第5話 膨れ上がる恋心
月曜日。幸男の職場。イタリアンレストラン彫磨汐
弓美さんが来てくれた!
すげーやる気アップ!今までの人生で会心の出来!
さぁ…ディッシュが客席に運ばれて行きました…。
弓美さん…どう言ってくれるかなぁ…。
しばらくすると、ウェイターさんが
「青田シェフ。お客さんが呼んでるよ。」
「あ!はい!」
落ち着いた顔をしながら弓美さんのテーブル…。
実際は、口元がムニムニ動いてたけど…。
「どうでしたか?」
「あ…ユキオちゃん。とっても良かった…ふふ。お肉の焼き加減もいいし…ソースも抜群!」
「あ…はは…よかった!」
「とっても上手!ユキオちゃん、合格!」
「やった!…材料…イタリアから直輸入なんで…そこもいいんだと思います。」
「へーそうなんだ。…ユキオちゃんは…ずっと、イタリアンやってるの?」
「いえ…ホントは、日本料理をやりたくて…いろいろやってるんです。」
「そうなの?」
「料理の専門学校でてからはフランス料理、タイ料理、中華料理にもいったし…。」
「あら、なんで日本料理にいかないの?」
「いろんな国のいいところを勉強してからいきたいんです。日本文化はいろんなものを取り入れる文化なので…。」
「あ!なるほど!」
「わかります?いや~。なかなか分かってくれる人いないんですけどね…。」
「納得。そういうことね。ふふ…。」
「弓美さん、今日は、ホントにありがとう。…じゃ…仕事に戻りますね。」
「んふふ。じゃ…また来るわね。」
「あ!はい!」
厨房に戻るオレ。
「きれいな人だなぁ~…。彼女?」
「いや…お客さん。知り合い。」
「あ、そうなんだ。へー。」
終始、笑顔がこぼれるオレ…。
それから…。外でも弓美さんは会ってくれるようになった。
怒られるかもしれないけど…
元、オトコだけあって、話がメチャクチャあった。
「へ―!ボクサーだったんですか!」
「うん。今はキックボクシングやってる。」
「すごい!え?大会とかでたりします?」
「うーん…。性別の関係でね…。ちょっとどっちも出てない。」
「あ、そうか…。」
「だから、ジム通いだけ…。ま…練習生とスパーとかやるだけでも楽しいしね。」
「んですね。楽しそうです。」
「ユキオちゃんは?なんかスポーツやってる?」
「2、3年前はフットサルやってました。ちょっと事情あってやめちゃったんですけど。」
「あら。いいじゃない。でもヤメちゃったのね。」
「今は、バイクに乗ってます。」
「あら、いいわね!」
「北海道の国道12号線をバイクでずーーーっとツーリングしたい。」
「えーー?あたしも!今度いかない?」
「え?マジ?弓美さん免許あるの?」
「あるある!休み合わせていこいこ!」
「やった!」
「んふふ。」
「弓美さん…。」
「…ん?」
彼女の肩を引き寄せて口づけをした。
彼女の唇の音頭を感じる。
長く…長く…。名残惜しそうに口を離した。
「いいの?あたしでも…。」
「…ええ…もしよかったら…付き合って欲しいです…。」
「あら…んふふ…。んふふ…。」
それから、二人でいろんなところに行った。
サッカーも観戦に行った。
レースも見に行った。
映画館、水族館…。
しかし、もう一歩を踏み出せなかった。
食事を終え、ホテル街を歩く二人…。
弓美が話すのは食事をしたレストランのことだった。
「ん~…いまいちだったねぇ。やっぱりユキオの料理の方がいいわ。」
「うーんそうだね~。」
「今度、うちに来て作ってくれない?ユキオは実家でしょ?だから…。」
「え?いいの?」
「いいよ~。1階は父の店なんだけどね…2階はあたしの家。ちゃんとキッチンもあるよ!」
「いいな~。」
「じゃ、約束ね!」
と、彼女はうれしそうに手を打った。
「…ユミ…?」
「え?」
「よかったら…入らない…?」
一つのホテルを小さく指さしながら、確認をとる…。
弓美は驚いたように、
「あ…ここ…。」
「ウン…。」
「うーん…。」
「………。」
「…あたし…下はまた完全なオトコ…なのよ?」
「ウン…。」
「それでもいいんなら…。」
「ウン…逆に、ユミにオレを見てほしい。」
「…うん…じゃぁ…。」
ホテルの一室に入る二人…。
「…どうする?」
「…ユミ…」
幸男は、上着を脱ぎ始めた。
肌着を脱いだとき、胸に巻かれたサラシ…。
「???」
「弓美…これがオレなんだ…ほんとうのオレ…。」
そういって、サラシをはずす…。
そこには、弓美の胸にあるのと同じものがついていた…。
「黙っててゴメン…。オレ…。心は男だけど…中身は…。」
「…あは…あはは…。」
「ユミは、今まで出会った誰よりも最高の女なんだ。オレのことも弓美にそう思って欲しいんだ。」
「…ゴメン…急に、いろいろ考えられない…。」
「ウン…そうだよな…。」
「ん………ゴメン。帰るね…。」
「ちょっ…ちょっと…待てよ…。」
「うん…ユキオのこと好きだよ…とっても好き…。でも…ゴメン。今日は帰る…。」
「…そうか…そうだよな…。」
弓美は、黙って部屋のドアを閉めた。
幸男は頭を抱えてベッドに座り込んだ。