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Embrace~黒き魔性  作者: 笹木道耶
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第五章 猟奇趣味(六)

※本作では“  ”(ダブルコーテーション)で括られている箇所が何か所かあります。これは、「作中世界の人物による著作(本など)」の引用部分です。

 改行に乏しいなど一部の文章がとても読みにくかったり、文体が異なる箇所がありますが、ご理解くださいますようお願いいたします。

     ◆ 6


(脚本、か……)

 少女は、数冊のノートとファイルを見つめながら、計画の実行に向けて、次に自分がどうすべきかを考えていた。

 自分自身が、『脚本』を作るのだ。

 突然電話が鳴った。少女の手元にあるのは子機だ。

 一階に人がいるときは、この子機を取ることは滅多にない。

 電話は一度鳴り止んだあと、親機からのコールを鳴らした。すぐさま少女は、手元にある子機を手に取った。

「もしもし……」

 しばらくして、受話器からは、少女が今、最も気にしている人物の声が聞こえてきた。


 そう、それは少女の『脚本』のヒロイン──。


     ※


「…………次のニュースです。

 …………………………。

 私立H高校の生物準備室の中で、女子生徒が倒れているのを、教師ら三人が見つけ、一一〇番通報しました。

 女子生徒は発見時、既に心肺停止の状態で、後に死亡が確認されました。

 ……………………。

 ……現場には鍵がかかっておらず、警察では他殺と自殺の両面から──」


 私はクスッと、小さく笑った。

 小悪魔のような笑顔だろう。

 まさに『筋書き通り』、進みつつある。


“まとめると、死者の「思念」は大きく分けて二つの道を辿ることになっていると言える。それは『肉体の消滅、つまり死とともに、消滅する』場合と、『他人の心の中に間借りする』場合である。前者の場合は問題にならないが、後者の方は深刻な問題に発展し得るものである。それをこれから検証してみよう。

 前述したように、「思念」は感情によって大きさが、もしくは強さが変わる。そして、増幅の最たる原因は『死ぬことの拒否』である。そして、それが強烈な「憎しみ」や「愛情」と結び付いたときに、信じがたい現象が起こる。これが「思念」が現出した働きであり、従来の言い方を借りるなら、「心霊現象」を引き起こす基礎となるものである。

 死者の「思念」が他人の心に間借りする場合、問題は、間貸し人の「思念」と同居できるか、ということである。間貸し人の心と間借り人の心はふつう形態が異なる。従って、原則として同居は不可能であるはずである。ところが、例外があることが、長年の研究の結果いくつか出て来た。まずはそれを順に説明しよう。”


 本を読みながらテレビをつけていたので、すべての情報をきちんと聞けたわけではなかったが、それでも肝心のところは聞き逃さなかった。


「うふふふっ……」


 妖しく笑う。

 思い出す度、どうしても笑ってしまう。


“例外① 『相手に受け入れるだけの心のスペースがあったとき』

 ときどき、映画や小説などの気障な台詞に『あいつは俺の心の中で今も生きている』、というようなものが見受けられる。

 実は、文字通りそういうことがある。

 間貸し人が死者のことを特別な感情で想うとき、すなわち簡単に言えば愛情の非常に深いとき、あるいは生活のほとんどがその人の影響とともに成り立っているような場合、愛情等によって増幅していた死者の「思念」は間貸し人の心のその部分に入り込みやすくなる。もともとその死者のために用意されていたようなものなのだから、非常にわかりやすい話である。こうした同居を達成することができるのは、親子兄弟をはじめとする親族関係が圧倒的に多いのは、こうした事情による。

 逆に、間貸し人に後ろめたさがあるときもある。死者の「思念」が恨みで増幅されていて、且つ、間貸し人が後ろめたく思っている場合、すなわち一番分かりやすく言うなら、『間貸し人が殺してしまった場合』である。後ろめたさが、間貸し人の心に死者と同居するためのスペースを不本意にも作り上げてしまったという結果が生じたケースである。”


 この文献、『「思念」という概念について発表するものである』を読んだことがあったからこそ、今、私はここでこうしているのだ──とさえ思う。

 偶然の重なりとは恐ろしいものだ。

 いや、これこそ『運命』というヤツなのかもしれない。


“例外② 『死者の「思念」が間貸し人を凌駕してしまったとき』

 正の感情、つまり心からの愛情によって間借りした場合は、間借り人が自らの「思念」を消滅に導くことが大半であり、ほとんど問題にならず、時間によって問題が解消する。しかし負の感情、つまり「怨恨」によって同居したときには、間貸し人の「思念」を間借り人が食い尽くしてしまうという逆転現象が起こることがある。一時的な場合を、従来の言い方で「憑依」という。そして慢性的な場合が、精神の崩壊、あるいは精神・人格の乗っ取りである。

 日本でも、意外にこうした例外は見られる。殺人後一四年以上経過していながら(※編注・当時は一五年で時効が成立した。)自首した者がいたが、それは、毎夜自分が殺したはずの人が夢枕に立って眠れない、という理由からだった。まさに例外①の後者の過程の例と言える。

  (中略)

 「思念」が一日のうちで活動を最も活発にするのは、どうやら「午前二時半」、つまり「丑三つ時」であるらしいことは興味深い。”


 『最高の罪悪感』──。


 ここにはあの、『Embrace』を補強する材料がある。

 「憎しみ」や「愛情」といった、著しい感情の揺れ。


 感情の爆発。


 『最高の罪悪感』。


 それは当然──。

 笑みとも、強ばりともつかぬ、複雑な表情。


 さあ、次は──。


【登場人物】

大崎(おおさき)智史(さとし):精神科医・心療内科医。心理カウンセラー。私立H高の非常勤の医師。


★本作本話数については、「小説家になろう」様の2018.5.22のシステム修正の影響か、本文の一部のレイアウトが強制的に変更になるという影響が出た模様です。

 具体的には、一部の箇所において、「行あき」の指定(一文字もない行の存在)が無効になり、前の文章との間が詰まる、という現象です(「半角スペース」が行頭に入っていたことが原因と思われます)。

 読みにくい状況になってしまいましたこと、お詫び申し上げます。

 2018.5.25夜に、作者が気づいた部分については修正をさせていただきました。

 何卒、ご理解のほど、お願い申し上げます。

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