54『パンドラという女は開けてはいけない箱を開けたのです。』
俺と颯太が、リャター夫人の経営する女学園の女生徒達の戦闘講師を引き受けてから約二週間、コッチに転移して凡そ三ヶ月たった。
主な訓練内容は四ツ。
『対【ケルピー】訓練』
物理を模した颯太の岩 ( ・・女生徒達はクスクスと楽しんでいるが、俺は今だに同じサイズの別の形の岩を探している。) と、大波を模した俺の突風魔法を【ケルピー】に見立てる訓練だ。
『対魔物訓練』
コレはトンデモ軌道で動く颯太や、俺が操作する水球のクラスターミサイル ( 最弱 ) を、色々な魔物に見立て捉える訓練。
『対人訓練』
魔物ではなく人間に襲われた時の、訓練。
俺達が初めて街に行った時の事を思えば・・彼女達には必要な訓練だろう。
実はこの訓練は俺が一番頼りにされているのだ。
リャター夫人は速すぎる、颯太は奇抜すぎる。
そもそも二人とも天才で
「違うの~。
剣を速くふるには・・腕を速くふるのよ~」
「ソコはミャーって、バロロローっぽくするんだよ?」
・・するらしい。
まあ天才特有の・・所謂感覚型で、理論立てての説明が正直下手。
俺とザレが最初にやった、凡人同士の戦闘の方が分かりやすい時もある。
「きゃあ♡
今日は私がカンタ先生を吐かす番ね!」
女生徒達の間で俺を吐かすのがある種の免許皆伝っぽくなっている・・。
はったおすぞ。
『実戦訓練』
俺達も傭兵の仕事を疎かに出来無い。
彼女達も座学を疎かに出来無い。
なので一部時間割りを変えての、傭兵体験入団企画が上がった。
リャター夫人がそもそも俺達に出したピクニック護衛依頼が『他所者 ( 男 ) に慣れる』っつう目的だったんでその代替えっぽい。
幸いというか、今や女傭兵団ってだけで襲ってくる馬鹿は居ない。
・・どうも下種傭兵ABCは正式にギルドから粛清依頼が出てて、俺がソレを執行した、と、なっているらしい。
なので俺達に好意的な人は勿論、俺達に悪意を持つ連中もギルドの仲間に手ェ出したりはしない。
然りとて、23人全員で行く訳にもいかないんで順番を変えて少人数づつ。
で、その一人目がザレに決まった。
ザレは女生徒達の戦闘格付けだと23人中、9位。
真ん中より僅か上。
( 戦闘が得意じゃない、好きじゃない娘もいるんで戦闘力上位組ではある。)
一人目に選ばれた理由はザレの魔法使い関連。
魔法の本格的な勉強は・・貴族にバレないようコッソリ、もうちょい権力を手に入れてからするつもりだった。
たから俺が知っている魔法知識はジキアに教えてもらった基礎と実戦で試行錯誤した辺りだけ。
なのでジキアやギルド職員の、俺達に善意的な魔法使いにザレの魔法を見て貰おうかと思っている。
「そもそも、魔法使いって女が極端に居ないらしいんだよなあ」
「そうなんですの?」
「少なくとも皆は僕達が初めてなんだって」
更にいえば俺と颯太は元男だからな。
あんま参考にならんかも。
「・・ザレ、大丈夫か?」
「・・ええ御姉様。
コレから会う方は御姉様とソウタ様が信頼する方達ですもの♡
戦闘力も身につきましたし!」
いきなりデカく、差別意識の強い男が沢山居る街のギルド職員の所より北の村、ジキアの方に行く事にした。
重機の無い世界、【黒い川】【ビッグボア】【アルラウネ】【ワーム】【スライム】【コカトリス】全部の素材回収は数ヵ月かかるらしく、ディッポファミリー傭兵団も、暫くは素材回収班と行商班 ( 近所限定 ) にチーム分けをするとのこと。
ジキアは素材回収班。
( たぶんディッポ団長が気を使ってくれた。
ジキア ( 嘘を見抜ける魔法使い ) は行商向きなのに。)
「心配しないで下さい御姉様。
ワタクシ一人でも大丈夫ですわ!」
言って、一人で俺達が北の村で拠点にさせてもらってる村長の家へ向かう。
ホントはまだ少し怖いだろうに・・。
どうしようか悩んで───
───あっ!?
ジキア!




