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18/25

好都合ですね

 カイルが夜風に当たっている私の近くにやって来た。


「タクミ、どうした?」


 そう問いかけられたので私は、


「お酒にちょっと酔った気がする。だから風に当たりながら飲もうかと思って」

「確かに今日は涼しくていい風が吹くな」


 カイルが答えた所で、さぁっ、と葉のこすれる涼やかな音がして風が頬をなぜる。

 お酒で熱くなった頬が少しひんやりして心地いい。

 空を見上げると、楕円形のような形をしたお月様が見える。


 わおーん、と一度叫んでみたい衝動に駆られる月だなと思って、また一口お酒を飲む。

 マタタビの影響は私にはないけれど、普通にお酒を飲んで酔うような感覚はある。

 お酒は人の心にある“枷”を、緩めるものらしい。


 でもその“枷”に気付いていない場合もあって、でもそれが緩まってしまったならどうなるのだろう?

 そこまで考えた私は、なんだか面倒くさいなと思って全部放り投げた。

 そして、なんとなくカイルのそばに居たいなという気持ちになって、私はカイルにくっつく。


「タ、タクミ……」

「やっぱり、カイルの傍にいると落ち着く。幸せな気持ちになる」

「そうなのか?」

「うん。もしカイルに私は出会えなかったら、どうなっていたのかなって思う」


 こんなよく分からない異世界に連れてこられて、私はカイルに出会えた。

 そう考えると、優しいカイルに出会えたのだからこの異世界もいいもののようにも思える。

 メルやレイトもいい人だし。


 メルの姉達の件も、驚いたけれど、結果は良好だ。

 そう思いながらカイルにくっつきつつお酒を一口飲む。

 果実の甘みとスパイスの香りが心地の良い味だ。


 そう私は思いながらカイルに、


「明日からまた、旅なんだよね」

「そうだな」

「ここからだとどれくらいかかるんだろう?」

「俺の城までか?」

「うん。どれくらいかな……」


 ぼんやりとした頭でカイルに問いかける私の頭を、カイルが優しく撫ぜた。


「ここからなら一週間程度だな」

「え? そうなんだ……あと一週間しか私はカイル達と居られないんだ」

「寂しいのか?」

「うん」


 私は素直に頷いてカイルに抱きつく。

 そんな私にカイルが諭すように、


「城に行けば元の世界に戻れて、そして俺達に会いたくなったならいつでもタクミが望めばこれるようになるから。だからタクミが望めばすぐに会える」

「……本当? それに、カイルはお城にいるの?」

「ああ、タクミがこの世界に来る時はいつでもその城で待っている」

「そっか……そうなんだ……ならいい、や」

「タクミ?」


 そこで私の意識がふっとなくなる。

 そんな私を抱きとめたカイルが困ったように、


「こんな無防備になって、どうする? 俺は今もタクミに触れたくて堪らないんだぞ?」


 そう呟いたことなど、私は知る由もなかったのだった。






 次の日、ミストフィアがエルダ伯爵と喧嘩していた。

 首筋にある赤いキスマークを見る限り、酔った勢いでエルダ伯爵がミストフィアを襲ってしまったらしい。


「このケダモノが! どうして私にこんなことをした!」

「いえ、服をはぎ取って着替えさせようとしたらそのまま、むらっときて」


 という言い訳にもなっていない言葉にミストフィアが怒っているとそこでエルダ伯爵が、


「駄目かと聞いたらいいって言ったじゃないか」

「だ、だってあれはお前が、悲しそうな顔をするから……」

「お前ではなくそろそろ名前を呼んでほしい、ミストフィア」

「う、うぐ……フィス」


 どうやらエルダ伯爵の名前はフィスというらしい。

 またスウィンとリーフィアはこれからデートなどをして互いの愛を深めていくらしい。

 とりあえずは薬のおかげで今の所は、リーフィアは大丈夫そうだった。


 それから私達は彼らに見送られて……ミストフィアはメルが行くのをしぶしぶ了承して、ようやく私達は旅を始めることが出来たのでした。







 こうして私達は徒歩や馬車で、移動をすることに。

 それからの二日間は、あっという間に過ぎて行った。

 そしてその日は、少し早いが街道沿いの宿屋に泊まることになって、四人部屋に私達は来ていた。


 最近、やけにメルがレイトになついている気がする。

 今だってレイトの隣でくっついている。

 やはり姉や妹のアレにあてられたのかと私が思っているとそこで、


「なんで私をじろじろ見ているんだ、タクミ」

「いえ、なんだか仲がいいなと思って」

「それはそうだ。だって私、ミストフィア姉様に許可されているのは、タクミを送っていった城までだし」

「あ……で、でも、帰り道は?」

「多分レイトが転送してくれるんじゃないのか?」


 そうメルがレイトを見上げると、レイトが微笑み、


「帰りも徒歩です」

「え?」

「そうすればその分長く、メルと一緒に居られるでしょう?」

「レイト……」

「ちなみに私の答えは決まっています。選ぶのは、メルですよ? これは、猶予期間でもありますから」

「……うにゅ」


 メルが体育座りになり顔を足の間に隠した。

 詰まる所、遠回しに今、レイトは告白したようだ。

 今まで気づかなかったというか考えないようにしていたらしい。


 だがそこでメルが私の方をきっと睨み付けて、


「タ、タクミの方こそどうなんだ! あそこの都市からタクミが行く城までは転送陣を使えばすぐだったじゃないか」

「え? あ、確かに都市だからありそう……カイル?」


 そこで黙っているカイルの名前を呼ぶ。

 するとカイルが、


「実はこの前の転送の費用を、ミストフィアからもらっていなくて、料金が足りないんだ」


 その言葉にメルが沈黙した。

 更にカイルが、


「あの雰囲気でその分の料金もと言えなかった俺に問題があったのか。すまない、タクミ」


 メルを責めるのではないが、メルが居心地悪そうに固まってから猫に“獣化”視点レイトの膝に向かう。

 そうしてレイトに撫ぜられてメルは幸せそうだ。

 それを見ていると何となく羨ましく私は感じながら、そしてある種の期待を持ちつつ私は、

 

「わ、私もカイルと一緒に居たかったし。だからこれはその、運がよかったと思う」

「そうなのか?」

「うん」


 大きく頷くと私の頭をなぜながらカイルが、


「タクミは本当に可愛いな。あざとい存在だ」

「あ、あざといって……」

「……まだ夕暮れまで少し時間があるし、この宿の近くに湖があるらしいから見に行かないか? 二人っきりで」

「二人っきり?」

「俺も、レイトとメルにあてられてしまった。特にここしばらく」


 そうやらカイルはメルとレイトの仲睦まじい光景に、砂糖をはくような思いを抱いてしまったらしい。

 確かにこのイチャイチャぶりは、少し二人だけの時間を作ってあげてもいいかもしれないとは思う。

 だから私はカイルと一緒に、近くの湖に向かったのだった。








 宿の傍にある細い道。

 その先にそこそこ大きな湖があるらしい。

 その近くには小さな村もあるという。

 

 けれどその湖に向かうとそこには人っ子一人いない。

 でも風が心地いい、そう思いながら私はカイルに、


「もしも元の世界に戻ってまたこの世界に来れたら、私、今度はもっと冒険をいろいろしてみたいな」

「ギルドカードもあるからな。そうだな、タクミにはそのうち魔法も教えて、ダンジョンにでももぐったりしてみるか?」

「ダンジョン!」

「ああ。どうだ?」

「楽しみかも!」

「本当は危険な場所だけれどな。もっとも俺はタクミを怪我させるつもりはないが」


 そう言ってカイルが笑う。

 またこの世界の戻ってくる。

 そうしたらまたカイルと一緒に、今度は冒険したりこの世界を楽しめる。


 それはとても魅力的な案に思えた。

 と、そこでカイルが私を見つめる。

 その視線がやけに熱っぽく感じてしまう私。そして、


「俺は、タクミが好きだ」


 カイルはそう私に告げたのだった。







 一瞬私は、カイルが何を言っているのかよく分からなかった。

 次に私はようやく、カイルが私の事を好きだといったのに気づいた。

 カイルは優しい。


 そして親切にも私を城まで届けてくれるらしい。

 しかも、今まで特に手出しをしてこなかった。

 ただ私を可愛いと言って頭をなぜてくるくらいで。

 だからもっと早くに私は認識すべきだったのかもしれない。


 カイルが私を好きだと。

 好きだから親切にしてくれていたのかもしれないと。

 でも私は、カイルの事がそこまで好きなのか分からない。


 私は、相手がカイルなら……と考えてしまう。

 なんで、今なんだろう。

 もう少しだけ、いい人で、友達で居させてくれなかったんだろう。


 やはりあと数日で城に着くからだろうか?

 ちがう、そうじゃなくて、そんな私に都合の良い事ばかり考え責めるんじゃなくて、私は、私は……。

 冷汗が噴き出るのを感じる。


 のどがカラカラに乾いて、でも私はどうしたらいいのか分からなくて凍り付く。

 そんな私にカイルは、


「……ごめん、我慢できなかった。タクミを見ていたら愛おしさが募って、言ってしまった」

「あ、謝らなくていいよ。……カイルは親切だったし、その……」

「それで、今、答えを期待していいか?」

「! そ、それは、その……」


 私は答えられない。

 カイルが好きか嫌いか、で言えば多分私は好きだ。

 でもそれは恋愛感情かというと私は、まだよく分からない。


 そもそも私は獣耳(二次元)が好きな彼氏がいない=年齢のごく普通の女子だったのである。

 それが特殊能力アリとはいえ、こんな異世界に連れてこられて、恋人候補として呼ばれたなんて……。

 でもそれは多分、相手によるのだ。

 

 相手が、カイルだったら?

 私は頷いてしまうかもしれない。

 そして現に告白を今されて、私は今答えを求められてしまっている。


 完全な不意打ちの告白。

 私はとても混乱している。

 感情としては今すぐ頷きたいけれど、異世界人がと思うと私は素直に頷けないでいる。


 だってそんなの、今まで一度も考えたことが無かった。

 でもカイルと一緒に居るのは好きだ。

 これは私の我儘なのだろうか?


 好きなのは好きなのだけれどここで頷いてしまっていいのか?

 恋はしたことはあるけれど、両想いになるのは初めてで、訳が分からなくなる。

 ぐるぐると言葉が頭の中で回っていて、理性と感情がせめぎあって、私はどうしたらいいのか分からない。


 どうしよう、私はどうすればいいんだろう。

 困惑してしまう私にカイルが近づいてきて頭をなでる。

 心がとろんと溶け出してしまいそうになって、でもそれではいけないと思って私は、


「ごめ、ん、カイル……少し、考えさせて欲しい……」

「……そう、だよな。突然言われたら困るよな」


 苦笑するカイルに私は胸が痛む。

 違うのだ、そうではなくて、私は……。

 

「ごめん!」


 あまりにもいたたまれなくて、私はその場から逃げ出した。

 メルに相談に乗ってもらおう、そう思いながら私は来た道を宿に向かって走って走って走って……そこで。


「一人ですか? 好都合ですね」


 そんな声を聞くとともに私の視界が闇に閉ざされたのだった。



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