460『魔王と英雄。』
「( なあなあ、源太ちゃんの事・・分かる? )」
≪( 分かるわよ、アナタの仲間でしょ? )≫
俺の中の魔女たちに呼びかける。
この感覚は・・アレだな。
始めて魔法を使った時に近い。
あの時は・・何故今まで見えなかったのかが不思議なくらい、魔力がハッキリと見えた。
ソレと似ていて、何故今まで聞こえなかったのか不思議なくらい魔女たちの声が聞こえる。
≪( 幹太さん、どうしたんだい? )≫
「( あ、山柄さん・・皆さんも。
ソッチに居るんですね。
身体・・有難う御座いました )」
≪( いやいや、【人土】として誉れだよ )≫
山柄さん達【人土】の皆が、魔女たちと一緒に『俺の中の部屋』に居た。
なんか、御互い挨拶しているっぽい。
魔女は、しょっちゅう新入りが来る場所だから遠慮するな・・って言いながら案内してるけど───君等が言う事? 一応、俺の中なんだけど。
・・住人だし、言う事なのかなあ?
「( ま、まあ良いや。
で、源太ちゃんなんだけど─── )」
≪何をボソボソと、喋っている!?≫
ヨランギが攻撃してきたけど・・ヘロヘロ攻撃なんか効かない。
颯太を人質にでも取ろうとしたか、颯太に駆け寄るけど・・既に颯太には超絶強固な防御を張り巡らしてある。
物理攻撃だろうが、ヴォイドだろうが、摂理操作だろうが、効きゃあしないさ。
取敢ずヨランギは放っておいて、魔女と会話再開。
「( ───って作戦なんだけど )」
≪( ・・と、突拍子もないわね。
あ、アナタ何時もそんな行き当たりバッタリじゃ駄目よ? )≫
≪(【巫女】様ですから )≫
【人土】達の声が疲れた感じなのは、たぶん気の所為。
「( 出来る? )」
≪(『出来る・出来ない』・・で言うなら、『出来る』わ。
ただ、ソレは・・アナタの安全度外視───って意味でなら、よ? )≫
≪( か、幹太さん。
───わ・・我等は )≫
一度は死を覚悟した。
・・けど。
【人土】の皆の命懸けの行為で復活した。
・・いや、俺の為に骨を折ってくれたというなら他の皆もそうだろう。
ジキアやザレやビタ・・ディッポ団長にリャター夫人にイーストさん達・・秋原家・・彩佳・・皆の『想い』を感じる。
それでも。
それでも、だ。
「( 山柄さん、皆さん。
今までのように『【巫女】様の御心のままに』と、言って下さい。
・・御願いします )」
≪( 幹太さん・・ )≫
「( 今のままだと・・ヨランギは、殺すしか無い )」
ヨランギは言った。
『森の民の樹に、自分の血肉を保管しており今の自分が死ねば『ソレ』に転生できる』と。
けど、コレで100%を語ったかは・・分かんない。
まだ、転生手段を残してそうなんだよな。
「( 殺しても何処に転生するか、記憶を持って転生するか、分かんない以上・・ココで決着をつけたいんです )」
転生スパンが、どんぐらいかは分かんないけど・・家族に仲間に恩人に、或いはその子孫に、被害を及ぼす可能性は残せない。
「( ディッポ団長に、思いっきり長生きするって約束しましたしね。
───死ぬつもりは有りません )」
≪( ・・分かり、ました。
我等【人土】は、【巫女】様の御心のままに )≫
≪( ・・ハァ。
この人達が賛成しちゃったら、私達も賛成するしか無いじゃない。
・・頑張んなさいよ? )≫
「( とぉぉうぜんっ! )」
誰があんな奴と相討ちになんか、成ってやるもんか。
≪( ま、ヨランギに裏切られて怒ってるのは私達も同じだし。
中には、賢者達に譲ったけど・・ヨランギが好きだった娘も多いしね )≫
「( どんだけタラシだったんだよ・・ )」
≪( あ、あら・・?
ああ、あの頃のヨランギは素敵だだだだったののよ?
・・うふ♡ うふふふふふふふふふ♡ )≫
不幸な人生、不幸な死を迎え・・茫然自失とした所をイケメンに慰められて───
コロッといった魔女は多いらしい。
( なんか・・ヤンデレっぽい人に庇われる程度には。)
「( ・・じゃあ、行きます )」
≪( 無茶はしちゃ駄目よ? )≫
「( はい )」
───どうせ、アンタは聞きやしないんでしょうけど───
・・ん?
今、ほんの微かに・・誰かの声が・・?
声元を探すも分からない。
まあ今は、突然無数の魔女や【人土】の声が聞こえるようになったんだ。
そうゆう声も有るだろう。
「【空の口】」
≪か・・カンタ君・・≫
【空の口】が俺を見て、恐怖する。
仕方無いよな。
魔王だ何だと言われていても・・一皮剥けば、ただの少女なんだ。
「俺は・・ヨランギを、封印する」
≪ヨランギは・・ヨランギは悪く無いの・・。
悪いのは、全部私で───≫
「最初の原因も、ヨランギの心をねじ曲げたのも・・王族のせいだ」
【空の口】が俺を見て、混乱している。
【空の口】の心の傷を ( ヨランギに邪魔されて中途半端になったとはいえ ) 癒して・・理性が戻れば、ヨランギの悪行も分かるだろう。
理性の無いうちに、ヨランギに唆されたとはいえ・・大事に想っていた魔女たちも裏切った。
ヨランギを止めたいという気持ちは、有るんだろう・・。
が───
さすが俺の親戚というか。
母親として・・見捨てられない気持ちもデカイんだろうな。
「・・・・でも、駄目だ。
ヨランギは、封印する」
≪───・・≫
≪な・・何をソコで黙っているんだよ、お母さん!?≫
この状況で、ウィンを責めるようなクチを聞くヨランギに天罰。
不浄なる者への、天の裁きを。
ア○クは回復要員じゃ無い。
「ヨランギ」
≪ひっ・・よ、寄るな!?
───そ、そうだ・・妻の筆頭にしてやろう!
特別に賢者たち、三者に命令出来る立場をやるぞ!?≫
「要らねぇよ」
まあ『三者を超えし者』には、俺の漫画を勝手に持っていくなと強制命令権が欲しいけど。
「今から、オマエを封印する」
≪やめっ・・!?≫
暴れるヨランギを防壁魔法で閉じ込める。
復活前までの俺なら、極大爆発魔法ですら破壊出来ないレベルのやつ。
≪くそっ、くそくそくそくそォ!
復讐してやる!
何度殺されようと必ず転生して、キサマの知る全ての人間を死より辛い目に合わしてやる!!
転生する手段は、森の民の樹以外にも有るんだからなあ!≫
やっぱりな。
なんか、今の俺が魔王みたいだなあ。
何度、勇者を殺そうと・・蘇生されてくる魔王の気分だ。
「防壁魔法の中に、【スライム細胞】を入れる」
頭の中で、例のお料理BGMが流れる。
てか、【人土】の一人がクチずさんでいる。
父さんや彩佳たちと共に日本から異世界へと旅立ったウチの一人で、俺が料理する度に手伝ってくれた女性だ。
本人は、完全に無意識っぽいが・・。
ついつい料理中、俺がクチずさんでいた事で彼女に移ったらしい。
・・なんか恥ずいなあ。
俺がヨランギを【スライム】まみれにした辺りで、ウィンとヨランギの表情が変わる。
≪まさか・・ヨランギを【人土】にするつもり?≫
≪はっ、そうゆう魂胆か!
ボクが【人土】に成れば・・キミに、絶対の忠誠を誓うとでも思っているんだな!?≫
ウィンの表情は、息子が殺されるぐらいなら・・まだ俺の奴隷の方がマシ───という想いなんだろうか。
( 別に【巫女】と【人土】は、主従関係じゃない( つもりだ )けど。)
ヨランギは、生きのびさえすれば復讐の機会は何時でもある・・といった感じかな。
「んー・・もっと酷いコト」
≪≪ なっ・・!? ≫≫
≪ま、まさか【スライム】にするとか・・!?≫
「んー・・?
・・んーふふっ♡」
ウィンとヨランギが、青ざめる。
ソレは・・限りなく良い手段だけど、最善かと言えば───ちょっと怪しい。
山柄さん達だ。
山柄さん達が、【スライム】化して・・ソレでも人間の意思や尊厳を失わかった。
山柄さん達とは、状況 ( 産まれながらの【人土】で、【スライム】に慣れている等。) が違う。
でも、ヨランギの生き意地汚さを考えると・・【スライム】化さえ、耐えきりかねん。
・・なので、もっと根本。
ヨランギが、ヨランギを『ヨランギ足らしめる』部分を奪う。
「行くぞっ!」
≪( コッチの私たちも、出来るだけ協力するわ! )≫
≪( 我等【人土】もです! )≫
ヨランギが、俺と颯太から抜き盗った魔女の魂も自由になり俺たちの周囲を漂う。
何人かは颯太の下へ ( おそらく、颯太の中で休んでいた魔女たち )。
俺の方へ来た魔女は・・再び俺の中に入ったり、『【空の口】の青い世界』から抜け出たり。
何となく・・ではあるが、彼女たちなら実世界に行こうと悪さはしないだろう。
( もし、したなら・・ソレは彼女らを迫害した方が悪いっつう事で。)
「なあ、ヨランギ・・」
≪なっ・・なんだっ!?≫
ヨランギの身体に、魔力を送る。
「オマエ・・。
なんで賢者とか、妻達に優しく出来なかったんだ?」
≪ぼ・・ボクは優しかったさ!
ボクの愛を否定したのはアッチだ!≫
「あっそ」
ヨランギの身体を、【スライム】が覆う。
「オマエ・・。
なんで自分の子孫たる女性たちに、優しく出来なかったんだ?」
≪ぼ・・ボクの政策は完璧だった!
ソレを男尊女卑だのと、自分勝手な言い種で───≫
「あっそう」
ヨランギの身体を、俺と【スライム】が捏ねくり回す。
≪───ぎょ───ぼ──がべ───じ───≫
≪よ・・ヨランギ!?≫
「くっ・・」
俺の中の魔女が言った 「 安全度外視 」 の言葉通り、俺への負担がデカイ。
なんせ、本来は魔女数人分で起きる現象なのだ。
魔女数人分の火球を作るのとは、根本が違う。
「でも・・やるっ!」
≪( ああ・・【巫女】様! )≫
ぐ、ぐく・・!
再び俺の身体の、崩壊が始まる。
さっきは、【人土】が助けてくれた。
もう、助けてくれる【人土】は居ない。
今度は、ヤバい・・かな・・。
───ほ~ら、アタシの言った通りになった───
あぇ?
───ま、アンタとは長い付き合いなんだし?
コレからも、付き合ってあげるわよ───
この声・・。




