この耳が偽物だと看破されてしまった!
突然売られてしまった喧嘩。
だが少し待って欲しいと思う。
ここでお前のような、うんたらかんたらガー……というのはもっと筋肉ムキムキの、そこそこ年のいった男の人が物語の定番だと思うのだ。
けれど目の前の彼女は、どう考えても言われる側だ。
しかもどことなく目を輝かせているのと、周りの人達が微笑ましそうに見ているのが……これは……。
「まさかようやく自分と同じくらい頼りなさそうな人間が来るから言えると、喜び勇んでいらっしゃったとか?」
「! 何故気づいた!」
「いえ……嬉しそうだったので」
「く……だが、ここは絶対に言ってやろうと決めていた!」
「つまり?」
「ここはお嬢ちゃんのような子が来るような場所ではない。帰ってミルクでも飲んでいるんだな!」
「鏡を見てから言いましょう」
私は真顔で彼女に向かってそう告げた。
後ろの方でお酒などを飲んで様子を見ていたらしい冒険者達が、噴出して笑っている。
それに目の前の猫耳な彼女は顔を真っ赤にして、
「この……私の方がどう考えても強そうというのに、表に出ろ。どちらが冒険者としてたよりがいがありそうか、決めようじゃないか」
「いいだろう、その勝負の……ふがっ」
そこで私は後ろから手を伸ばされて、何者かに口をふさがれた。
誰だと私が思っていると嘆息するように、
「タクミ、こんなのの相手をしていてどうする。目立っているぞ」
「う……」
私はうめくことしかできなかった。
私はそもそもこの世界の人間ではないのだ。
そして繁殖的な意味で、色々と考える部分もあるので危険な気がする。
目立たないに越したことはない。と、そこで、
「お前……私たちの戦いを邪魔するな」
「……俺達は忙しい。すまないが後にしてくれないか」
「なんだと!」
怒りっぽい子だなと私が思っていると、そこで新たなる人物の声がした。
「メル、あれほどマタタビ酒を飲んでは駄目だといったでしょう」
「! レイト、どうしてここに!」
「貴方の事だからここにいるかと思って見に来たのですよ。私の手を煩わせないでください……と言いたい所ですが、いい人物を見つけられたので今回ばかりはお手柄ですね」
「うにゃ。……と、というか私の頭をなでるなぁああああ」
怒ったように言う猫耳少女メル。
そしてそんな彼をなぜる黒髪に、茶色い羽根の飾り? のついた、背の高い柔和な雰囲気の男レイト。
そのレイトの視線の先にはカイルがいて、なんとなくカイルは苦虫をつぶしたような顔をしている。
と、カイルが深々とため息をついてから、
「タクミのギルドカードを登録したら、少しは話をしてやる」
「……まあいいでしょう、それでも譲歩ですしね」
「……ほら行くぞ、タクミ」
そこで私はカイルに手を引かれてしまう。
先ほど喧嘩を売ってきた猫耳少年女のメルが何かを叫んでいたが、こうして私はギルドカードを作りに行ったのだった。
紙に必要事項を記入していると、カイルが一枚の紙を取り出した。
「偽造の戸籍だ」
「……ありがとうございます」
緊急事態だったので、ありがたく私はそれを頂戴した。
でもカイルは一体何者なんだろうと私は思ってしまったのはいいとして。
その書類のおかげで以外にもあっさりと、私はギルドカードを作ることが出来た。
そして能力測定をその小さな手のひらに乗るようなプレートに魔法的な何かで記録がさえていく。
私の魔力などもそうらしい。
受付の人が、えっと驚きの声を上げていたので期待したいのだけれどどうだろう?
そう思いつつ最後に、特殊能力を私は測定する。
丸い球状のそれに触れると、中には何か文字が浮かんできて……。
「“鑑定スキル”?」
この世界の文字で、そう書かれていたのだった。
登録が完了しましたと、カードを貰い私がそれを受けとる。
薄い銀色のプレートで、端の方にICカードよろしく薄い赤い石がはめ込まれている。
そして右上の方に私の名前がこの世界の文字で記されている。
「これがギルドカード……実際に見てみると薄くて綺麗だな」
試しに窓から降り注ぐ日の光にかざすと、逆光の中端の部分がきらりと光る。
なんだか凄く良いもののような気がした。
そこで私はカイルに肩を叩かれる。
「どうやらうまく作れたようだな。特殊能力は、何だった?」
「“鑑定スキル”だった。私、戦えるんだろうか」
「……いや、いいものかどうかわかるのも大切なことだし。それに魔力があれば魔法も努力すれば使えるから。折角だから見せてみろ」
「どうやって見るのかな?」
「あそこに白い石の台があるだろう? あそこにのせると中身のデータが見れるんだ。行こう」
そこでカイルが私の手を握る。
温かくて大きい手で私は、ほんの少しだけ不安が安らいだのだった。
カードを乗せると、レベルやら数字やらが現される。
私としてはそこそこかなと思っているとカイルが小さく呻いて、
「タクミにはずいぶん沢山の魔力があるんだな」
「そ、そうなんだ。じゃあ魔法は使えるかな」
「ああ。十分に」
「あとで教えてもらってもいいかな?」
「いいぞ。タクミが危険な目に合わないように魔法を教えてやる」
「頼ってばかりで、その、ありがとう」
「……そうだな。それで俺が無償で働くような人間だと思うのか?」
そこで意地悪く問いかけてきたカイルに私は黙ってしまう。
確かに言われてみたらそうなのだ。だから、
「も、もしこの特殊能力が使えそうだったら全力でカイルのお手伝いをするよ!」
「……でも“鑑定スキル”だろう? 何に使う? 生憎俺は、何かを採掘する趣味はないが」
「う……ど、どうしよう。そうだ、アルバイトでお金を稼いで……」
「タクミは素直すぎて、俺は不安になる。それと人の行為は素直に受け取っておけばいい。俺がそうしたいだけだから」
「でも……」
「俺がそうしたいだけだ。それに異世界人にも興味があるし、そのうち異世界の事を俺に話してくれればそれでいい」
「……うん。ありがとう。カイルは優しいね」
そう私が言うと、カイルは押し黙って後ろを向いて小さく震えている。
尻尾がやけに揺れているが、どうしたんだろうと私が思っているとカイルが振り返り、
「さて、特殊能力は確かに“鑑定スキル”であるようだが、“無機物かは問わない”か」
「あれ? 本当だ。小さく文字が書いてある」
小さく描かれた文字にはそのような注意書きがある。そこでカイルが、
「珍しいな。普通は無機物だけなのに。後で、使い方を教えてやるから、試してみよう」
「う、うん」
そう答えながら私は、普通じゃない“鑑定スキル”なら何かの役に立つのではと期待に胸を膨らませたのだった。
先ほどの約束通り、私たち二人は先ほど会った猫耳少女メルと謎の青年レイトの所に。
カイルがどことなくいやそうなのがなんでだろうと私が思っていると、メルがレイトに、
「おい、誰だ? 私は知らないぞ、レイト」
そんな風に聞くメルにレイトはふんわりと微笑んでから、
「許嫁です」
「「え?」」
予想外の答えに私と何故かメルが声を上げる。
そんな私を見てからカイルは狼耳を一瞬ぴくっと怒ったように立たせてから、レイトを冷たい目で一瞥し、
「気色の悪い冗談はやめろ。ただの幼馴染だ」
カイルがそう、答えたのだった。
どうやら許嫁ではなく幼馴染らしいのだが。
そこでレイトが、
「こちらの方にいらっしゃると分かりましたため、慌てて総出で探しに来たのですが、こんな人のいる場所に出てきていただいて探す手間が省けましたよ」
「……もう少しその嫌味な言い方は何とかならないのか?」
「嫌みの一つも言いたくなりますよ。幼馴染で乳兄弟の貴方が書き置き一つで姿を消したともなれば、大騒ぎですよ?」
「……」
カイルが沈黙して、そっぽを向いた。
それに困ったように苦笑するレイトは、そのままそばで何かのジュースを飲んでいたメルの頭をなぜて、
「まあ、私としても、おかげでこんな可愛い子を拾えましたから良しとしますが」
「にゃあ、頭をなぜるな、子ども扱いするな!」
「お腹が空いて私の目の前で倒れていたのはどなたでしたか?」
レイトが微笑んでメルに告げると、メルが小さく呻いて黙る。
しかも更にレイトは、
「そして今日も私は大人だー、と言ってここの人達にマタタビ酒を分けてもらっていましたね?」
「! そ、そういえばなんで……」
「お酒の匂いがしましたしね。それにいつもより気が大きくなっていましたから、ああ、またかと」
「ま、またかって……」
「マタタビをなめたメルはそれはもう凄い事になりますからね。以前なんて……」
「! な、何回同じ話をする気なんだ!」
「ではあなたとの出会いの話をもう一度つぶさに、カイル達に話しましょうか?」
「だ、だから鳥のくせに昔の事をねちねちと。三歩歩いたら忘れろ!」
「生憎ですが、貴方との出会いは忘れられませんね。衝撃的で」
「……喧嘩を売る気か? 買うぞ?」
「仕方がありませんね、少しお相手しましょう。まだマタタビが抜けないようですし。……カイル様、少し失礼します」
そうレイトは私達に告げるとともに離れた場所に。
周りのお酒を飲んでいた人たちも、面白そうに様子を見ている。
そこでレイトとメルが光に包まれたかと思うと、一匹の茶色い猫と、白鳥に変化した。
戦い始める二匹を見つつ私は、
「えっと、二人はどんな関係なんだろう」
「さあ。俺は良く知らないからな、二人の出会っている経緯については。だが、レイトはよほどメルという少女が気に入ったみたいだな」
「そうなんだ」
「ああ、大抵の人間とはつかず離れずの位置だったからな……よほど気に入らない限り」
「へぇ、そうなんだ」
そう思った所で、白鳥のキックが茶色い猫の頭にクリーンヒットした。
痛そう……と私が思ってみているとそこでカイルが、
「まあ獣になっているから回復力も早いし。それよりも今のうちにタクミの特殊能力を見るのがいいんじゃないのか?」
「そうだね“鑑定スキル”……まずは、自分に向かって使ってみるのか。どうすればいいんだろう?」
「鑑定のイメージを思い浮かべて呟いて、後は、そのイメージを声に出していってみるのもいいかもしれない」
「イメージ……ゲームっぽくていいのかな? よし、“ステータス・オープン”」
私が小さく呟くと低重音がして目の前に桃色の光の四角形が現れて、そこに私の基本能力と、一部モザイクがかかった状態でステータスが現れたのだった。
ステータスを開いてみて私は、確かに私の能力が一通り表示されていると分かる。
こんな風に人間のステータスも表示できるのかと私が思っているとそこで、
「……自分の能力をこんな風に空間に表示できるのか?」
「え、えっと、これってすごく珍しい魔法になったりするかな?」
「普通はギルドで測定するか何かをしないと見えないものが、こんな簡単にできるのか。その下のモザイクは、“個人情報により、閲覧制限がかけられています”と書かれているな」
「そうだね。個人情報って何だろう? 見れるのかな? モザイク消えろ~消えろ~、あ、消え……ぐぎゃあっ」
私はそこに書かれている情報について気づき、慌てて手で隠そうとした。
そしてどうにか隠してから、ゆっくりと目撃者であるカイルを振り返り、
「み、見た?」
「いや、うん。銀色の狼耳の男が好きらしいとか人形を集めているとか他にも……」
「見なかったことにしてください。お願いします。切実に!」
「あ、ああ、うん」
頷くカイルが何となく嬉しそうなのは何故だろうと思った。
そこで私はカイルの動く獣耳が銀色だったと気付く。
確かにこれは魅力的だ。
いい人だし優しいし、最高だ。
そう思いながらも私は、ステータスとして表示されたこの恥ずかしい情報を消すべく念ずる。
消えろ、消えてくださいお願いします、そう私が願うとふっとそれが消えた。
「よかった、ずっとでたままなのかと思ったよ」
「それはないだろう。いつかは魔力が尽きる……いや、あれだけ魔力があれば、出たままでも行けるかもしれないか」
「私の魔力、そんなに多いのかな」
「凄く多い。あれだけあれば他者の魔力回復の仕事にそのままつけるかもな」
「そうなんだ。他の人の魔力回復……」
いい仕事を教えてもらった、後でアルバイトに使えないかなと私が思っているとそこでカイルが、
「だがタクミはやめた方がいいかもしれない。可愛いから」
「可愛いからって、私は平凡だよ。でもどうして?」
「……他者を魔力を回復させると、その、“欲情”が煽られるから、場合によっては襲われる」
「そうなんだ。男に襲われると。うう……だ、だったら、カイルの魔力を回復させるよ! 親切にしてもらったし」
「俺の魔力?」
「うん、私、カイル“専属”で魔力回復するよ」
そう私が答えるとカイルは、再び空を仰ぎ見て小さく震えている。
どうしたんだろう、そう思っていると先ほどまで戦っていた白鳥のレイトが、目をまわした猫耳少女メルを連れて現れた。
「ふう、まったく、マタタビ酒はあれほど止めろといったのに酒癖が悪くて」
そんな幼馴染のレイトに、カイルが嘆息をして、
「随分と気に入っているんだな」
「倒れたのを拾ったので、私の物ですから」
微笑んだレイトにカイルが何とも言えない顔をした。
そこでレイトが私に目を移し、頷き、
「どうですか? カイルは“優しい”ですか?」
「? はい、凄く親切で優しいです」
「なるほどなるほど……これは様子見ですね」
「? 何がですか?」
「いえ。その偽物の猫耳も可愛いですよ?」
そこで私はレイトに、この耳が偽物だと看破されてしまったのだった。
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