お前もこちら側に来てしまったようだな
話を変えたメルによって狐耳の人は、事情を説明してくれた。
なんでも衝突した時に荷物がぶつかり、中身が零れ落ちて混ざってしまったらしい。
素人では見分けのつかない、乾燥した葉っぱの入った瓶で、瓶自体もよくある形状だそうだ。
その狐耳さん(仮)の方が“トルトル草”といって特別な病気に効く草であり、その狐耳さん(仮)の働いているお家のご息女に必要なのだそうだ。
しかもたまたま薬を切らしてしまい、急遽必要になったらしい。
ちなみに三人の女の姉妹がいて、次女が現在家出中で、三女が病弱で薬がいるらしい。
といった話をしていると、猫のメルがやけにそわそわしているのはいいとして。
一方の、竜の人(仮)が持っていたのは、竜族の嗜好品で“焚く”ととてもいい香りのする葉っぱらしい。
どちらもとても高級なもので、少量ずつ取り出して燃やすわけにもいかない、そもそも高級品なのでこれまた似たような封がされており混ざり物でない証明がされているという……。
なので実際に見せてもらった。
「どっちも本当にそっくりで見分けがつかないね」
私の言葉にカイルも瓶を見て、それをレイトと猫メルも同じような乾燥らしく黙ってしまう。
しばらく黙ってからカイルが、
「人命がかかっている、か。……とりあえずここにあるもの全部、“鑑定スキル”のあるタクミに任せてみてはどうだ?」
そう提案されて、あ、ここでも私の出番だと今更ながら私は気づいたのだった。
先ほどのように鑑定を行うと、綺麗に全ての瓶の中身が判明した。
そしてそれらが、どれほど高級品なのかも書かれていて、私は凍り付いたのはいいとして。
「これで何とかなります。ありがとうございます」
「いえいえ」
そう狐耳さん(仮)がお礼を言って、私がお役に立てて光栄ですと返すと、お礼として飴玉の瓶をくれた。
色とりどりの飴が入った小さな瓶にリボンがかけられた可愛い品で、女の子が喜びそうな代物だ。
でも飴玉は好きなので私が喜んでいると、狐耳さん(仮)も微笑ましそうに私を見ていた。
年齢が誤解されている気がした。
それから狐耳さん(仮)が、じーっと何か思う所があるらしく猫メルを見てから、
「姫様もほどほどに帰ってきてください」
「……別猫ですにゃ」
「皆さん心配していますよ?」
「……別猫ですにゃぁ」
もう一度別猫といった時のメルの声はどこかか細いものだった。
それから狐耳さん(仮)の荷馬車が去っていき、後には竜族さん(仮)がやって来た。
「助かりました。高級品のために、どうしようかと……」
「いえ、たまたま私の力が役に立っただけです。それに私達は次の町に行きたかったので……」
「ああ、確かに邪魔ですね。あ、こちらはお礼です」
そう言って竜の人(仮)はクッキーの入った瓶をくれた。
こちらも細い二色のリボンが飾られた可愛らしいものだ。
クッキーも大好きだと私が喜んでまたも、微笑ましそうに見られてしまう。
私、そんなに子供っぽいのだろうかと思っているとそこで竜の人(仮)が、
「それで、先ほどの“鑑定スキル”は素晴らしいものでした。ぜひ我が国にいらっしゃいませんか?」
「え?」
「高待遇でお迎えしますが……」
「生憎だが、タクミは俺と一緒に行くから、そちらに行くつもりはない。そうだろう、タクミ」
そこで断ろうと思っていた私が何かを言う前に、カイルがそう告げる。
だから私はカイルのその言葉に頷く。
と、その竜の人(仮)は目を瞬かせてカイルを見て、すぐにおやっ? と小さく声を出してから微笑み、
「そうですか、それは残念です。……また機会があればよろしくお願いします」
竜の人(仮)私に微笑み、特にごねることなく去っていったのだった。
それから再び荷馬車の中に。
レイトも白鳥に変化して、今は猫耳少女に戻ったメルに抱きしめられている。
そんな荷馬車に揺られながら私はすぐ隣に座っているカイルに、
「さっきはありがとう」
「なにがだ?」
「ほら、竜の人にスカウトが来た時に断ってくれたから。異世界人だからここに残れないしどう断ろうかと考えていたから」
そう私がカイルに言うとカイルはじっと私の顔を見て、
「……渡したくないって思ったから」
「え?」
「いや、俺が責任もって送らないといけないような気がしたから。タクミは人が良さそうだから悪い人に騙されるといけないし」
「……同い年なのに子供扱いしないでよ」
むっとしてそう言い返すと何故か私は肩を抱かれて、カイルに耳元で囁かれる。
「こうやってタクミは俺に素直についてきているが、もし俺が悪い人間だったらどうすると思う?」
「え? えっと……」
「このまま次の町についたら宿に泊まり、俺は安心して寝ているタクミに襲い掛かって……」
「ど、どうなるのでしょうか」
「どうなると思う?」
そう言ってカイルが私の腰に手をまわして、ギュっとカイルに体を寄せられる。
すぐそばにカイルがいて、カイルの匂いがする。
狼っぽいというよりはもっとく男らしいというかこう……恐る恐るカイルを見上げると、蒼天のような青い瞳が私を熱っぽく見つめている気がする。
カイルだって親切だけれど、男性なわけで。
私は異世界人だけれど、女の子なわけで。
だから私はカイルに、襲われてしまうのだろうか?
そう思っていた私はそこで、はっと気づいた。
「いえ、そもそも私は美少女というわけではなく平凡なので、襲われる可能性が全くない!」
「……本気で言っているのか?」
「うん、だってどう考えてもそこにいる猫耳なメルの方が、“可愛い”し! メルだったらそうなってもおかしくない!」
私はメルを指さして熱弁した。
襲われてもおかしくないと言われたのが“弱い”と聞こえて気に入らなかったのか、メルが」にゃーにゃ~いいながら、そんなに私は弱くないにゃ~といいつつ、必死に私に何か攻撃を加えようとしていたのだけれど……白鳥になったレイトが羽をバサバサさせて抑えている。
だがこれらは事実なのだ。
だから私が性的な意味で襲われる事などは、絶対にない!
そう自信をもって告げるとカイルはまじまじと私を見てから、ぽつりと一言。
「仕方がない、“可愛い”と洗脳するか」
「せ、洗脳?」
「繰り返し何度も言えば、そのうち自覚するだろう。ここまで無防備なのは危険だからな。仕方がない」
「そ、そこまで私は無防備じゃないよ! ……うにゃ」
そこで私はカイルに可愛い可愛い言われながら頭をなぜられてしまう。
こうカイルにされてしまうとすごく心地よくて、顔がふにゃっとなってしまう。
カイルに可愛いと言われるのも何だか幸せな気がするし。
そう私は思って、何かを忘れている気がしたが、気持ちがよかったのでまあいいかと思った。
そんな私を見てメルが小さく、チョロすぎと呟いたことなど私は全然気づかずにいて。
そうこうしているうちに、乗せてもらった荷馬車は目的の町にたどり着いたのだった。
町の入り口付近で、荷馬車のおじさんに私達は降ろしてもらう。
それから手を振りその荷馬車を見送った後、少し早いが宿を取り夕食を食べようという話に。
「ここは以前来たことがりますので、安くて良質な宿を知っています」
というレイトの提案からその宿に行くことに。
ちょうど空いている時期だったらしく、4人部屋を私達は手に入れた。
前払いの宿だったので一晩分の料金を支払い、鍵を貰う。
それから少ない荷物を置いて、私達は食事に向かった。
ここは野菜の美味しい町と知られているそうで、これもまたレイトの提案で安くて盛りのいい食堂に向かう。
そこでメルが、
「……お魚食べたい」
「魚もお肉もありますよ」
「本当!」
といったレイトとの会話を見て私は、ふと気づいた。
というよりはもう少し早く気付くべきだったのかもだが、この二人はもしや恋人同士……。
だがこれで違っていたらそれはそれで恥ずかしいので私は黙っていることにした。
代わりに私はカイルに、
「料理楽しみだね。野菜が美味しいんだ」
「そういえばここは、“とろ草”の名産地だったな」
「“とろ草”」
「そうだ、緑色の俺の片手くらいの葉っぱだが、普段は開いているが、葉を刈られそうになると白い粘液を出して攻撃してくる野菜だ」
「やさ……い?」
果たしてその生物は本当に野菜なのだろうかという気もした。
さすが異世界、私の想像を超えていると私は思いながらも、そこで気づいた。
「まさかその“とろ草”を使った料理のお店に行く、とか?」
「そうですよ。とても美味しい野菜ですからね」
答えたのはレイトだった。
メルも楽しみだ、美味しいしと言っている。
どうやらこの世界ではわりと一般的であるらしいその野菜は鍋にすると美味しいらしい。
そして私も恐る恐るそのお店で食べてみると、臭みもなく豆乳のような味わいの鍋で、よかったと私は思ったのだった。
美味しい食事に幸せな気持ちになって私達は宿に戻った。
そこで私は久しぶりに猫耳カチューシャをとる。
「ふう、ずっとつけたままなのも何となく変な感じなんだよね……ふわあ」
「可愛い可愛い」
猫耳カチューシャをはずした私の頭を、カイルが撫ぜる。
しかも洗脳すると宣言したように、“可愛い”と言い続けている。
う、うにゃ……く、どうしてこんなにカイルは撫ぜるのがうまいのだろうかと思わざる負えない。
そうやって私がとろんとしているとそこでメルが、
「やっぱり耳が無いと変に見えるね」
「……私から見ると獣耳があるメルは変に見えるので、あまり“変だと”言われたくないのです」
「なんだとぅ、そもそも獣耳などがあるのは当たり前なんだ。タクミが変なだけなんだ」
「そうなんだ。獣耳がないものの良さが分からないとそういいたいのか。ごそごそ」
ここで予約版の獣耳少女の出てくる漫画を私は取り出した。
実は、これには獣耳がない人間も出てくる。
そして、おいでとメルを手招きしてそして、五分後。
「獣耳がなくても最高です!」
「くくく、お前もこちら側に来てしまったようだな」
「く、タクミの言うとおりになるなんて悔しい、でも萌えちゃう、ビクンビクン。……というのは置いて、どのキャラが好きなのかな? タクミは」
「この銀色狼耳の子!」
「……」
即答した私にメルは私の顔を見て、
「わざとか?」
「? 何が?」
「いや、なんでもない」
「気になる、言うんだ!」
「ちょ、尻尾を狙うなぁあああ、にぁあ!」
といったようにメルの尻尾を追いかけていたら、“獣化”して猫になり、私はメルに逃げられてしまった。
しかもレイトの膝の上にのって、安全地帯を確保し、そのままレイトに撫ぜられて猫になったメルは気持ちよさそうに、にゃあと鳴いていた。
そこではっとしたようにカイルが外を見る。
しかもレイトもだ。何があったのだろうと私が思ってるとカイルが、
「囲まれているな」
そう呟いたのだった。
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