第4話 物騒な街
父と友人に別れを告げて、仕事先のスナック魔王へ。
さて。お仕事…お仕事…。
足も、一晩で、十分復活。
まだちょっと痛みはあるけど…。
カラーン
「いらっしゃーーい。」
「あの…弓美さんは…?」
「あー。いますよー。どうぞー。」
ん?この声って…。
「こんばんわ。」
「あら~!幸男ちゃん、今日も来てくれたのね~。」
「ええ。遅かったんですけど…開いててよかった!」
「あら。まだまだやってるわよ。いつもこの時間が終わり?」
「いえ。今週と来週はディナー番なんでね。最後まで。終わるのは23~24時くらい。」
「あ、そうなんだ。ディナーとかランチとかあるの?」
と、言いながら彼の前に麦焼酎の水割りを出した。
「そうです。ランチ番もあります。変更する時は二連休。」
「へー。いいお店ね。」
「ですね~。いいとこです。不満はないですよ。」
「あらいいわね~。じゃ、人生順風満帆ね。」
「あ…いやぁ…そんなことない…。」
「あら?どうして?」
「フフ…彼女が欲しいなぁ…なんて…。」
「あら。モテそうな顔してるのにねぇ。」
「えー…。まぁ…。付き合っても、なかなか進展せずに終わっちゃうんです。」
「やだ、もったいない。こんな良い男を放っておくなんて…世間の女は…。」
「弓美さんくらいですよ~。そういってくれるのは。」
「ふふ…。もったいないわね~。」
「あの…あの…」
「ん?」
「あの…いつお休みですか?」
「え?あ~…。月曜日と木曜日だけど…。」
「あ。じゃぁ、月曜日…ディナー食べに来てくれません?」
「あ…(父ちゃんの店も月曜休みだから手伝わなくてもいいか…)。大丈夫。」
「やった!約束ですよ!」
「うん。じゃ、おなかすかせて行くわね。ふふ。」
幸男は自分の職場であるレストランに弓美を誘った。
二人の胸が高鳴る…。
カラーン
そこに、店の扉が開いた。一人の客が入って来た。
「いらっしゃい。あら。アタルちゃん。」
「ども。」
「入って。」
「じゃ、すいません。こんばんわ。」
彼はまっすぐカウンターの弓美の元へ。
彼女は彼に声をかけた。
「あら、アタルちゃん。」
「ども。弓美さん。すいません。となりいいですか?」
見ると、背は小さいながらも、高そうなスーツを着た立派な男が、幸男の隣の席を指さして言った。
「あ、はい…どうぞ。」
「ユキオちゃん。この子、あたしの弟分。気にしないでね。」
「あ、そうなんですね。」
「警官だよ~。」
「え!?」
「ん?なんか警官に都合悪いことしてた?んふふ…。」
と言うと、弟分らしき男は
「ちょっと…やめてよ…弓美さん…。正体ばらさないでよ~。」
「あ~、ゴメンゴメン。…で…?珍しいわね?お店来るなんて。」
グラスにウイスキーを注ぎながら、たずねる弓美。
アタルという男、
「いや…。最近、イタリアンマフィアが入り込んでる…。見たことない?」
「いやぁ…。どうだろ?」
「こういうお店が好きって可能性もあるからさぁ…。」
「なるほど…でも…外人さんが来たらすぐわかるもんね~。ないわね。」
「そっか…。」
「んで?どうなの?赤ちゃんは…。」
「あ~。女房に似て、めっちゃかわいいです。」
「ふふ…。愛ちゃん?」
「そ。妻の名前と合わせて「恋愛」」
「いいな~。子供…。」
「…ですね~…。あと、あれ…侠栄組の組長さんが新しく変わったじゃないですか。」
「あー…。会長さん、引退したんだっけ。」
「そ。そして、若頭が引き継いだんですけど…。」
「うん。うん。」
「新しい組長さんが可愛がってた「ベヒモス」ってあだ名のカタギを探してるそうなんです。」
「!!……へー…。」
「知ってます?5年くらいにM市を拠点に暴れまわってたらしいんですけど…。」
「いや…。」
「ボクサースタイルで、バッタバッタとチンピラを倒しまくったっていう…。」
「うん。知らないけど…。」
「あ、そうですか…。あっちの業界も人材不足で…たぶん、補充の為なんでしょうけどね…。」
「ほー。」
「ま…弓美さんには関係ない話でしたよね。すいません。」
「いや、ゴメンね。情報提供できなくて。」
彼は一気に酒を飲み干した。
「いえ。…じゃぁ…帰ります。」
「あら?もう?じゃ、15万円。」
「あの…刑事目の前にぼったくります?」
「ウソよ。2160円。」
「じゃ、カード。」
と言って、彼はカードをだした。
「はい。じゃ、ありがと。…ユキオちゃん。」
「はい?」
「ちょっと送ってくるから。待っててね。」
「あ、はい。」
弓美さんは、アタルという刑事と一緒に出口に向かっていった。
ふーん。マフィアにヤクザか…。
物騒な街だなぁ…M市も…。
と思いながら照明に輝くグラスの中の氷を眺めていた。
「お待たせ~。」
「いや…。」
彼女は、幸男の前のグラスを取って、おかわりを作り出した。
「…はぁ……ベヒモス…かぁ…知ってるも何も……。」
「え?」
「あ!いや!なんでも…。フフ…。」
「じゃぁ…月曜日…待ってます!」
「はい。んふふ。よろしく。」
と言いながら、二人の時間はゆっくりと過ぎて行った。