マップにあるものは?
こうして私達は別荘に向かう。
ミストフィアは私達を別荘において帰るそうだ。
道案内のために乗っているらしい。
「私だって別荘への道はわかります」
「それで、今まで何度道に迷ったのですか?」
「……にゃーん」
メルがいじけたように、“獣化”してミストフィアの隣から逃げ出してレイトの膝の上に乗った。
それを見たミストフィアが眉を寄せて、
「メル、失礼ですよ」
「にゃーん」
「にゃーんじゃなくて……申し訳ありません」
「いえいえ……。そういえば、私の事を、ねちっこくてさり気に鬼畜腹黒だからあまり近づかない方がいいとおっしゃっていたとか」
「ごふっ」
そこでミストフィアが吹き出して、青い顔でメルを見た。
「メル……」
「にゃ、にゃーん」
焦ったように誤魔化そうとメルがニャーニャーないている。
レイトはどういうつもりなのだろうと私が思っているとそこで、レイトがにこやかに、
「悪口を見逃しますので、城に戻る旅をメルと一緒に行っても構いませんか?」
「……何故、脅すような真似をする」
ミストフィアが警戒するように聞いてくるも、レイトは小さく笑い、
「いえ、私は今のように色々考える余裕のない時期であれば、メルとの旅行を許していただけるかなと思っただけです」
「どういうつもりだ」
「ただ単に私がメルを気に入っているだけです。それでメルはどうですか?」
レイトがメルに話を振ると、
「わ、私ももう少し、レイトやタクミ、カイルと旅がしたい」
メルが自分からミストフィアにお願いをする。
そこで黙ってしまうミストフィアだが、それにカイルが、
「俺からもお願いできないか? タクミとメルは仲がいいし、城に着くまででいいからお願いしたい。安全は俺とレイトが保証する」
それが最後の一押しとなったようだ。
ミストフィアが深々とため息を付いて、
「……分かりました。カイルさ……がそこまで言うならば。確かにこんな機会でなければ旅も出来ないでしょうそ」
「ありがとう。そして、レイトが妙な脅しをしたのを謝っておく。ただ単に皮肉を一言言いたくなっただけだと思うから、許して欲しい」
「いえ……というかメル。どうして家族内でこっそり言っていた悪口をいうのですか!」
「にゃぁんんっ」
そこで猫化したメルの頬が引っ張られて、メルが悲鳴をあげる。
それをさっとレイトがミストフィアの手を外し、代わりに頭を撫ぜる。
可愛がるような優しい様子にミストフィアは何かを感じ取ったらしい。
警戒するようにレイトを見る。
そんなミストフィアにレイトは、
「メルももう大人ですし、自分で考える事が出来ると思いますよ?」
「……決めるのはメルだ」
もちろんです、とレイトが優しげな表情でメルを撫で、答えたのだった。
さて、どさくさに紛れてレイトがメルの旅行許可をとった。
案内された別荘は綺麗な屋敷で、馬車から降りると管理人が出迎えてくれた。
必要な物を探すために客人を泊めて欲しいといった話をしてもらい、それから部屋へと案内してもらう。
そして管理人に昼食を急だがお願いして、飲み物と一緒に編み籠に入れてもらう。
他にこの別荘周辺の地図を貸してもらい、また、注意した方がいい場所を幾つか聞く。
ただこれから向かう場所の一つに、注意するものがあるらしい。
「スライムに服を溶かされないように注意、ですか?」
私が聞き返すと管理人の人は頷く。
さすが異世界で危険が少ないけれど、それっぽい魔物もいるんだなと、その時は私は深く考えずに思ったのだった。
“マタタビ森草”を探しに私達は森の中に入っていく。
時期が良いのもあるのか、涼しい風が吹いて心地よい。
それもほんのり森の香りがする。
今日は空も晴れていて青空が広がっているのもとても良い。
良い日に探しにこれたなと思いながら森の小径を歩いて行くと、そこでカイルに、
「随分と楽しそうだな」
「うん、何だか森の中を皆で歩くと楽しい気がする」
「そうか。俺はタクミと一緒に歩いているのは楽しいな。折角だから手を繋がないか? 道に迷うかもしれないし」
「この一本道で迷わない気がするけれど……いいよ」
そう答えて私は、カイルと手を繋ぐ。
カイルの手は大きくて温かい。
それが心地良と思うのは、どうしてだろう?
カイルと一緒にいると私は酷く安心してしまう。
どうしてだろう、そう思ってカイルを見上げると、カイルが微笑み、
「どうした?」
「な、なんでもない」
「そうか」
私は慌てて顔を背けた。
何となくカイルの顔をじっと見ていると変な気分になるから。
理由は分からないけれど。
そこでメルが、
「く、見せつけやがって」
「? 何が?」
「いや、ほら……」
「あれ? メルも道に迷わないようにレイトと手を繋いでいるんだ」
「! ち、違う、これは……」
必死でメルが違うと言い張っていたが、レイトがそうですよと答えて、メルが放せと騒いでいた。
もちろんレイトがメルの手を放す筈など無かったのはいいとして。
カイルが立ち止まった。
「随分と沢山の魔物がこちらを狙っているな」
「た、沢山?」
「ああ、小さくてそれほど強い魔物ではないが、こちらを狙っているな。一斉に遅いかかるつもりかもしれない」
「ス、スライム?」
「いや、肉食系の獰猛なタイプだな」
それを聞いて私は周りを見回して敵がどこにいるのか目を凝らそうとした。
けれど何処にいるのか分からない。
だがそこで私は思いついた!
「ぼ、私を中心に半径100メートル以内の敵に設定を限定! “ステータス・オープン”」
そう意識すると周囲に一斉にステータス画面が現れた。
ゆうに二十はいるであろうその光景に私が凍りついていると、カイルは、
「なるほど、これなら見落としがなくて便利でいい。助かったぞ、タクミ」
そう言って頭を撫でられて、ようやく私は安心してしまう。
それからすぐにカイルとレイト、メルまでもが魔法を使ったりして倒してしまう。
レイトは魔法騎士団と言っていただけに、剣の扱いにも長けているようだった。
だがこうしてみると私だけ役立たずだ。
魔力はあるはずだから後で魔法を教えてもらおうと思った所で、周辺にいる全ての魔物を倒しきったのだった。
以外にこの道は危険らしいということで、早く目的のものを探そうという話になる。
先程よりも早足で歩いて行くと、そこで道が二つに分かれている。
一つは木漏れ日が溢れる、緑の小径。
もう一つは、薄暗い森のなかに続く道。
どことなくジメッとしているように感じるその道を見て私は、
「こっちじゃなくてあっちに行こう」
けれどそれに反対したのはレイトだった。
「それは無理です。“マタタビ森草”は、このジメッとした森の中に生えていますから」
「え?」
「水分の多いそれこそスライムのような物が沢山いる場所でないと恐らくはこの性質だと育たないかも知れません」
「う、うう、こんな暗い場所なんて……そうだ、“鑑定スキル”でこの周辺を鑑定して、“マタタビ森草”を探せないかな?」
レイトの言葉を聞いて、極力この周辺に滞在しないでいられる方法を私は思いついたのだった。
“鑑定スキル”を使い、周囲の様相を調べることに。
私の“鑑定スキル”は連想されるものも効力に含まれるらしい。
となるとこの周囲を“鑑定スキル”で調べれば目的のものの場所が分かるのだ。
というわけで私は、
「私を起点として半径1キロメートルの円上で、“マタタビ森草”を“探査”! 見つかった場所には印をお願いします! というか、えっと、手の平にここ周辺の四角いマップなどをお願いできますか?」
自分の能力なのにお願い口調になってしまうのは、私がまだこの能力自身をよく分かっていないからだ。
この世界の“鑑定スキル”の概念は私がゲームでこの品物はどーのこーのと言われたりするレベルとそれほど変わらないようだ。
でも私の特殊能力はこの世界の物と、名前は同じでももっと強力というか範囲が広いようだ。
便利な半面、私の特殊能力である“鑑定スキル”の使用は、私自身を媒体としているためか、私自身の“知識”により能力の具現が制限される。
私自身の想像力や関連、連想によりその“鑑定スキル”をどう使うかが重要になってくるらしい。
魔力が多いのは、それを行えるだけ魔力を事前に与えられているのでは、とも思わなくはない。
何のために? ふと湧いてきた疑問を私は、考え過ぎだと打ち消した。
まずは、見知らぬ男の花嫁にされる前にこの異世界から脱出することが先決だ。
ただそうなるとカイルと会えなくなるかもしれない、それは……。
そこで小さな音がして、私の手の平の上に緑色のマス目のようなものが現れたかと思うと、道やら木やらが緑色の立体的に表される。
しかも私達のような存在がいる場所に赤い球が四つほど。
次に金色の金属光沢のある四角錐を逆さにしたようなものが幾つも現れて、その上に“マタタビ森草”の絵が光で表される。
詳細なその地図を見て私は、予想以上のものが出てきたと思いながら、
「え、えっと、一番近いのはここかな?」
マップにある一つを指差したのだった。
目的の場所に行くには、道無き道を進まねばならないようだった。
私がマップを持っている以上、私が道案内をすべきと思い歩いて行く。
草むらや木々の間をかき分けて進んでいく。
先ほどの暗い道ほどではないが、今歩いている道も先ほどの場所より母が生い茂っているためか薄曇りの日のように暗い。
だが足元や周りを見るには十分な明るさだった。
あと少しで“マタタビ森草”があると私が思った所で目の前の草むらから、何かが出てきて私達の前に現れた。
透明な水状のぷよぷよした物体。
突きたくなるそれだが、後ろでカイルが、
「タクミ、それはスライムだ! スライムは一匹いたら、三十匹いると思え!」
そんな黒いあいつみたいなと私が思った所で、すぐ横から私は何かに体当りされる。
「ごふっ、ふえ? ふ、服がぁああ」
そこでべちょっと何かがついたかと思うと服が溶かされていく。
どうやら私の死角からこのスライムは襲いかかってきたらしい。
だが……これは始まりの序章に過ぎなかったのだった。
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