒き魔性  作者: 笹木道耶
30/71

第六章 謀略(二)

     ◆ 2


 郡湊都は、たくさんの書類が入ったリュックを背負い、待ち合わせ場所に立っていた。

 リュックの中には、湊都が入学して以来演じてきた演劇部の劇の台本六冊と、更に一冊のノートのコピーが入っている。

 友香の作品が二つ、希の作品が三つ、それに友香の前任者であった湊都たちの二年先輩の作品が一つ。

 そしてあの、『転落』──。

 もちろんこれは、「武器」にするため。

 「切り札」と言ってもいい。

 自分たちの調査が推測だらけなのは十分に自覚している。

 「情報不足」──その言葉が何度となく彼女の頭を駆けめぐっている。

 しかしだからこそ、この機会をできる限り活かしたい。情報を訊き出すまたとないチャンスなのだ。唯一の物証である『転落』が背負う役割が、必然、大きくなってしまうのはやむを得ない。


 門松から直接呼び出しを受けたのは、湊都一人だった。

 しかし、さすがに年長者であり教師である門松と、一対一で対決できる自信は湊都にはなかったので、このところ行動をともにする機会が多かった永井益美と、昨日の推理でもその実力を示した柳麗に同席を頼んだ。

 理由はいくつかあった。


 一つは、教師である門松の基本的なスタンスである。

 門松が「猟奇事件」について色々と調査しているという情報は、益美らの話からわかっていた。

 問題は、その目的が何か、ということである。

 H高は私立の名門校である。

 ということは、都合の悪い事実をもみ消したり、都合のよい事実をでっち上げたりする可能性が大いにある。その彼の調査の性格をまず、見極めなければならない。

 場合によっては「風説の流布」に自分たちが使われる危険性すらあることを、念頭に置いておかなければならない。


 二つ目は、門松が希の『恋人』であった可能性がある、ということ。

 一美の調査待ちをしていた現状、真実は何一つ判明していない。それに益美や麗はともかく、授業を受けたことがない湊都にとってはほぼ初対面、と言ってもいい相手である。

 慎重になるにこしたことはない。

 そして三つ目は──。

「すみません、遅れました」

 声のした方向に目を向けると、そこには待ち人──益美と麗の姿があった。

 いよいよ、自分の心臓の鼓動が速くなっていくのがわかる。

「じゃあ、行きましょう」

 湊都は自分の緊張を他の二人に悟られないように、ぶっきらぼうにそう言って、歩を進めた。

 二人の後輩もそれについてくる。

「門松先生からどれだけの情報を取れるか。勝負ですね」

 益美が言う。

 だが、彼女はその言葉の後、更にこう続けた。

「ま、彼があたしたちの積極的な協力者になる可能性も、結構高いとは思いますけどね?」


「門松先生って、『無気力教師』って、聞いてるけど」

 湊都の問いは、三年生の間での彼の評判について、正直に言い表したものだった。

「あははっ、ま、普段はそうですね。やる気がないの丸出しですよ。──だけど」

「相当頭は切れる、と思います。口数は少ないけど、授業でも、先生の言葉には、無駄がなくて、解りやすいんです。

 難しいことを簡単にまとめて、簡単に言うから、逆に難しいことがすっと頭に入ってくる、って言いますか……」

「そうそう。門松さんの授業を聞いてると、『あ、なんだ、簡単なんじゃん』って、思っちゃうとこ、確かにあるよね? それに解りにくいとこ質問してもほとんど即答。それも最小限の言葉で。相当アドリブが利く人だとあたしも思います」

 後輩二人の会話からは、門松の能力の高さと、意外なほどの好感度の高さばかりが窺えた。

 湊都は、「助っ人」をこの二人にしておいてよかったと思った。

 自分独りだったら、とても太刀打ちできる相手ではなさそうだ。


 しばらくして、門松が車で到着した。

 彼はすんなりと三人を車に乗せた。

 湊都に電話した時点で、こういう展開を予想していたのかもしれない。

「かっこいい車ね。それに中もキレイ。新車ですか?」

 益美が遠慮なく訊く。誰に対しても外向的な娘だ。

「オレの年を考えてものを言え。このクラスの新車を買えるほど、オレは裕福じゃない」

 じゃあ誰の車なのか──ということを告げないまま、車が走り出す。

 湊都は助手席には乗りたくはなかったのだが、益美と麗に配慮して、助手席に座らざるを得なかった。

「ブツは、持ってきてくれたか?」

 門松が前を向いたまま、物騒な言い方をした。

 これではまるで、マフィアみたいじゃないか。

「はい……」

 緊張のあまり、やや声がかすれた。

 車はしばらくして、『ミュージックスタジオ2.3.5.7』と書かれた看板のある建物の横の駐車場に入った。

 どうやらここが、四人による「会議」の場所になるようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ