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別猫ですにゃ

 偶然遭遇したそのおじさんの手には、赤茶色の石がある。

 どうやらその石が問題であるらしい。

 そこで荷馬車のおじさんは、


「“鑑定スキル”があるというのは本当か?」

「は、はい、えっと、早速使ってみましょうか」

「……私が持ったままで構わないかな? 申し訳ないが君が善人かどうかは分からない。もっとも、“鑑定スキル”自身が嘘をつくことはないから、そちらは信用できるが」

「分かりました。それでいいです。……そちらの方もそれで構わないですか?」


 私の問いかけに言い争っていたもう一人のおじさんは、胡散臭げに私を見ている。

 だが本当に鑑定出来るのなら、どちらが正しいのか分かるから、黙って頷いた。

 そして私はその、赤茶の石に触れて、


「“鑑定スキル”発動、“分析(アナライズ)”」


 上手くいきますように、そう願いながら触れると同時にすぐそばに低重音がしてピンク色の光の四角が現れる。

 そこには素材のデータが書かれていて、


「こ、これでどうでしょう……あの」


 そこで私は茫然と、私の作り出した画面を見ているおじさん達に気付く。

 私は何を間違えてしまったのだろうかと思っていると、カイルが近づいてきて、


「凄いな、タクミは」

「え、え?」

「ここまで詳しい内容が出る“鑑定スキル”は今まで俺も見たことが無い」


 そう言われてしまうと私は、ちょっとだけ嬉しくなってしまう。

 やはり褒められるのは嬉しい。

 そうしているうちにメルとレイトも私のスキルを見に来て、驚いたような顔をしていた。


 またおじさん達もこのデータで安心できたようだった。

 しかもカイルが、


「それは“モレラ石”だろう? 確か産出したそのままでは茶色く濁っているから普段は水につけておくと、色が綺麗な赤色になるものだったはずだ。市場に流通しているのはほとんどが処理されたもので、現物を見たことが無い人は多いとそういえば聞いたことがある」


 といった説明をカイルが付け加えていた。

 鑑定証もついていたのに信じてくれなかったがこれで納得してもらえるか、と荷馬車のおじさんが聞いて、相手方もこれならば仕方がないという話になったらしい。

 その間私は自分の鑑定した、その石についての情報を見ていた。


 純度や、どういった魔力の属性の偏りがあるのか、主な産出場所とこの採れた場所はどこなのかといった石自体のデータとともに、主な用途が幾つも載っている。

 この石はどうやら粉にして薬として使うらしい。

 私達の世界の風邪薬のようなもので、他にも薬草などを組み合わせて強めの風邪薬となるようだった。


 しかもこの石、結構お値段が張るらしい。

 等といった情報を私は得ていると、カイルが私の読んでいた文章を見て、


「タクミのこのスキルは面白いな。ここまで出るのか」

「……普通は出ないのかな?」

「ああ、魔力量属性純度などが幾つか出るだけでここまでは……。“鑑定スキル”のレベルによって違うが、ここまで行くと最高位じゃないのか?」

「本当! これなら、カイルの役に立てるかな?」


 すごい鑑定スキルならカイルの役に立てるかなと思って私は聞いてみたのだが、そこでカイルは少し考えてから、


「……でも鑑定する機会はあまりないと思う。俺はそういったものを採掘したりしないから」

「そうなんだ……」


 それを聞いて気落ちしてしまう私。

 そこでどうにか販売できたらしい先ほどの荷馬車のおじさんがやってきて、


「いやあ、助かったよ」

「いえ、お役に立てればそれで」

「本当になんとお礼を言ったらいいか。というか鑑定料はどうしようか。高いと私も払えないが……そうだ、ここにいるというのは乗合馬車を目指しているのかな?」


 それに頷くとどこの町に向かうのかを聞かれて、カイルが“レモナの町”だと答えると、


「鑑定料代わりに、荷台でよければそちらに用があるから全員乗せていくよ」


 そう、荷馬車のおじさんが言ったのだった。







 荷馬車で移動させてもらえることになった。

 けれど、荷物を寄せても背も体もどちらかというと大き目なレイトとカイルが乗るのは大変そうだったのだが、


「仕方がありません。カイルは“獣化”すると体が大きくなりますし、それなら私が“獣化”した方がいいでしょう」


 とレイトが言い、白鳥に変身した。

 こういう時は動物に変化するのはいいなと私は思いつつ、ふと気づく。

 なので荷馬車に乗り込んで私は、


「この世界の獣化できる人型の種族って幾つあるのかな?」

「? 猫、狼、兎、白鳥、犬、狐、狸の7つの種族だな。他は、竜等もいるが彼らと獣人はあまり交流が無いから、タクミが目にすることはないだろう」

「そうなんだ」


 この世界の事情にはまだまだ疎い、そう私が思っているとそこでレイトが、


「ふむふむ、この世界の事に興味がおありで?」

「! 動物状態でも話せるんだ」

「はい、“獣化”しても獣人は言葉を話せます。そしてこの世界について興味が出てきたと?」


 それはまあ、と答えようとして私は気づいた。

 これは“罠”だと。

 ここで頷いた瞬間この世界にとどまりませんか攻撃が!


「あ、いえ、ちょっと気になっただけでそこまで興味はありません」

「そうですか。残念です」


 本当に残念そうな口調でレイトが引き下がった。

 危ない危ない、そう私が思っていると今度は猫耳少女のメルが私をのぞき込んできて、


「それで、異世界人には獣耳が無いって本当? 大抵のこの世界の種族にはその種族特性の耳や耳のようなものがあるはずなのだけれど……」


 それを聞きながら私はよほど違和感があるのかなと思いつつ、猫耳カチューシャをはずす。

 するとメルがその耳があったあたりの頭に触れて、


「本当だ、耳が無い。変なの……実は女の子じゃなかったり?」


 私の頭を触っていたメルが、そう言って今度は私に手を伸ばして、服の上から胸のあたりに触れる。

 突然それをされて私は、


「ふぎゃっ、や、やめ、揉むまないでっ」

「あ、こういった所は同じかも……ごふっ」


 そこでメルに、白鳥になったレイトが体当たりをした。

 同時に私はカイルに腕を引かれて抱きしめられるようにされてしまう。

 まるで私を守るかのようにそうされて、そばにカイルがいて、私はドキドキしてしまう。


 不機嫌そうにカイルがメルに、


「タクミが嫌がるようなことをするな」

「! は、はい……そうだよね。うん、もう少し周りには気を配るようにするよ」


 カイルにメルが焦ったように言う。

 私は助かったと思いながらカイルに、


「助けてくれてありがとう」

「……タクミが嫌がっているから」


 カイルは私に言ってくれて、心配してくれたのがすごくうれしく感じる。

 そこで、馬車が急に止まったのだった。






 荷馬車が止まったので、なんでだろうと思って外を見ると、二台の別の荷馬車が止まっていた。

 どうも何らかの事情で、ぶつかったか何かをしたらしい。

 すると荷馬車のおじさんが私達の前に現れて、


「どうやら前の二台が事故を起こしたらしい。それで言い争っているみたいなんだが……ちょっと待っていてくれ。話を聞いてくる」


 そう私達に告げて去っていった。

 荷馬車の事故ってどんなだろうと思った私。

 私達の世界では、荷馬車に接触する機会はほとんどない。


 あまりよろしくはないが、興味はあった。

 そこでさっさと荷馬車から降りて、何が起こっているんだろうと覗きに行ったメルが、荷馬車の端から様子を窺ってすぐさま猫に変化した。

 日の光の下では茶色毛並みが明るい金色のようにも見えて、なかなかの美猫になっている。


 度したんだろうと私が思っていると、そこで代わりに今度はレイトが白鳥から白い煙を出して元の姿に戻り、荷馬車から降りる。

 それからすぐにメルを抱き上げた。


「何をするにゃ! ……にゃ~」


 レイトに顎を撫でられて心地よさそうにメルがごろごろと鳴いている。

 レイトはメルの扱いに慣れている……そう私が思っているとそこで、荷馬車のおじさんが戻ってきて、


「どうやら、ぶつかった拍子に荷物が一部、混ざってしまったらしい。こっちが自分のものだと、言い争っているようだ」


 そう荷馬車のおじさんが私達に言ったのだった。








 言い争いをされたままだと私達は次の町に行けない。

 というわけでできる限りの手伝い出来ることはして、移動してもらおうという話に。

 そして彼らのもとに向かう私達。


 いたのは、こげ茶色の狐耳の男と、緑色の三角形にとがっているものの端が長い紐条になっており、うろこのような柄がついた耳? のようなものが頭についている男だった。

 獣人じゃないのか、と私が思ってカイルに、


「あのとがった耳の人は獣人じゃないのかな?」

「そうだな。竜族だ。珍しいなこんな場所で」

「そうなんだ?」

「ああ、国はもっと遠かったはずだから、このあたりに何か必要なものがあったのかもしれない」

「へ~、そういえば、この世界って転移魔法はないのかな? 魔法があるならそういったものもありそうな気がしたけれど」


 そう私が問いかけると、カイルは少しの沈黙後、


「媒体なしでは、それぞれの種族の長である王族くらいの魔力が無いと無理だな。王族はそれぞれの種族で桁違いの魔力を持っているから、その魔法が使えるというのもあるが」

「媒体? というものがあれば転送もできるんだ」

「出来るにはできるが魔力も沢山いるし、才能のいる魔法だから値段が高すぎて一般的ではないな」

「そうなんだ……特殊な才能か。そっちの方が私も嬉しかったな」


 この“鑑定スキル”はいまいちどう使えばいいのかが私にはよくわからない。

 そこで先ほど争っていた狐耳の人が猫化したメルに気付いて、それにメルが小さく震えてから、


「にゃん」

「うちのお屋敷の妹の方の姫様に似ているような気がしますね。この茶色の毛内が特にそっくりです」

「……別猫です」

「別猫……それにしては似ていますね」

「にゃん。それより、どうしてこんな事に? 私達は隣の町に行きたいんですにゃ」


 メルが、そう話を変えたのだった。






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