第9話 騒動の終結
和斗に縄をほどかれ「おじーさん」は立ち上がった。
「おじーさん、大丈夫? 久しぶりだね。」
「いや~、助かった! あいつらめ…。どうしてくれよう…。」
と言いながら、スキンヘッドの老人は悪そうにニヤついた。
「組長やめちゃったんでしょ?」
「もう、しょうがない復帰する! あいつら破門! へへへ! さ~破門状流すぞ~!!」
「わー…。目の光が生き生きしてきた…。」
そして弓美は幸男のガムテームをはがした。
「大丈夫?」
「ユミ…ありがとう…。」
「もう…あたしがこなきゃ危なかったね!」
「うう…。」
幸男は泣き出してしまった。
「泣くな! 男だろ?」
「自分が情けないよ…。ユミを目の前でケガさせて…。一歩間違えたら殺されてしまうところだった…。」
「そうだね…。…なんで…、こんな無茶したの?」
「麻薬の売買の話しを聞いてしまったんだ…。ウチの店が温床だったんだ…。」
「え? そうなの?」
遠くからサイレンの音…。警察がやってきたようだ。
和斗はホッとした表情で
「お~。ようやく来たか~。」
「これで一安心だな。」
と、和斗の隣りの老人は微笑んだ。
弓美は、老人の前で深々と頭を下げ、
「前組長さん、お久しぶりです。」
「おー! 弓美かぁ~。オマエがベヒモスを語って現れた時はビックリしたよ。」
「スイマセン。ネームバリュー使わせてもらいました。」
「え? そうなの?」
「そー言えば、みんな怖気づくと思ってさ。」
「え? どーゆー意味??」
「なんかね。アンタが殴った組長さん。」
「え? あの人、組長だったの?」
「そう。あの人が、アンタを探してたみたい。」
「え? え? …どうして…??」
「あ…うーん…。アンタのこと先代の組長さんのお気に入りだったから…。」
「あー…。ま、このおじーさんとはよく昔遊んでたけど…。」
「…殺したかったんだって。さ。警察来たよ! あ、アタル! こっちこっち!」
ぞろぞろと入ってくる警察。アタルがこっちに向かってくる。
「え? 殺す!? え? え? …ちょっと…おじーさん…。」
「あー、ゴメンなー。引退する時、男として一番いいのはベヒモスだって言っちまって。それで嫉妬したんだろ。いやー醜い! 男の嫉妬は。そんで麻薬売買始めるわ。女の誘拐はするわ。ダメだったあいつ。わははは。」
「ちょっと、何ですか~。それ~。おじーさんに見る目無かったってことでしょ??」
「ま、破門状も出すし、刑務所に行くし。もうM市には戻ってこれねーよ。心配すんな。」
「そんな…心配だよ~。」
「オマエも男なら覚悟して家族を守れ! オマエが過去にやってきたことだろうが!」
前組長がドスの聞いた声で叫んだ。
「いや…おじーさんがオレのこと言わなきゃよかった話だと思うけど…。」
「…ま…。言いたかないけど、お前の結婚式と、家建てたときのご祝儀…なんぼ出したと思ってる? ケイちゃん知ってるの?」
と、老人がニヤリと笑って言うと和斗は知らん顔をした。
「……さ…警察も来たことだし…。おしゃべりはこの辺にしますか…。」
「フフフ。」
まさか、あん時のご祝儀の話し出されると思わなかった…。
ケイちゃんに秘密のオレのお小遣い…。返せって言われても、ちょっと減っちゃってるし…。
今更、ケイちゃんにばらされても困るし…。あーもー…まいっか。
弓美が刑事のアタルに話しかけている。
「アタル、なんでこの場所わかったの?」
「あ、カズトくんから電話きて…。」
「え?カズちゃん知ってるの?」
「M高の同級生だったんだ。」
「へー。あのギラギラしてた頃の? つながりあったの?」
そこに、和斗も来てアタルの肩に手を置いた。
「オレがボクシング部の主将で、アタルがバスケ部の主将だったから、生徒会とかでよく話したんだ。つい最近やった同窓会で、連絡先も交換してたし。」
「そ…あン時のカズトくんはメチャクチャ怖かったけど…。なに? 今はそんなに丸いんだね~。」
「いやいや…。今も昔も変わんないでしょ?」
「…でも、やっぱり…。」
「ん?」
「体中にそんな刺青いれてんだね。」
「え…いや…まぁ…。」
弓美が思い出したように
「アタル、この人が」
ウワサのベヒモスなんだと言おうとした。
「ユミ!」
幸男は、弓美がなにを言うのか分かったのでそれを制した。
「え…?ああ…。」
「ん?フフ…。…さ…お仕事お仕事!」
と言って、アタルは部下の警官に指示を始めた。
幸男は自分の店が、麻薬の温床となっていることをアタルに告げた。すぐさま一台のパトカーが店に向かって走って行った。
前組長の老人と幸男は、事情聴取のために一緒に警察に行った。
弓美と和斗は、その場での聴取で帰してもらえることになった。
車に乗り込む二人。裸に上着だけを着る和斗…。車を走らせながら
「どこかで…ワイシャツ買わなきゃ…。」
「良かったね! けっこう早く帰れて!」
「もう…弓美さん…迷惑だったよ…。」
「え? ふーん…。そんなこと言っていいんだ…。」
「だって…。」
スマホを取り出す弓美。
「暴力ふるったこと、ケイちゃんに言ってやろ~。」
「え? え? ちょ、ちょっと待って! ちょっと待って!」
「あ、もしもし~?」
「あ! ゴメン! 弓美さん! ゴメン! ゴメンなさい!」
「まだ、お店あいてます? あ、はい、そうですか。分りました~。今行きますんで~。」
「え? どこ? どこにかけたの?」
「紳士服屋さん。ワイシャツ買うんでしょ?」
「あ…はぁ~…良かった…。」
「命の恩人にそんなことできないよ。ありがとね! 来てくれて…。」
「うん…。」
「…アンタは最高! 最高にいい男!」
「あ…そういえば…。」
「ん?」
「あの…男の人は??」
「え? …大切な人だよ。あたしの。」
「あ! あ…そうなんだ。弓美さん。良かったね!」
和斗は、無邪気な笑い顔を弓美に見せた。
ふふ…アンタは最高だけど…。
そうだね。あの人も…。