第8話 偉大なる獣(ベヒモス)
そこには弓美が立っていた。
「あん?誰だ?おねーちゃんは。」
「あたしの…大事な人…帰してもらうよ。」
「ユミ!…来ちゃダメだァ!」
「はーん。ベッピンさん。あんたがこいつの変わりになるのかい?」
「いや…取り戻す…。力づくでなァッ!」
「男の声!!」
ボクシングスタイルで、チンピラたちをノックアウトして行く弓美。
つぎつぎ倒れて行く男達。
「おまえまさか…。」
「そうよ。偉大なる獣ベヒモス…。アンタが探してた…」
「やっぱり…。このヤロウ。女に姿変えてやがったのか…。どうりで見つからねぇ…。ちょうど良かった。探してたんだ。先代のお気に入り…殺すために!」
「やれるもんならやってみな!」
構えを崩さずに突進する弓美!
ズキューーーン!!!
「は…オマエが化け物でも、さすがにこれにはかなわねぇだろ…。」
と、拳銃をかまえて狙いを定めた。
「当たらなければ、どうということはないわね。」
先ほどの弾は、弓美に当たらなかった。
二度目を撃とうとする組長。
それも、フットワークでかわす!
変わって、車の中の和斗
「え?銃声??マジかよぅ……。あーーー…クソ!」
上着を脱ぎ、どこかへ電話しながら、弓美が向かった方へ行く和斗。
倉庫の中。組長の拳銃は今度は弓美の方には向いていない。
「ユキオ…。」
「そうだ…。コイツを撃たれたくなかったら、攻撃をやめろ。」
「く…。」
弓美の顔が苦痛を受けたようにゆがむ。
「ユミ!オレなんていいんだ…はやく…。」
「わかった…よ…。」
腕をダラリとたらす弓美。
すかさず、弓美の左腕は撃ち抜かれた。
衝撃で彼女は後ろへ倒れ込んでしまった。
幸男は驚いて叫んだ。
「やめろーーーー!!!」
そこに、空気が読めていないように和斗が入って来た。
「こんばんわぁ……。わ…なんか、いっぱい倒れてるし…。あれ…?」
「あ?誰だオマエ??」
和斗の視線の先には、血を流して倒れている弓美の姿。
ワナワナと震える和斗。
髪の毛は逆立ち、眉間にシワがより、目はつり上がる。
拳をググっっと握る…!
乱暴にワイシャツを引きちぎり、それを両拳に巻き付け、上半身はだかになった。
胸には、タトゥ。
心臓の位置にピンクのハート。
それを流々とした腕で爪をたて抱きしめ、噛み付こうとしている、ライオンのような獣という意匠。
「そ…それは…!」
組長に向かって、突進する和斗。
すかさず、3発目を発射する組長!
それにもかまわず組長の懐に入り込み、
顎先を狙い、拳を振り上げる…
「偉大なる獣…!」
見事なアッパーカット!
3mは飛び上がる組長。
ドンッという音とともに、地面に落ちる。
これは…しばらくは目を覚まさないだろう。
和斗は倒れ込んでいる弓美に
「弓美さん…。大丈夫??」
和斗は、自分の両拳に巻いた、Yシャツで弓美の腕を止血しながら聞いた。
「………う…うん……。」
「…あ…よかった…。」
「来て…くれたんだね…。」
「銃声が聞こえたからさ…。まさか、こんなことになっていようとは…。」
「ごめんね…危険な橋渡らせて…。」
「…ん…。でも…無事でよかった!あー!クソ!女に手をだすなんて…卑劣なやつ!」
「あら!女って思っててくれたの??嬉しい…。」
「だって…弓美さん、だれよりも女じゃないですか…。」
と、和斗は照れながら言った。そんな和斗に
「ふふ…ありがと…カズちゃんはアタシが今まで出会った中で2番目に最高の男だよ!」
「2番…??」
「ふふ…でも、ホント!本物の「ベビモス」は強いね!」
「やめてよ…。あの「おじーさん」がそういってただけなのに…。」
「ケイちゃんは、その入れ墨見て、なんて言ってんの?」
「「猫ちゃん」って言ってる…。」
「ふふ…偉大なる獣が猫で終わりかぁ。」
「でも、いいんだ。ケイちゃんには猫ちゃんで。」
「ふふ。そうよね。さ!助けなきゃ!」
二人はしばられてる、「おじーさん」と幸男に近づいていく。
和斗は、「おじーさん」を。
弓美は、幸男を解放した。