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Embrace~黒き魔性  作者: 笹木道耶
18/71

第四章 錯綜する思惑(一)

※本作は、一行37字で構成することを念頭にレイアウトしています。環境によっては、一部の頁で、綺麗に表示できないことがありますが、予めご了承ください。

※この話数については、スマホでお読みいただく場合、画面を横にしていただけると綺麗に表示できると思います。よろしくお願い申し上げます。

     ◇


 男は屋上に一人、たたずんでいた。

 まずは今後、どう動くか──これが一番の問題だ。

 ポケットの中にしまっていた、A4版の紙を四ツ折りにしたものを取り出し、そっと開く。

 今朝未明、ノートパソコンでまとめたものを、簡易プリンターで打ち出したものだ。

 いくつもの活字が、自然、目に入ってくる。


【××∧∧年】(一二年前)       【××○○年】(今年)

一〇月一一日(月‐祝日)        一〇月一一日(火)

・鯉斬殺事件発生            ・猫斬殺事件発生

 発見現場‐私立K学園理事長宅       発見現場‐私立H高校外周

 当時、警察に通報なし          警察に通報なし(公然の事実)

一〇月一九日(火)           一〇月一九日(水)

・ドーベルマン二匹斬殺事件       ・交尾中の猫二匹斬殺事件

 現場‐私立K学園理事長宅         発見現場‐私立H高校外周

 当時、警察に通報なし(但し噂は蔓延)  警察に通報あり

                    一〇月二七日(木)

                    ・鯉斬殺、毒殺事件

                     現場‐私立H高校内

                     警察に通報あり

一〇月二八日(木)           一〇月二八日(金)

・K学園二年生女子生徒、転落死     ・H高二年生女子生徒、転落死

             (事故)              (自殺?)

 現場‐崖下                現場‐私立H高校内(屋上から)

 状況‐頭から落ちて            状況‐頭から落ちて

 当時、目撃者ゼロ            目撃者多数だが、動機見当たらず

一一月〇一日(月)

─────────────(折った紙の中央線)─────────────

 男は、ちょうど横入れ縦書きの紙の上側半分だけを眺めた。

 もう「半分」、終わってしまっているのだ。

(これ以上の犠牲者を出すわけにはいかない)

 この紙の下側上段に書かれている続きに対応する事件が、下段に書き加えられることを何としてでも防がなければならない。

 男は、まるで苦虫を噛み潰すように阪野という刑事の顔を思い返し、そしてため息をついた。


      ◆ 1


《一〇月二九日 土曜日》

 日中の図書館は、土曜日と言えど空いているものであるらしい。

 『読書の秋』という言葉はどこに行ったのだろうか。

 郡湊都は、そんな閑散とした秋の昼下がり、一人、図書館で調べものをしていた。

 目指すは『オカルト系の文献』だ。

 この県立中央図書館は、県内最大のマンモス図書館である。

 しかし、そのような興味本位を地でいくような類の文献は、思いの外少なかった。もっとも、美術書や伝説・説話集、あるいは演劇関係の文献などを次々と当たれば、それなりの結果は得られたのかもしれない。

 しかし彼女は、楽な方へ流れていった。

 彼女が手に取ったのは国立Y大の元教授、宮腰俊一郎の著作、七点。

 新書クラスの本から法律学の教科書みたいな分厚いものまで、彼の著作は多岐にわたっていた。

 いくら進路が決まっているからと言っても、もちろんこれをすべて読破できるほど湊都は暇ではない。

 少しずつ目次等で必要そうなところを絞り込みながら、流し読みしていく。


“「霊」については、様々な伝説が各地にある。(中略)それが「思念」という概念の発見につながったのである。”


 『「思念」という概念について』には、こんなふうに書かれていた。この「思念」については、学校の図書室にあった『悪魔信仰』でも触れられていた。

 

“「祟り」という現象は興味深いもので、そこには必ずと言って良いほど、誰か不幸な死を遂げたものが必ずいる。

 もちろんその「祟り」なるものは、通常、説明できないような災厄を何かのせいにするというだけのものに過ぎないのだが、中にはその人物が「夢枕に立った」とか、あるいはよそ者が「吊り橋のロープに切り目を入れているのを見た」などといった情報が飛び交う。これはしかし、その土地の文化を知るために世界中を飛び回っていると、そのどこででも見受けられるという点に、私は心惹かれる。なぜ災厄をもたらす人間は、不幸を背負って死んだ者でなければならないのか。”


 『未開地における神』という本の書き出し部分は、こんな感じだった。


“本当の意味での「神官」は、つまるところ、強力な「思念」を持った、秀でた力の持ち主である。「思念」は基本的に脳の働きであり、「意志」によるものであるので、一般にいう霊魂とは必ずしも同一ではない。ではなぜ彼らがいるのか? その説明は、実は案外と他愛ないことである。つまり、現代において、彼らの大半はいらないのである。”


 『聖職者たちの存在意義』には、更に『封印』が施されたあとである現代においては──という記述があった。だが、その後は心霊ではなく、心の支えとしての宗教学的な記述に終始していた。


“死者を復活させようと目論み、そして成功を収めた人間は前述したように数知れない。彼らはある者は聖職者として、ある者は魔術師として、ある者は悪魔の化身として、崇められ、畏れられ、迫害され、そして最終的にはその多くが死に至らしめられた。

 しかし、彼らの復活させた者たちの死に方を検証してみると、そこには共通点が多い。

 簡単に言うと、肉体に大きな損傷がなく、突然倒れたとか溺れたとか、あるいは薬を服用した、などと言ったものばかりなのだ。

  (中略)

 つまり、仮死状態だった、ということだ。彼らの多くに記憶や身体の障害が見られ、人によってはただの植物状態に過ぎない「復活」を果たした、というのは、外傷性のショックの場合は言うまでもなく、そしてそれ以外の場合でも、心臓の動いていない瞬間が短からずあったのだから、むしろ当然のこととして受け止めるべきだ。”


 『生ける屍』では、魔術というものを否定するような記述が目立つ。

 しかし、最も湊都の目を引いたのは、


“本当に魔術を使える者がこの世にいたとしたら、その者は決して、人前に出ようとはしないだろう。少しでも考える力のある人間ならばそうするに決まっているからだ。”


という記述だった。

 もっともだと思う。

 人間の社会なんて、おそらくそんなものなのだろうから。

 七冊のうち、『地霊研究』と『妖精と神』という二冊は実にファンタジックなもので、権威的に見るとかなり低い位置にあるように思われた。

 問題は次の著作だ──。


“…………私は現段階で、次の二つの事例に行き当たった。

  (中略)

 つまりどちらの例でも村人たちは、確かに彼らが死亡したはずであることを確認しているのである。しかし彼らは現れた。いや、正確には見つけられてしまった。

 未開の地は、高度な文明を持つ者たちの世界に比べると、その世界は非常に狭くて、そして深い。彼らが逃げ切れなかった理由もそこにある。

 逃げ切れなかった彼らは不幸の極みである。当然そこには、「良識的な者たち」からの迫害が発生するからである。しかし、彼らはそれでも死ななかった。死ぬことはなかった。

 迫害は当然エスカレートする。だが、彼らを仕留めることがどうしてもできない。そしてその果てに存在するある瞬間を越えたとき、人々は彼らに恐怖と懼れを感じるようになる。そしてその理由付けは、ときに「祟り」として、災いの象徴として、描き出すことになるのである。

  (中略)

 迫害が止むと、彼らは故郷に戻りたくなる。例えそれがどんな苦痛に満ちたことであっても、だ。一人でいることは、どうもそれはそれでかなり辛いらしい。彼らの頭は飽くまで、「人間」なのだ。

  (中略)

 問題は、彼らが彼らの死からそれぞれ一二年後、しかも一一月六日頃を境にほぼ同じようなタイミングで、この世から消え失せていることだ。そしてほとんどの村人の彼らに関する記憶が、スッポリと抜けてしまっていた。辛うじて残っているのは、彼らの親友や実兄が文字で残した文章と、そして微かなほどおぼろげな記憶だけなのだ。”


 『災いのメカニズム』という本に書かれたこの一部分は、しかしなぜか湊都には引っかかった。この文章から遠ざかるのが何だかもったいないというか、言葉で表現しづらいような、とにかく後ろ髪引かれるような思いがして、しばらくこの本を眺めていた。

 複数の本と向き合った余韻から冷め窓の外を見ると、既に陽が傾きかけていた。これ以上留まっている必要も余裕もない。それまでいた席の机の上を片づけ、ゆっくりと席を立とうとしたそのとき──。

(あれは──?)

 湊都は窓の外に、知人の少女の姿らしきものを、見た気がした。

【登場人物(故人)】

古代こしろ のぞみ:私立H高校2年A組。県内の強豪である演劇部で脚本・演出を担当。10月28日の午前10時頃、授業中に「飛び降り」により校内で死亡。自殺とみられるが動機は不明。


※本作では“  ”(ダブルコーテーション)で括られている箇所が何か所かあります。これは、「作中世界の人物による著作(本など)」の引用部分です。

 改行に乏しいなど一部の文章がとても読みにくかったり、文体が異なる箇所がありますが、ご理解くださいますようお願いいたします。


★本作本話数については、「小説家になろう」様の2018.5.22のシステム修正の影響か、本文の一部のレイアウトが強制的に変更になるという影響が出た模様です。

 具体的には、一部の箇所において、「行あき」の指定(一文字もない行の存在)が無効になり、前の文章との間が詰まる、という現象です(「半角スペース」が行頭に入っていたことが原因と思われます)。

 読みにくい状況になってしまいましたこと、お詫び申し上げます。

 2018.5.25夜に、作者が気づいた部分については修正をさせていただきました。

 何卒、ご理解のほど、お願い申し上げます。

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