64『打ち身→全身複雑骨折。』
「───あ、あの物陰の男・・暗く見えます」
「誰に向けて、かは分かる?」
「ん・・んん・・・・ゴメンなさい。
そこまでは・・」
潰した『旧世代』に憧れる馬鹿ガキに狙われるチホさん。
俺、颯太、彩佳、理太くん、ヨー。
このメンバーなら、最新兵器で武装した軍隊で来ようとチホさんに傷一つ付けさせない自信がある。
ヨーが、馬鹿ガキから襲われた時に手ぇ出さず逃げたは・・この世界でのチホさんの立場を考えたから。
・・なので、いざという時は任してある。
馬鹿ガキの命とチホさんの掠り傷、両天秤に乗せるまでも無い。
「アレは・・ほらアッチの店主に向いているんだ。
少し前に、釣り銭がドーノコーノと喧嘩してたって報告が有った」
「言わ・・れて、みれば・・確かに。
───かな?」
んで、今は感情レーダー魔法の練習。
チホさんは人間の悪意を、明暗で捉えているらしい。
魔法ってのは想像力の賜物。
名前は同じでも、どうゆう想像をしたかで多少の違いは有る。
俺の感情レーダー魔法の見え方は、魔力がホワホワ動いたりギガギガ動いたり。
「幹太、2km先の大階段。
ソレっぽいのを見つけたわ」
「ん。 チホさん、例の連中が居た。
俺たち全員で守るから・・見てみる?」
「・・・・はい」
まあ、実戦を体験も見たことも無いと怖いだろうけど。
「ヨーと二人で居た時は、チホさんだけが日本人だったけど・・今は日本人だらけだし、チホさんだけが狙われる事はないよ」
「ええ」
さて・・。
◆◆◆
「・・暗い、です。 夜みたい」
「アレは、他人に迷惑をかける事を屁とも思って無い連中の特徴だな」
「たぶん日本でチホさんにチョッカイを出してたって言う不良を感情レーダー魔法で見たら、おんなじ感じで見えるハズだよ」
「な、なるほど」
「悪い人だったー」
「オレが居たらそんな奴、ブッ飛ばしてやったのになー」
【銀星王国】首都内にある丘の上の地域とを繋ぐ、大階段。
その中程で、彩佳が『旧世代』に憧れていそうな奴を見つけた。
俺たちは大階段下の公園でソイツをチェックしながら待ち構えている。
「どうする?
同じ日本人の、俺一人で行っても良いし」
「僕ならパッと見は9歳児だし、釣りにはもっと最適かもね」
「いえ、私に行かせて下さい」
「ん。 分かった」
無論、こっそり護衛はするが。
俺は極小の大小自動追尾魔法を。
彩佳はクワガタを。
颯太と理太くんは超速歩魔法で。
ヨーは・・魔力の感じから、たぶんレーザー系。
チホさんは何でも無い風で、大階段を登り始め・・4段目ぐらいで馬鹿ガキがチホさんに気付く。
いくら男時代よか耳が良くなったとは言え、この距離だと分からんけど馬鹿ガキの 『 ギガギガ 』 が、『 ギガゴギガゴ 』 って感じに変わったのだ。
チホさんを見つけ、悪意が膨れ上がった訳だな。
「チホさん・・攻撃系や防壁系は覚えてないんだろ?」
「この世界の人間なら、魔法使いで無くとも使える慣性制御や作用反作用は使えるけど・・気のせいレベルかな」
「チホちゃん、争いとか苦手だから・・人を傷付ける目的の魔法とかしんどいみたいー」
現代で、『 殺らなきゃ殺られる 』 って状況にはなかなか成らんしな。
優しさは美徳でも、優しさが正しいとは限らんよ。
「あっ、不良が走り始めたぜ!
オレ・・そろそろ行くぞ!?」
「もうちょい・・」
チホさんは、貧弱とはいえ・・確かに何らかの魔法を使っている。
チホさんの努力は無駄にしたくは無い。
ギリギリまで待つ。
あんな優しい少女の心を踏みにじる悪意は───
『日本人、捕まえ───ごっ!?
がっ!?
べっ!?
んごっ!?
ろげっ!!?』
「「「「「・・・・は?」」」」」
チホさんに近付いた馬鹿ガキが・・途中でスッ転んだ。
たぶん、あの辺の摩擦係数はチホさんの魔法でかなり低いハズ。
階段を急いで駆け降りていた最中だった馬鹿ガキは勢いが止められず、下まで全身を強く打ちながら転がり落ちてったのだ。
「やったぜ!」
「不良も死んでないね。
・・かろうじて」
「無色透明ねトラップ・・中々やるわね」
「チホちゃん格好いいー!」
・・たぶん、チホさんは馬鹿ガキがあの場でスッテンコロリンあいたたた~!
───ってのを期待してたハズ。
めっちゃ顔を青くしているけど・・まあグッジョブじゃね?




