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第10話 北の空

それから、数日後…

弓美と幸男は、広大な北海道の国道12号線をレンタルしたバイクで走らせていた。


すごく広い。まっすぐな道。青い空。白い雲。どこまでも、どこまでも…。


途中、休憩。幸男は、デカい荷物からコンロを取り出した。

弓美は、簡易用のテントを道端に広げた。


「さ…出来た出来た。ペペロンチーノ。」


「すっごい、いい匂い…。そんな、小さいコンロでできるんだねぇ。」


「アウトドアも、なれたもんだろ?」


「ウン。ホント。頼りになる男!」


「はは。」


目の前を車がまばらに通り過ぎてゆく。

空には、白い雲が流れていく。


「…広大な景色をみながら立って食べるペペロンチーノ…人生初!おいしー!」


幸男はあぐらで座り、弓美を見上げながら言う。


「行儀悪…。男みてぇー…。」


本来は男である弓美に対してみたいとは変な話しだ。


「はぁー…。やっぱ来てよかったわぁ~。」


「…ねぇ…ユミ?」


「なぁに?」


「あの…黙ってて…ゴメン…。…性別…。」



弓美は、黙って空を見上げた…。



「動くね…雲が…!どう?この空の広さ…。」


「うん…。」


「手塚治虫の「シュマリ」にあったセリフだよ。北海道に来たら言ってみたかったの。」


「え?」


「この空見てたらさ……。どーでもよくない?」


「…そーだね…。」


弓美は、しゃがんで、幸男の顔を覗き込んだ。


「ね?」


「なに?」


「結婚しちゃわない?あたしたち…。」


「え?だって…。」


「できるでしょ?」


「…あ!そうか!!」


「…ね…。幸男?…あたし、幸男に言ってなかったことがある。」


「え?なに?もう、ほとんどのことじゃ驚かないよ?」


「あのね~…。あたし…本名…幸男っていうの。マジで。」


「えーーーー!!実は…オレも、本名、弓美っていうんだ…。」


「え?同じ字。」


「そう…漫画みたいだけど…。」


「すっごい。最初から運命感じてたけど…ここまでとは…。」


あたしは、幸男の肩にふれた。

幸男は、あたしの顎をつかんだ。


二人は長い間口づけをした。

途中行き交う車の人々はその姿を微笑ましく見たことだろう。


「はぁ…幸せだ…あ…でも…。」


「ん?」


「オレ、今、失業中…。」


「あ…それも、いいアイディアあるんだけど。」


「え?」


「んふふ…。」




それから…。弓美は父に幸男をあわせた。


「お父さん、僕は、青田幸男といいます。」


「お、おう…。幸男…幸男くんか…。」


「はい!お父さん、お嬢さんをボクにください!」


「え?君…いいの…?ウチの娘は…その…。」


「知っています。」


「その…くださいと言われても…法律上、結婚できないんだよ?」


顔を見合わせて微笑む二人。


「できます。ボク…戸籍上は女なんで。」


「は?」


そして、弓美とあらかじめ打ち合わせしてきた言葉をいう。


「子供も作れます。ボクが産みます!」


「え?え?」


「ボク、青田家を出ます。荒川家を…オレに継がせてもらえませんか?」


「な、なに!?」


「ボクをお父さんの息子にしてください!!」


泣きだす、弓美の父。そんな姿を見て弓美は笑った。


「ボク…。料理人なんです。日本料理やりたくて…。今までたくさんの料理店を経験してきました。でも、まだ日本料理やったことないんです。お父さん、ボクに教えてくださいませんか??」


「…そうか…そうか……。」


弓美の父…大将は涙でなかなか言葉にならない。

それもそのはず。あきらめていた、店の跡継ぎも、息子の結婚も、子供も…全ての夢が叶いそうなのだ。

この子は…目の前の子は女なのかもしれない。

だが、男なのだ。


息子は、男で生まれた。だが女なのだ。


全てが今、つながった。運命の歯車がかみ合った。


「…わかった!幸男!お前はオレの息子。弓美!お前はオレの娘だ!」


「ハイ!」


「俺こそ…よろしく頼む…。」


それから…弓美は、長期休業してきたスナックを辞めさせてもらった。

友人の恵子に自分の部屋の下の荒神をやってもらい、彼女の赤ちゃんケイトくんの面倒を仕事中見るのが弓美の仕事だ。


弓美の父は幸男に仕事を教えながら、2号店を開店させた。

もともと、料理人だった幸男の覚え方はかなりスムーズだったと思う。


でも、仕事中は、メチャクチャ息子扱いだった。たぶん、弓美を扱ってるように幸男を扱ってるんだと思う。


たまに、2階の二人っきりのときに、


「あのクソおやじ!」


と幸男が声を荒げる場合がある。自分の親父を扱うみたいにいう。

でも、その後、やっぱ尊敬している…という感じを受け取れる。


弓美たちの子作りは…。自然にまかせてみた。

お互いにホルモンの関係で交わることができないときもあったけど…。

意外にすんなり行った。


幸男は妊娠した(笑)

店は立ち仕事なので、妊娠中毒症になる前に、一時休業し弓美が2号店の手伝いをして、幸男にケイトくんの面倒をみてもらった。そして十月十日とつきとうかが過ぎ…。


「ユミ…オレやったよ…。」


「すごい!ありがと…幸男…。双子なんて…。しかも、男と女…。」


「フフッフ~。これで、女の役割終わりでいいよね?」


「いいよ!あんた最高!」


子供達の名前…弓美の父ともめた。


「だから、男は亀吉、女は鶴で決まりだって!」


「なんで、亀が入んのよ!」


「長生きの縁起だろ?」


「……男は大地、女は空にします。それでいいですね。お義父さん。」


重い言葉。するどい目で幸男が言う。


「…大亀だいきではダメ?」


「いや、ダメでしょ。」


父はシュンとしていたが、すぐに孫かわいがりが始まった。

幸男と入れ替わって、今度は友人の恵子が第二子の出産。今度は女の子。恵美めぐみちゃん。


そして、幸男と恵子の産休が明けた…。



いま、荒神の2階は大忙し!あたしは、4人の子供の母。

ケイトは、ちょこちょこと歩く。あたしの子供とメグミちゃんはまだ眠る時間が長いけど、そのうち、こんな風になっちゃうんだろうなぁ~。ふふ。楽しみ!


「こんばんわ~。ウチの子供迎えに来ました~。」


恵子の夫の和斗が子供を迎えに二階に上がってきた。

子供のケイトが嬉しそうに声を上げる。


「あ!パパァ!パッパ!」


「ふふふ。ケイト。ただいま。」


そういって、和斗はケイトを片手でダッコした。


「おかえり。カズちゃん。はい、メグちゃんも。」


そういって、もう片手にメグミを渡した。


恵子も仕事を片付け、和斗と共に帰って行った。

帰る車中で


「ふふ…姉さん女房かぁ…。ウチと一緒だなぁ。」


「え?姉さん女房…??この場合、どっちが女房?ユキオ君はカズちゃんの年下だし…。」


「え?いや、弓美さんが女房に決まってるでしょう…。」


「あ…そうだよね~。なんか不思議な感じ。」


「そう?オレは最初っから二人の性別関係なく男女だと思ってるけど…。」


「そうだよね、そうだよね。」



一号店が終わって一時間すると、部屋に幸男が帰ってくる。


「ユミただいま~。」


「おかえり!ふふふ。」


双子は父の帰宅を笑って迎えた。



【おしまい】

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