461『決着。 そして───』
「───ん、ううん・・」
「あ、目ぇ覚めた?」
・・んあ?
あぇ?
朝?
俺・・寝てたのか?
「ずいぶん、長く寝てたわねえ」
「彩佳・・」
何時もと変わらぬ姿の彩佳が・・傍らに居た。
ココは・・秋原家の、俺の部屋か。
自分の部屋のベッドで寝ていたようで、彩佳が看病 ( ? ) してくれていたらしい。
「お、おはよう。
面倒みてくれてたんか・・済まんね」
「はい、おはようさん。
ソレは言いっこナシですよ、お婆さん」
誰がお婆さんだ。
何時もの魔力切れ───
「───って、ヨランギは!?
颯太は!?
みんなは!?」
「落ちつきなさい。
アンタの作戦は、取敢ず成功よ」
「そ、そうか」
まあ、彩佳がこんな落ちついてんだ。
そうゆう事なんだろう。
颯太は側に居ない。
けど・・魔力パスは感じる。
───距離は有るが・・うん、元気そうだ。
他のみんなのは感じない。
まだ俺達は、パスの通じなくなる【空の口】の中の『青い世界』に居るのかな?
・・あれ?
なら、何で秋原家が『この世界』に・・?
「立てるかしら?
お腹へってる?」
「ん?
んー・・身体や魔力は大丈夫。
腹はへったかな」
「じゃあ、台所に行きましょうか。
なんか作ってあげるわ」
「済んません」
遠く離れた場所に、颯太以外にも何人かのパスを感じる。
コレは・・『三者を超えし者』と───あれっ?
ラカっ!?
ラカと、ラカの仲間の魔女たちっぽいのを感じる。
向こうも、俺の目覚めを感じたっぽいな。
「ラカのパスが・・」
「今の彼女は味方・・といえば味方よ。
屑には容赦ないけど」
「ま・・まあ、屑になら何しようと良いけど」
「地球人を滅亡近くまで追い込んで、スッキリしたんじゃない?」
壮大な憂さ晴らしですな。
彩佳がラカの事を説明しつつ、冷蔵庫を物色。
野菜やエビ等を取りだし、下ごしらえしている。
今のキノコ・・冷蔵庫からじゃなく、彩佳から直接───いや、気の所為だ。
きっと。
玉子に冷水を加え、小麦粉や片栗粉に混ぜている。
天ぷらかな?
朝っぱらから?
いや、言うまい。
天ぷら・・大好きですしね。
衣に酢を加えている。
カラッと揚がる一手間らしいな。
野菜から衣をつけて揚げる。
青紫蘇は裏面に。
キノコは全体に衣。
・・あのキノコからも、彩佳とのパスが───いや、気の所為だ。
たぶん。
火を若干強め、エビに衣をつけ油にソッと入れる。
油切りしつつ、つゆも作っている。
「・・・・」
「・・・・」
凄くゆっくりな時間が流れる。
もうずっと、バタバタしたり緊張したりしていたからなあ。
「・・はい、出来たわよ」
「有難う御座います。
・・ん、美味いよ」
「そりゃアタシも、自活が長いしね」
俺達が日本へ帰ってきて、【アジ・タハーカ】が現れて・・その騒動の最中に彩佳は【人茸】となった。
【人茸】になり、再構成された彩佳は・・実の両親からネグレクト気味だったのもあり、独り暮らしを始めたんだよな。
再構成・・か。
「・・なに、考えているの?」
「ん・・んー・・」
「ふん、どうせパパとママとの事とか再構成の事とかでしょ」
「・・・・イエス・マム」
そんな、表情に出てないハズなんだけどなあ・・。
「・・パパとママは───
まあ、奈々に任せたし・・敢えて会話したいとも思わないわ」
「そっか」
「再構成は・・アタシの中に魔女の『欠片』みたいなモンが入ったらしいって、オバさんに聞いたわね」
「欠片?」
「代々の王族がヤッてきた、屑の下種行為の、成れの果て・・だそうよ」
「・・そっか」
「【人土】達や自衛隊員の翻訳チートは、ソレより更に小さな欠片みたいね」
なるほど、魔女たちの記憶の欠片・・みたいなモンか。
「その小さな欠片が砕けた、更に小さな欠片の事を『魔力』と呼ぶみたい」
「ほほー・・。
やたら『魔力』が『人の心』と反応するのは、その辺が理由か」
「たぶんね」
先人の欠片が、今の俺達の為に。
今の俺達の欠片が、何時か誰かの為に・・だな。
「オジさんに入った欠片は・・オバさんの欠片だったらしいわよ?」
「へっ!?
か、母さんの欠片が父さんに!?」
「オジさんを気に入った魔女が、オジさんに入ろうとして・・オバさんが無茶したみたい」
当時の母さんは、まだダウンしていた頃のハズ。
ほんと無茶するなあ。
「───ああ、その説明の流れで・・アンタが、オジさんと女学園生徒たちとの仲を取り持った事・・オバさんにバレたから」
「げほっ、がはっ、ごほっ!?」
「あとオジさんに『【銀星王国】全ての女性に種付けすりゃあ良い』って言った事とか」
「言ってないんですけど!?」
あん時は確か・・・・?
【銀星王国】中の屑男を始末したら、女性たちが余るから・・みたいな流れから、どうせなら一番優良な遺伝子を持つ父さんに───
・・あれ?
「取敢ず・・合掌だけしとくわ」
「勘弁して下さい」
震えながら食事終了。
途中から、味がしませんでした。
「ふう・・御馳走様でした」
「お粗末様」
・・さて。
「颯太も、俺が目覚めた事に気付いたっぽいし・・俺も颯太の所へ行くかあ」
「・・そうね」
あ、そうだ。
「( 山柄さーん、皆さーん・・あれ?
おーい、魔女のみんなぁ? )」
・・あるぇ?
俺の中に居るハズの住人たちに呼びかけるも・・反応が微かにあるだけで、返答が無い。
なんか、企んでんのか?
自分の体内なのに、魔力パスが通じないってのも変な話だ。
「彩佳は・・」
「・・知ってる。
けどまず、みんなに顔を見せなさい」
「みんな?
・・ああ、家の外の【人土】ね」
彼等みたいに、パスは繋がってんだけど会った事は無い・・って人は、認識しづらいんだよな。
そうゆう意味では【人土】の7~8割方が、そう。
数も多いし、ついつい意識から外れやすいのだ。
玄関の戸を開け───
「「「「 御早う御座います、【巫女】様 」」」」
「あ・・うん。
お、御早う御座います」
物凄い人数と、何時にない真剣さに・・圧倒されちまったゼィ。
まあ・・大仕事を終えた【巫女】と会いたいって感じなのかね。
・・ん?
「そういや・・皆さんどうやって、この『青い世界』に?
この【空の口】の中の世界・・無理に突破するのは、俺でもちょいキツいんですけど?」
「そ・・ソレは───」
【人土】が言い難そうにし・・彩佳をチラリと見る。
??
「幹太には・・現状をまず、『見てもらう』つもりよ。
イッキに、事の顛末を説明するのは───幹太もアタシも疲れるしね」
「・・わ、分かりました」
彩佳が、そう言うと・・【人土】達は道を開ける。
・・な、なんだ?
「彩───」
「取敢ず・・現状を見なさい」
「・・・・分かった」
【人土】達が開けてくれた道を進む。
・・んん?
随分と綺麗な道だ。
ココは最終決戦があった場所から、そうとう離れてんのか?
ヨランギとの最終決戦があった場所は、魂の安全機構を解除した俺の一撃でメチャクチャになっていた。
アレは・・数日でどうこう出来るヤツじゃない。
ソレに・・建築物がチラホラと。
コレ等も、如何な【皆の巫女】として100%のチカラを出したとしても・・数日で整地・建築完了とは思えない。
「あ・・彩佳!
俺、どんだけ眠っていたんだ!?
まさか───一年以上とか・・!?」
「・・ソコの三叉路を右よ」
・・彩佳は、応えてくれそうに無い。
仕方無く、彩佳の言う通りに三叉路を右に曲がると───ココは山の頂上近いトコだったようだ。
麓が見える。
「・・こ、コレは・・!?」
絶句する俺に、彩佳がゆっくりと───『ビル群』を見ながら、クチを開く。
「ココは、青い世界じゃなくて実世界。
・・ヨランギとの戦いから、80年たった世界よ」
『何時もと変わらぬ姿』の彩佳の瞳が───俺を真っ直ぐとらえていた・・。




