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第3話 荒神2号店

作られた水割りを5、6杯飲んだろうか?

弓美さんにサービスでもらった飴色の瓶の中身は中程になっていた。


「じゃ…今日はこの辺で…また来てもいいですか?」

「あら~。ぜひ。ユキオちゃん、強いわねぇ~。」

「いえ…そんなことは…。じゃ…また…。」


ホントにそれほど酔ってはいなかったが、目の前の彼女に酔いそうになっていただけだ。

話しも合うし、長居せずスマートに今日は帰って、近日またこようと思ったのだ。


「じゃ、店先まで送るわね。」


清算をすませ、弓美さんと一緒に店先まで。弓美さんは足が痛いのか腕を絡ませ寄りかかってきていた。


「足…大丈夫?」

と心配すると、腕から手を放して


「うん。地面につかなきゃ…アテ…。」

と痛い方の足を上げた。


「大丈夫じゃないじゃないですか…。」

「あ…ゴメンゴメン。…ユキオちゃん…メールしてもいい?」


「あ!はい!名刺に書いてあるんで…。」

「やった!じゃ、またね。」


「じゃ、また。」


2階の店から階段を下りて、見上げてみると、手を振ってくれてる弓美さん。

ふふ。オレも手を振り返す。


あーー。キレイな人だ…。

でも、男性…。でも、今までの誰よりも女らしい…。

…営業入ってるからかなぁ…。

ちょっと…好きになっちゃったかも…。



変わって弓美は店の中に戻り、煙草をふかす。


あーー。マジメないい人そうな…

でも、なにかあるような…。


ん…でも…ステキな人だったなぁ…。

ふふ…まぁ…向こうは男だと思ってるだろうけど…。


灰皿に煙草を押し付ける。煙草の煙が一筋あがる…。


また…来てくれればいいなぁ…。



次の日、弓美の自宅…。


あたしは、父の店の二階に一人で住んでいる。

父は、母と一緒に市内の自宅。

まー、あたしがこんなだから、高校卒業してから母と仲たがいしてここにいるんだけど…。

さすがに最近では母も理解を示してくれるようになった。


30になったら、手術してホントの女になろうと思ってるけど…。

16時…

さて…出勤まであと、もう少しかぁ…。

そろそろ化粧するかな…?


「こんにちわ~。」


あ…。ケイちゃんの声だ。

一階の店の中に友人の声が聞こえた。続いて父の声で


「お!ケイちゃん。例の話し…考えてくれた?」

「うーん…。ケイトがまだ小さいからね~。ちょっとタイミングは悪いかなぁ…。」


「はいはーい。ケイトくーん。」

と、父は彼女の抱かれている赤ちゃんのケイトの顔を見ているのだろう。想像がつく。


「フフ。地下鉄にゆられて。ようやく寝たから起こさないでね~。」


あたしも、階段を降りて店にいる彼女の元に行った。


「ケーイちゃん。」

「お!弓美ちゃん、おはよう!」

「フフ。おはよ。ケイトくん、元気?」

「元気!元気!パパに似て…。フフ。」


父は、赤ちゃんの背中に軽く手をそえながら

「あー。抱っこしたかったなぁ~。かわいいなぁ~。」

「ゴメンね。フフ。寝てるから。」


「ウチは、孫のぞめないから…ケイトくんがウチのアイドルだなぁ…。」


あたしのことだろうと察したけど、何かを言うと空気が変わってしまいそうなので、少しだけ寂しい顔をした。父は友人のケイちゃんに向かって


「んで…いつもの牛スジ?」

「ウン。パパ、子供産まれたから仕事張り切っちゃって…。最近、荒神にも来てないだろうから、荒神の味に乾いてるだろうと思って。」


と、父の店の名物料理を持ち帰りに来たらしい。タッパーを取り出して蓋を開けた。


「カズちゃんとはずいぶんご無沙汰だなぁ~。」


父は懐かしそうに嬉しそうに言う。彼女と彼女の旦那はこの店で結ばれたのだ。

それが父にとっては大変誇らしいのだ。

自分の料理が人を結びつけるというのは料理人にとっては名誉なことだろう。


あたしは、眠っている赤ちゃんのケイトの柔らかく小さい手に触れながら

「そうだね~。まー大黒柱だから、頑張ってるのか~。ケイトくんのパパはすごいでちゅね~。」

「ふふふ。」

と母親の彼女は笑った。父は残念そうに


「二号店、駅裏にだそうと思って、ケイちゃんにこの店でまた女将やってもらおうと思ってんだけど…。ケイトくん小さいからダメなんだってさぁ。」


彼女は結婚してから、ウチの店で女将のバイトをしていた時期があったのだ。

美人だし料理の腕も良くて、彼女目当てでくる客も増えて行った。

彼女の夫が迎えに来ると、男性客が潮のように引いて行くのが面白かったものだ。


「へー。そうだったんだ。ケイちゃん女将のときは、売上あがってたもんね。」

「そ。看板娘だし…料理も上手だしな~。あー。いい保育園が近くにあればなぁ~。」


あたしは赤ちゃんを見ながら

「あたしが二階で面倒見てあげればいいんだけど…。」


と言うと彼女は

「あ、それいいねぇ~。」

「でも、あたしも仕事あるしねぇ。」

「あ…そうだよね。」


父は残念そうに

「場所はもう見つけてあるんだけど…人材がね~。まーしょうがない。もうちょっと考えてみるか…。」


あ、そーだ。


「あ、じゃぁ、あたしがここでスナックやるってのは?」

と言うと、二人して「それはダメ!」と怖い顔で睨んだ。


「なによぉ…ケイちゃんまで…。」

というと、彼女は


「せっかくお客さん増えて、ここが好きな人が多くなってきたんだよ?みんな荒神の魔力を欲しがってんの!もう…弓美ちゃんは…。」

「あン…もう!わかったわかったぁ!」


「…求人…出してみるか…。」

と、父は独り言を言った。


へー…。そうなんだ…父ちゃん…。

あたしも、料理できればいいんだろうけど…。

軽いのしか作れないしね…。


うーん…世の中、うまくいかないわね…。

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