77『ヤバ系の技。』
「俺の左腕は幅広剣だぜ &
俺の右腕は刺突剣だぜ!
剣、剣、剣、刺突、刺突、刺突!」
スライムの両腕を、剣と刺突剣に変える。
左腕は、ディッポ団長が使っていた幅広剣。
プロレスラーも真っ青のマッチョメンらしく巨大な剣……とかじゃない、ごく普通に ( 無論、名工が打った名剣だけど。) ありふれた形の剣。
右腕は、リャター夫人が使っていた刺突剣。
こっちは御嬢様で元騎士らしく……純白の刃に、鍔は白百合の意匠が施してある。
それでも───人類最強である彼女が持つに相応しい、紛う方無く人を殺せる剣だ。
「わっ、がふぁ!? ば、馬鹿ヤロ・・真面目に戦え───」
「俺の腹は餓狼だぜ!
ガブガブーっ!」
「ぎゃあぁっっ!!?」
お腹を、彩佳だけが見た……ザレと【人狼】たちが【巫女化】した姿を参考にした巨大狼の頭部へと変える。
俺の内臓も、多くがスライムで出来ているが故に、こんな変型も出来るのだ。
「俺の足・・は銃器庫だぜ!」
「じがっ!?」
上げた片足を、ジキアが使っていた無数の銃器に変型させて乱射。
足もまた、83年前の戦いで失い・・スライムと成っているからな。 俺から距離を取ろうとした『反』の後頭部へ、ズドン。
一瞬、ジキアの武器を考えて───変型させるモノを、ヘンナモノで想像してしまったのは内緒。
「ぐぎ・・ぎ・・っ!
だ、だが中途半端な貴様と違い・・肉体の全てが【 魔王の粘土 】であるオレには効かねえよっ!?」
「の、割には・・なあ」
嘗ての戦いでは・・魔力生命体とでも言うべき『三者を越えし者』は、天敵である『アイツ』のヴォイドを警戒していた。
「けど・・『アイツ』と違ってオマエのヴォイドは、同じスライムだからか───無効化されんね」
「くっ・・」
無論、肉体内部の魔力は消滅する。
ただ・・魔力生命体たる、スライムの体が消滅する気配はない。
83年前の旧王族は・・自らの、魔法とヴォイドで干渉しあっていた。
ソレが無いっつう事は・・。
「まだだ!
魔力の総量は、俺の方が多い───」
≪幹太・・お姉さん・・【人狼】のチカラだけ使うのはズルいのです・・よ≫
「───あ?」
「あ、あれっ!?
ビタ・・!?」
ビタが俺の中の世界から喋っている。
確かビタは今、【麗嵐国】の近所の【人花の里】へ旅行中のはずだけど・・?
・・?
ちょい元気が無い?
≪私・・も・・居まフよ、【人土の巫女】≫
≪・・良い歳して大食いは止めるのである≫
「ピヒタ!? アナナゴさん!?」
【人花の巫女】ビタの姉、ピヒタ。
ピヒタと結婚した、ディッポファミリー傭兵団の一人のアナナゴさん。
二人とも・・【人花の里】と、実質【麗嵐国】の二カ所を治める身。 スケジュールかつかつで、滅茶苦茶忙しい身のはずだけど・・・・。
≪オレも居るぞ、幹太ちゃん≫
≪ウーニさん!?≫
ビタの旦那でディッポファミリー傭兵団の一人。
この人だってピヒタとアナナゴさんの補佐で忙しいハズだ。
≪実は今幹太ちゃんが戦ってるソイツ・・っつうか、『旧世代』がね。
【麗嵐国】でムチャしやがってたんだよ≫
「『旧世代』が!?」
≪幹太ちゃんの日本人の友達がヴォイド体質にされたように・・【麗嵐国】の住人もね。 治療のために君ん中に入ったら───まあこんな事態だ。
慌てて、ピヒタ達も引っ張ってきたんだよ≫
≪引っ張って・・などと、無理矢理連れてきたような言い方してはイカンのである。
幹太、オマエのピンチに動かない我等では無い≫
≪政務に疲ヘヘいハのホ・・美味ヒい食べ物ホ・・若返ヒも有りまフが≫
・・ピヒタらしいっちゃあ、らしいけどな。
まあアレで83年前、14歳の身でありながら命がけで・・焼失した故郷から【人花】の民を連れて【人土村】まで旅してきた実績もある。
慈悲深い性格なのだ。
( 異常にイヤシイ食い意地さえ無けりゃ。)
「って・・【麗嵐国】でヴォイド───
まさか、ビタに元気が無いのって・・」
≪たぶん、幹太ちゃんの娘たちと同じ理由さ。
ビタは復活した『反』とやらに近付いてないから、多少ダルいってだけみたいだけどね≫
≪か、幹太お姉さん・・私・・は、大丈夫なの・・ですよー・・≫
───くそっ。
『反』め・・何処までも迷惑な。
≪今、幹太ちゃんのために動く人間を片端から幹太ちゃんの中に集め・・≫
≪≪幹太ああ!≫≫
「わっ!? と、父さん母さん?」
【銀星王国】の総理大臣みたいな事をしてくれてる父さんと、その補佐の母さん。
二人も忙しいハズなんだけど。
父さんが作戦を続けて語る。
≪83年前の『カレ』の企みと一緒だ。
『カレ』は『母親』の魂の世界に、糧となる魔女や人間を無造作に容れるつもりだったが・・≫
「あー・・」
今、彼女は───
唯の魔女の一人として日本に済んで、義理の息子の家にいる。
≪幹太の魂の世界に、幹太の無事を願う者を集める≫
≪一人一人は微弱でも・・颯太や源太さん、孫たちに匹敵するチカラとなるでしょう≫
「父さん、母さん・・」
≪かんママー、私もいますよー!≫
「イーシア!?」
俺の子供たちの中で、唯一ヴォイド源に直接関わっていないから、『反』の魔力吸収から逃れたイーシア。
彩佳に任せたのだけど・・。
≪おねちゃんたちは、あやママが何とかするからイーシアは、かんママを助けてあげて・・って≫
「そうか・・済まん、彩佳。
有難う、イーシア」
≪ボクも居るよ、幹太姉さん≫
「空太!?」
二十歳ぐらいに若返った父さんと母さんの間に産まれた───俺と颯太の、弟だ。
肉体年齢、精神年齢ともに14歳。
( 精神年齢19歳の俺よか大人っぽいとか言われるが・・まあソレはソレ。)
父さんの頭の良さをモロに受け継いだので、空太も父さんの補佐をしている。
≪チートじゃないボクは、姉さんたちや羅佳たち程の魔力は持たないけど・・出来る限り頑張るよ。
後は・・【人土】や自衛隊の皆さんが続々集まっているね≫
「・・うん。
魔力の充実を感じるよ」
颯太や源太ちゃんにヨー・・チート組の魔力。
『三者を越えし者』やヒューの、魔女組の魔力。
俺の子供たちの魔力。
【人狼】やチホさんたちのチカラ。
ソレ等を盗んだ『反』は、とてつもなく強大だ。
・・・・けど。
「俺の両腕は世界樹だぜ!」
「ぐうぅ・・っ、樹木!?」
≪カッコ良いのです!≫
たかが盗人野郎に負けやしない。




