ふわっとした感じで
それから、先ほどの会話でリーフェイアに私が異世界人だと気づかれてしまった。
「異世界の人には、頭に獣耳がない人がいると聞いたけれど本当?」
と、目を輝かせながら好奇心旺盛に聞いてくるリーフィアを私は断れませんでした。
猫耳カチューシャを取ると、
「わー、耳がない! ……タクミは本当に女の子なのかな?」
「うにゃああああ」
そこで私はリーフィアに胸を揉まれました。
「わー、胸はないみたいだね」
「ふ、ふぇ、ど、どうして君たち姉妹は私の胸を揉んで異世界人だって確認するのですか!」
「? 胸がなかったら多分男だし? 下の方が良かった?」
「無邪気にそういうリーフィアに私は危機感を覚えた、まる」
そう言いながら私は、リーフィア達と距離を取り、それから猫耳カチューシャを装着した。
この姉妹の魔の手から逃れられる距離まで移動した私。
そんな私にリーフィアが、
「うん、あまり手を出さないようにしておくね。でも、この能力で異界の書物も結構読んだことがあるけれど、姉さん達が読んでみたそれが気になるな」
「! 新たな仲間召喚のチャンス!」
というわけでオタク萌を布教すべく、あの私が大好きな漫画を取り出しました。
そしてそれらを見ていた結果は、
「この猫耳の子、スウィンに似ている気がする」
「……」
メルが黙ってリーフィアを見た。
リーフィアは気づいていないようだったが、そんなメルの方を私は叩き、
「シスコンもほどほどに」
「シ、シスコンじゃないし! というか、私はこの鳥に獣化する子が好きだし!」
「……レイト」
ボソリと口にした言葉に、メルが顔を赤くしてから次に、きっと私を睨みつけて、
「タクミだって狼耳の子が好きじゃないか!」
「? それがどうしたの?」
「……カイル」
ボソリとメルが呟いた。
そういえばカイルも銀色毛並みの狼耳だったなと思いだした私は、気づいた。
「そうか、ボクは狼耳の子が好きだからカイルの側にいると安心するんだ!」
「……これ以上言ってもダメそうだから私は言うのをやめよう」
メルがどことなく失礼な事を言っていたが、そこでリーフィアが、
「でもそのカイルって名前とレイトって名前、まえ、ミストフィア姉様のお客様で来られた、銀狼の国フェンリルの王子様と宮廷魔法騎士団の副団長の名前と同じだね」
「そうなんだ……でも王子様があんな風に旅をしたり生活力がありそうではないから、カイルは違うと思う。メルみたいに行き倒れしないし」
とても納得の行く論理だと私は思ったのだが、そこでメルが、
「なんだと! 私はただ空腹に耐えかねて倒れていただけだ!」
「……それを行き倒れというのです。でもその御蔭でレイトに拾ってもらえたのだから、“運”がいいのでは?」
「う、うにゃぁ……く、タクミが扱いにくくなってきたぞ。チョロそうだったのに!」
「な、チョロそうって、ふ、だがそういうということは私が、ちょっとはしっかりしてきた証拠!」
「……それはないな。うん」
メルがそう言って一人で納得してしまう。
そこでメルは私が言い返す前にリーフィアに、
「でもリーフィア、どうしてそんな情報を知っているんだ?」
「たまたま窓の外を見ていたら、綺麗な人達がいっぱい帰っていくのを見かけたからミストフィア姉様に聞いただけだよ。確かその日メル姉様は、屋根の上で猫化してひなたぼっこをしていて、ミストフィア姉様にすごく怒られたんだったよね」
追加のメル情報(笑)が入り、メルがもうここにいるのが嫌だと逃げ出したので、私もメルを追いかけるようにこの部屋を失礼したのだった。
タクミとメルが、リーフィアの部屋で“鑑定スキル”を使っている頃。
カイルとレイトが別の部屋に案内されていた。
現在二人揃って、ソファーでくつろぎつつ、先ほどレイトが入れたお茶を飲んでいた。
現在布でぐるぐる巻きになっていたカイルの頭は、いつもどおり何もない状態になっている。
そこでお茶を半分ほど飲んだカイルは、ソーサーにカップを置き、
「布で顔を隠す案は、あまり良くなさそうだ。飲み物が飲めない」
「そうですね。ではどうしますか?」
「次は紙袋で行こうと思う。目と口と獣耳の部分さえ開いていれば、何とかなるはずだ」
「……カイル様、そろそろ諦めましょう。絶対にミストフィア様にはバレていますよ」
「いや、何も聞いてこないということは、完全に確信できていないのだろう」
「いえ……ここで聞くのもどうだろうと迷っていただけでは」
「そうなってくると、やはり顔の輪郭が分からない分紙袋のほうがいいか」
真剣に考えはじめたカイルにレイトは嘆息して、
「そこまで気づかれたくないのは、何故ですか?」
「……タクミに気づかれたくない。俺が……」
「それだけ異世界人のタクミを気に入っているということですね?」
レイトの質問に、カイルは沈黙した。
乳姉妹でもあるカイルのその様子にレイトは、
「カイル様にしては珍しいですね、そこまで気に入りましたか」
「……」
「異世界から召喚した相手は、とても好みになることが歴史上多かったので正解でしたね」
「……」
「まあ、別の目的も幾らかあったとはいえ、カイル様が気に入ったのなら“嫁”に……」
「それを決めるのはタクミだ」
そこではっきりとした口調で、カイルがレイトに告げる。
カイルの“嫁”になるのかどうかを決めるのは、タクミだと。
それを聞いたレイトが目を瞬かせてから、
「そうですか。なるほど……まあ、まだ“城への道程は長い”ですから、ゆっくり考えるのも良いのでしょう」
「……俺の根負けを狙っているのか?」
「いえ、私は私でメルをどうやって城まで連れていくかについて悩んでいますから、余裕が無いのです」
「口ではそう言っているが、本心はどうなのかな?」
「意地の悪いい方をしますね。カイル様も経験すれば分かりますよ」
レイトの言葉に反論しようとしたカイルは、そこでドアを叩かれる音を聞いた。
慌てたように袋を被るカイル。
そしてドアをレイトが開けると、
「カイル! 様子はど……う……」
「大丈夫だ、問題ない」
「う、うん、そっか」
そこでタクミは紙袋を被ったカイルに微妙は反応をしてから、
「カイルは紙袋をかぶらないほうが格好いいと思う」
その一言で、カイルは即座に被った紙袋を脱いだのだった。
そんなこんなで、カイル達と一緒にレイトの淹れたお茶を飲んで、リーフィアの話をすることに。
「材料さえあればリーフィアの病気が治りそうなんだ」
「そうなのか。でも、“鑑定スキル”でそこまで分かるものなのか?」
カイルの疑問に私は、
「でも“ステータス・オープン”したら書いてあったよ? ……カイルが信じてくれないなら、見せつけるまで。“ステータス・オープン”!」
私はカイルに“鑑定スキル”を使うが、魔法が途中で有耶無耶にされたような変な感じになり、画面が現れない。
「あれ?」
「残念だったな、タクミ。俺には魔法無効化の特殊能力があるからな」
「え? そ、そんな、どこかの主人公みたいな能力!」
「よく分からないが俺に幾らやっても無駄だぞ」
「うぐ、もう一回……うにゃぁ」
そこで私はカイルに頭を撫でられてしまう。
こうされてしまうと私はもう、もう……。
完全に抵抗できなくなってしまった私にカイルが、
「それで、詳しい話を教えてもらえるか?」
私の頭を撫ぜながら、カイルはメルに問いかけたのだった。
カイルに問いかけられたメルは、先ほど“鑑定スキル”によって必要になったものの話をする。
「“マタタビ森草”“クラッケン石”“メメアの花”“ロエアルト水”どれも貴重で手に入れるのが難しい品だな。以前、貴重な物図鑑で見た記憶が有るが……」
カイルが呻くように呟き、その話を聞いて私は、
「そういえばミストフィアさんもそう言っていたかも」
「タクミのその“鑑定スキル”では何処で採れるかといった情報は出ないのか?」
「そこまでは、表示されなかった」
そう言われて私は、これでは力になれないと気づいて気落ちしてしまう。
これで手に入れたいものが何処にあるのか情報があれば、そう私が思っているとそこでレイトが、
「そういえばそのタクミの“鑑定スキル”はどうやって、表される内容が決定されているのでしょうか?」
「えっと、何となく使っているので私にはよく分からないです」
「……何となく、ですか。ふむ。普通なら、“鑑定スキル”として表される要素も設定ができるはずです。それによって魔力の消費量が違いますしね」
「え! そうだったのですか! でもそうなると能力の発現条件ってどうなっているんだろう」
ただ単に、“ゲーム”みたいに? といったふわっとした感じで魔法を私は使っていたのだ。
でもこうやって大量の情報が出てくる条件が、私の中である程度設定されているらしい。
けれどそれをどうやって知ればいいのだろうか?
そう私が思っているとそこでレイトが、緑色の表紙に金色の意匠の施されたある本を取り出してきた。
「旅のお供に、貴重な物が載っている図鑑を持ってきたのは、良かったのかもしれません。まずは“マタタビ森草”ですが……これですね」
そう言って見せてきたのは、猫耳がいくつもついたような草の絵だった。
下の方を見るとそこには、“マタタビ森草”と書かれている。
でもこれを見せられて私はどうしろというのかと思ってレイトを見上げると、
「もしかしたなら、タクミのその発動条件には連想されるものが、細かく情報が表示されるのかもしれません。リーフィアの病気の話を聞いて、治ったらなと思いませんでしたか?」
「それは……病気の人がいたらそう思うよ」
「それが連想されて、ステータス画面に出てきたのかもしれません。そしてここには植物などの図鑑があります。これから連想して、産出地や採取地を呼び出したり出来ませんか?」
その提案に私は、なるほどと思って、図鑑に向かって、正確にはその絵に向かって“鑑定スキル”を使う。
ピンク色の光の枠が出てきたかと思うと、大量の採取地などの情報が出ていて、そのうちの一つを見ていたメルが、
「確かこの場所、別荘の近くだ」
「本当! じゃあそこに行けば手に入るね! ここから遠い?」
「そこまで遠くない。よし、他のも全部調べて、ミストフィア姉様に報告だ! レイト、タクミ、ありがとう!」
メルが嬉しそうにレイトにお礼をいい、次に私にもお礼をいう。
いいことをした気持ちになりながら、私は更に別の必要な物を探して“鑑定スキル”を使い調べていく。
そんな私達の後ろでカイルがレイトに、
「やけにレイトはやる気だな」
「メルの妹ですから」
「……なるほど」
そういった会話をしていたのだけれど、場所が幾つも分かった私とメルはその興奮で全く気づいていなかったのだった。
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