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私の鑑定スキルの真実

 カイルは現在、自身の城に帰ってきた。

 カイル様、と呼んでくる彼らを無視して真っ先に向かったのは、宰相イルのいる部屋だった。

 ちなみにレイトの兄である。


 ドアをノックもせず開けると、見ていた書類から顔を上げたレイトによく似た彼が、


「カイル様お帰りなさいませ。そろそろ戻ってくるころだと思いました。また、レイトは恋人付きで戻って来たのですね、いい傾向です」

「そちらの話は後にしてくれ、イル。タクミを……異世界から呼び出した人物が竜族の、それも王族にさらわれた。だから王家として、タクミ……その異世界転移者について聞いて欲しい。そして取り戻したい」

「なるほど。つまりカイル様は、その異世界からの人物がとても気に入っていると」

「……そうだ」

「彼女は呼び出した神子でもあります。そうですか気にいって頂けましたか」

「だが、タクミが俺の……花嫁になるのを拒むなら、神子としての役目だけをこなして元の世界に戻ってもらおうと思う」


 それを聞いたイルは沈黙した。

 沈黙してカイルを見てため息をつき、


「なぜですか」

「俺がタクミが好きだからだ。一目惚れした後も一緒に居るとその気持ちが抑えられなくなっていく。だから、タクミが俺を拒んでかな良い思いをさせるくらいなら……俺の物にならなくていいと思う」

「嘘ですね」

「何がだ」

「とてもではありませんが、我慢できるような顔をしていませんよ、カイル様」

「……」

「ですが今はその件に関しては保留で。状況が少し変われば、またその……タクミですか? 異世界人の名前は」

「そうだ」

「ではタクミ様の気持ちも変わるでしょう。様子を見ている限り、彼女もまんざらではなさそうでしたがね……」


 楽しそうに告げるイルに、カイルは我慢だと心の中でつぶやく。

 このイルははっきり言って性格が悪い。

 こうして俺を揺さぶり、どんな状況かを見定めるのだ。


 しかも今の話ではカイルの動向は全て筒抜けであるらしい。

 注意を払ったというのにこのザマかとカイルは自嘲気味に思う。

 悔しいことは多々あるが、今は一刻も早くタクミを……そうカイルが思っているとイルが微笑みそして、


「先ほど竜の国トールから、神子をお借りしたといった話がこちらに流れてきました」


 そう、イルが告げたのだった。






 竜の館にて私はリファスに連れられてある場所に来ていた。

 馬車に乗って移動までするような場所である。

 その場所は、草木の生えない砂漠のようだった。


 ここにはサボテンのような植物すら生えていない寂しい場所だ。

 どうしてこんな場所に連れてこられたんだろうと私が思っているとそこで、


「実はここは森でもあるのです。全てが枯れ果ててしまいましたが」

「そういえば何かがおかしくなっているみたいなのを聞いたような……」

「このような例はほかでも沢山あります。ですからまずはこの場所を、“鑑定スキル”で見て欲しいのです」

「……分かりました」


 どうやらこれが私がここに連れてこられた目的らしい。

 だったなら早く済ましてしまおう、そしてカイル達の元に戻るんだと私は思いながら、魔法を使ったのだった。







 “鑑定スキル”を使って現されたその、砂漠に関する情報。


「水は地下深くと、空の彼方に消えて炎と土が手を結ぶ……それぞれの属性に偏りが生じてしまった?」


 魔力の属性が、変な形で別れてしまったらしい。

 さらに内容を読んでいくと、自然界ではそれがだいたい均一だが、稀に別れてしまうらしい。

 そうするとこのように砂漠になってしまったり、逆に沼地になってしまったり……環境が変わってしまうらしい。

 

 けれどそれらはもともとの属性が消失したわけではないので、軽く処置をすれば治るらしい。

 その処置の仕方もこの“鑑定スキル”には記載されている。

 そこで私はクラッとして膝をつく。

 慌ててリファスが抱き留めて、


「大丈夫ですか?」

「うん、なんだか暑くて。ものすごく勉強を頑張った後みたいに感じる」

「……では、そちらの馬車の陰で休んでいてください。この砂漠をもとの緑豊かな場所にする魔法を、私もこれに倣ってやってみます」


 リファスはそう答えて馬車の陰まで肩を貸してくれる。

 しかも飲み物と食べ物までくれた。

 熱中症かもしれないとの事で、それ用の飲み物を用意していて良かったとリファスは言っている。


 そして飲み物を飲みながら私はリファスの様子を見る。

 私の“鑑定スキル”であらわされたのは、大きな魔法陣だった。

 まずはそれを地面に描かないといけないらしい。


 その魔法陣が出来れば、後は魔力を通せば自動的にこの森が以前の状態に変化していくそうだ。

 だがその魔法陣は複雑だ。

 しかもそのまま棒で書いても風が強くすぐに埋もれてしまう。

 

 なので、水を使って砂を固めながらリファスは魔法陣を描いているようだ。

 でもそんな小さなもので大丈夫なのだろうか?


「リファス、もっと大きいものでなくてもいいのかな?」

「そうですね、まずは小さいものを起動させてみてから様子見という形になります。その小さいものでどの程度の範囲に効果があるのか分かりませんから。それから計算して最適な大きさを決めようと思います」


 小さいものを作って、それがどの程度の速度で森を回復するのか、魔力の割合はどれくらい必要かなどを考えて、丁度いい魔法陣大きさを決めるらしい。

 なるほどなと私はぼんやりと思う。

 と、そこで私達が来た方から一つの馬車がやってくる。


 私達の乗ってきた馬車と似ていたが私のいる場所の近くまで来て止まり、


「ここか、リファスは」

「レイス、どうしてここに来たのですか?」


 リファスに似たあの館にいたレイスという人物だ。

 気をつけろと言われていたけれど、と私は思い出していると、


「リファスが心配で見に来たんだ」

「……珍しいですね。最近は私の事を避けているようでしたが」

「一人で大丈夫なのかが気になってね。この土地はもうだめだから捨てようという話になっているのにリファスだけは、あきらめきれないようだったからな」

「……ここは昔私が遊んだ場所です。そして、レイス貴方も」

「……そうだったな。まあ、そういうのもあってか、気になったというのもあるが」

「そうですか? あなたは興味が無さそうでしたが」


 警戒するようなリファス。

 それにレイスが、


「人の好意は素直に受け取っておくべきだぜ」


 レイスが冗談めかして告げたのだった。







 この時、私はこの人は意外にいい人だなとレイスの事を覆っていた。

 けれどふらふらとした頭では意識がもうろうとする、

 変だな、いつもはこんなじゃないのに……そう思う。


 そこでレイスがリファスに、


「そういえばなんであの……連れてきたあいつは体調が悪そうなんだ?」

「……おそらくはですが……情報を読み取りすぎたのでしょう。この魔法は、非常に複雑で難しいものですから」

「そうなのか。万能近い力があると俺は聞いたがな」


 レイスのその言葉に私はえっ? と思う。

 万能に近い力ってそんな話、私は知らない。

 聞いたことも無い。


 この人たちは何を言っているんだろう、そう私はぼんやりと思いながらその話に耳を傾ける。

 だってその話には思い当たる節があったから。

 本来の“鑑定スキル”はもっと能力が無生物(草なども含むが)のみであったらしい。


 誰も知らなかった、メルの妹の病気だって、治療法が分かってしまう。

 奇妙な知識。

 特殊能力チートだから私にそんな力があるのかと疑いもしなかったけれど、私には別の役割がある?

 

 それにこの世界の神話の話をリファスはしてくれたけれど、それには空から落ちてきた人間で“真実の瞳”がどうのと……。

 この力は何だろう。

 未知のものに対する不安が膨れていく。


 だからかもしれない。

 無償にカイルに会いたくなる。

 連れてこられてそんなに時間がたっていないけれど……あんな風に告白されてしまった。

 

 答えは、まだ出ない。

 違う。

 私が初めてだから怖いのだ。


「カイル」


 熱にうなされるように名前を呼ぶ。

 頭が凄くぼんやりする。

 そこでレイスが、


「何かぶつぶつ言っているが大丈夫か?」

「ええ、神話上でもこの異変の場合は、随分と複雑な“情報へのアクセス”が必要となってしまうために、その人物の負担が大きいと書かれていました」

「……きつい魔法であるのは確かだな。だが即効性があるのと、彼女以外に無理というのは本当なのか?」

「そうですね。だから彼女にはこれからも、回復してから手伝ってもらう事になりますが」

「“世界の根幹(アカシック・レコード)”、この世界を構成するすべての情報が詰まっている場所に直接触れられる、“この世界に愛された者”であり“神子”だったか? 完全な存在であるから、獣耳や竜の耳もないというが……」

「我々のいあるような耳が無いのは、ただ単に繁殖がしやすい性質を表しているだけという説もありますが、多かれ少なかれ、特殊能力チートと呼ばれる能力を有するのは、“世界の根幹(アカシック・レコード)”の情報をもとに自分の中で能力を“再構築”しているからなのでしょうね。ただ情報量が多いと取捨選択が大変なので、ああいったように負担になってしまうようですが」


 痛ましそうな声で私に対してリファスは言う。

 負担が来ている。

 それが今の状態であるらしい。そこで、


「これで完成です。後は起動してみて……魔力を注いで……上手くいっているみたいですね」

「確かに起動しているな」

「そうですねレイス、貴方の手伝いもありこんな早くできました。礼を言います」

「……礼なんて言う必要はないさ。これから俺は俺の目的のために行動するのだから」

「レイス?」


 そこでリファスがレイスの名前を呼ぶとばたりと倒れる。

 そして思いつめたようなレイスがリファスを私達の馬車に連れてきて寝かせ、御者に連れて帰るよう告げる。

 けれどレイスは動けずにいる私に、


「お前には俺と来てもらう」


 その言葉を最後に、私の意識はぷつりと途絶えたのだった。



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