16『種モミだか水だか。』
「アロス ダ アスェベタ……!?
アスェベタって、先輩が昔働いていたっていう……?」
な、何ナニ!?
いきなりクジャラさんが、ゼレバ君の先輩さんに剣を突きつけたかとおもったら……先輩さんが貴族?
『旧世代』っていうテロリストで、この魔物をアタシ達に嗾けたってコト!?
「さ・・『三者を越えし者』・・アタシ達はどうしたら・・?」
『取敢ず、自分の後ろに』
「『三者を越えし者』は、事情が分かるの?」
クジャラさんと親しげにしていた『三者を越えし者』。
パニくるアタシやゼレバ君、我関せずといったヒューさんと違って・・『三者を越えし者』は冷静に成り行きを見ているわ。
『彼の祖父とやらは、恐らくザーロス ダ アスェベタ。
兄のガロス、弟のデロスに子は居なかったと聞く』
「『三者を越えし者』もクジャラさんみたいに、その貴族様と会った事が有るの?」
『兄、ガロスとは会った。
ナンパされた』
「へ、へ~・・」
ドコまでホントか分かんないけど・・う、嘘は吐いてないわね。
「先輩、僕たちを騙してたんですか!?」
「違う!
・・いや、使命ではそうだ。
傭兵高校の生徒が邪魔なら足止めせよ、と」
「この・・クローン? 魔物を、オレ達が【ジート砦】に来たタイミングで呼びよせたのか?」
「オレじゃない!
寧ろ・・ゼレバ達を守ろうとしたんだ!」
クジャラさんが、アタシ達を見てきたから・・アタシは首を縦に降る。
先輩さん・・アロスさんは、嘘を吐いてないから。
ゼレバ君は・・複雑そうな表情ね。
「・・続けろ」
「ザーロス様は、領民の幸福を約束できるなら・・と【銀製王国】女王と今の貴族形態を約束したんだ。
・・だが、父上は魔法使いとして産まれなかった事もあり、歪み───」
「『旧世代』に入ったって訳か。
デロスが【ファフニール】に取り込まれたのと一緒だな」
「勉強家だな・・。
ソレはアスェベタ家の秘密なのに」
「一応、名だけとはいえ・・オレも【デロスファフニール】討伐隊の一人だからな」
「は・・?」
「イーストの奴もそうだぜ。
名前だきゃあ、討伐隊の一人だ」
アロスさんが顔を青くしているわ。
そのデロスって人・・。
「【デロスファフニール】は幹───現女王様が、80年前退治なされた。
当時彼女の側近だったオレ達は、魔王討伐後もその魔力を受けて若さを保っている」
「「「 ───っ!? 」」」
た、たしかイースト様が100歳以上で・・クジャラさんも100歳以上!?
「ま、まさか『三者を越えし者』も・・」
『ん? 自分は自分の魔力で生きてる。
2000年ちょい』
「へ、へ~・・」
よく分かんないけど、化物クラスの人間が魔王討伐隊ってワケね。
「あの・・」
「どうしたゼレバ」
「せ、先輩はどうなるんですか?」
「ゼレバ・・」
ゼレバ君は悲しそうにし。
先輩さんは申し訳なさそうにし。
クジャラさんは困ったそうにし。
「ゼレバ、お前はどうしたい?」
「正直、貴族の因縁とか分かんないですし・・先輩が『旧世代』の使命に背いて僕を守ろうとしたって言うなら・・」
「じゃあ助けよう」
「は?」
クジャラさんがアロスさんに突きつけていた剣を下ろす。
何でもないように。
「あ、あの・・良いのか!?
自分で言うのも何だが、オレは女王への裏切り者だぞ!?」
「正直、オレにも分からん。
オレは人を使う側じゃなく、人に使われる側だからな」
「なら・・せめて閉じ込めるとか」
「ウチの女王様がなあ・・気になった人間は元敵だろうと、どんどん味方に受け入れちゃう人だからなあ」
『自分は数千℃の業火で焼かれた後、漫画を見せて貰った』
「たぶんだけど、オマエ端折りすぎね。
ちなみにアタシゃ奴の世界に60年ぐらい閉じ込められてたね」
「へ、へ~・・」
噂だと女王は天然らしいけど・・。
「ただ、情報は吐いてもらうぞ」
「分かった。
といっても下ッパのオレは・・本来、傭兵高校の生徒を北東への道へ誘導する───ぐらいの役目しか与えられていないがな」
「確実にあの魔物に襲わせる為か」
「ああ。 本部の人間が【ジート砦】に仕掛けた " 鐘 " と呼ばれる制御装置の進路上にな」
【ジート砦】があの魔物の目的地だったから、アタシ達や傭兵高校の生徒達は逃げられたけど・・進路上だったらヤバかったのかもね。
「本部・・オマエ達が『旧世代』と呼ぶ者達の最終目的は【ジート砦】の奪還、女王の殺害───だ?」
あら?
アロスさんが・・観念したような顔で『旧世代』の情報を喋っていたら、急に困惑顔になったわね?
「く、クジャラさん・・80年前から生きてるっつったよな!?」
「あ、ああ」
「もしかして、女王の他の幹部も?」
「オレの爺さんとか、不老を望まない人間は天寿を全うしたが・・生きている奴は多いぞ」
「は、はは・・。
なんだ、オレが学校を守ろうと色々やったのは無駄か?
いや・・ソレで良い。
ソレが良いんだ・・」
アロスさんが泣き笑いしているわ。
肩の荷がおりたかのように・・。
「『旧世代』は、魔王討伐隊の生き残りが『女王と、その妹』後は精々『魔女』だけだと思っている。
『旧世代』の戦力は、さっきの魔物が5000匹。
ソレでオレの情報は全てだ」
「村破級が5000・・!?」
「傭兵団どころか、国すら───」
アタシとゼレバ君が絶望してて・・けど、クジャラさんと『三者を越えし者』やヒューさんは普段通りの顔。
「あんぐらいなら・・キツイけど何とかなるね?」
『ひゃっはー』
「源太さんとかチビッ子どもも居るしな。
姉妹にどうこう行く心配も有るまい」
寧ろ、懸念材料が無くなったって顔だわ。
「下ッパであるアロスに、『旧世代』の全戦力を通達していなかったとしても・・『旧世代』がオレ達の全戦力を見誤った時点でオレ達の勝ちだ」




